可愛い娘と飲みたいな
「あ・・・先ほどの・・・」
「おぉ!お陰様でこうして酒場にも来れましたよ!」
・
・
・
あれ。静かだな。俺を確認した途端に、明らかに大人しくなったな。あんなに話が長い娘だったのに。これは嫌われてるのか?
しかし、俺の顔を見てテンション下げられると辛いな。助けてもらったのに、何も対価を払わなかったから怒ってるとか。
とりあえず、このままでは飯が食いづらい。
「お待たせしました~!エールに串焼きです。お連れ様は何にしましょう?」
「・・・じゃあ同じものを・・・」
「はいよ~」
そんなに嫌なの!?困ったなぁ・・・せめてお礼はしておこう。
「あの、助けて頂いたお礼に、こちらの支払いをさせて頂いても宜しいでしょうか?」
「え・・・いえ、大丈夫です」
「何もしないと、流石に私の気持ち的に辛いので、是非お願いします」
「はい・・・それでしたらお願いします」
渋々了承した感じだな・・・・まぁそれでもいいか。お礼位しないとね。
しばし、沈黙の時間が過ぎる。周りは皆楽しそうにしているのに、ここだけお通夜のようだ。
手も生えたし、装備も失わなかったので、お祝い的な飯のはずだったのが、この雰囲気は厳しい。
店員さ~~~ん!早くきてくれ~!
ようやくこの娘の注文も届き、料理に手をつける事にした。先に一人で飲むのは気まずいので、まだ一口も手をつけてない。
エールは元々ぬるいからいいが、少しだけあった泡は無くなり、串焼きも冷めてしまってる。まぁ、また後で追加を頼めばいいか。
「では・・・助けて頂きありがとうございます。乾杯」
「か・・・乾杯です」
ぬるっ!分かってても飲み物は冷たいと嬉しいなぁ。キンキンに冷えたビールが懐かしい。
本来なら氷魔法で冷やしてとか、ビールの作り方を知ってて売り出すとか、異世界モノのテンプレをしてみたい。
だが、氷魔法なんて覚えてないし、ビールの作り方なんかわからん。
知識無双も、内政無双も出来ない。せめて伝説の勇者とかの扱いで女神様や姫様に召還してもらい、誰よりも強くて、皆からも憧れられてて・・・、とかあればいいのだが、何一つとして出来そうな事がない。それでも大好きなゲームの世界に来れた事は純粋に嬉しいので、文句を言ってはダメだな。
「ごくごくごく···ぷはっ」
え、なんでこの娘は一気飲みしてるの。こっちの人達は皆アルコールに強いのかな。とても豪快だ。
「すみませ~ん、エール追加で!」
「あ・・・ありがとうございます」
「良い飲みっぷりで、見てて気持ちよくなりますね。お強いんですねぇ」
「いえ・・・そんな事はないです」
謙遜してるけど、これがここでは普通なのかもな。全然一気飲みしても雰囲気が変わらないし。
飲んだら少し明るくなる・・・とかだったら良かったんだけどな。泣き上戸、笑い上戸とかになっても困るが、この状況を何とかしたい。
「そういえば、お名前を伺っても宜しいですか?私はハガネと申します」
「え・・・ぁ・・・ハクデス」
声ちっさ!名乗りたくなかったのかな。
でも・・・ハクさんか。可愛い容姿に合うな。いずれは、お互い呼び捨てで呼び合える位仲良くなりたいもんだ。
「ハクさんですね。改めて、宜しくお願いします」
「・・・ハイ」
そんな嫌がらないで~~~!
おかしいな。俺の見た目も美男子なんだけどな。この世界では普通だから、特に何も感じないのか。
単純に話すのが苦手とも考えられるが、最初はめちゃ喋ってたからそんな事はないと思う。
こんな少ない会話の間に、ハクさんはもう4杯目を頼んでいる。どれだけ飲むんだ。こっちはまだ1杯目だぞ。・・・お金足りるよね。
こちらから話しかけていないと、すぐにお互い無言になってしまう。ガンガン話しかけてみよう。嫌がられても今更だ。
取り合えず、褒める所からはじめてみよう。
「ハクさんはお綺麗な上に、人助けをするような優しさ迄持ち合わせていて、凄いですよね。お酒も強いし。出会えた事を、私はとても嬉しく思います」
見た目、内面を褒め、反応を伺ってみる。心にもない事を言ってるわけではない。実際思ってる事を、ちゃんと言葉にしただけだ。いや~でもほんとに可愛いな。もっと話してみたい。
「え···えっと···ハイ」
ダメだこれ。別の話題にしよう。
「もしよければ、今度一緒に狩りに行きませんか?今、ソロの限界を感じてきていて。別にPTでもいいのですが、まずはペアでもどうですか」
本当はまだソロに限界は感じていない。ただ···寂しい!そろそろ仲間と狩りをしてみたい。それにハクさん可愛いし。
多分二人であれば、俺がアタッカー件タンカーで彼女がヒーラーをしてくれれば、森位なら余裕でいけそうだ。
問題はこの状態で、OKしてくれるかだな。下手をすれば、席を立たれる事を承知で誘ってみた。可愛い娘と行ってみたいし!
「え···えっと···ハイ」
さっきと同じ返事かいっ!と、いうより良いんだ!誘っておいてあれだが、そこに驚きだ。
気づけば顔も赤くなってるし、流石に酔ってきたのかな。
別に女性を酔わせて無理やり誘ったわけじゃないぞ!
「ありがとうございます。それでは明日、村の入り口で朝日が昇る位に待ち合わせましょう。宜しくお願いします」
かなり強引に決めてしまったが、多分この娘に任せたら決まらないだろ。
「え···えっと···ハイ」
そればっかだなっ!!