オルフェンとの戦い その2
「セラ、少しだけ休んでくれ。この後は多分交代出来ない」
「分かった。少し休んだら、メイン盾をやらせてもらう」
HPは既に9割方回復していると思うが、疲労の色がかなり濃くなっている。当たり前か。圧倒的に自分より強く、大きい相手と戦うだけでも精神的にやられるのに、自分の背後には100人の命がかかっている。
もし誰かが死んでしまえば、その人の友人、知人、家族が悲しむのは火を見るよりも明らかだ。相当なプレッシャーになっているだろう。それでもセラは戦わないという選択肢は選ばない。
パラディンは精神的にもやられてしまったようで、回復は終わっているが前線には復帰しない。後方に下がりやすい理由として、ヒーラー達を守ってもらう様に伝えた。
心が折れたか・・・だが、彼を責める事は誰にも出来ない。普通はあんな奴と戦おうとしないし、盾を持って正面に立てただけでも大したものだと思う。
もう少しセラを休憩させてやりたいのだが、テンプルナイトが剣と盾を握ってられず手放してしまい、今すくい上げの攻撃を受け、かなり空高く舞い上がって行った。
あのまま落ちたら死んでしまうと思ったが、ヒーラー達が空中のテンプルナイトへヒールをかけ、アタッカー達がちゃんと受け止めてくれた。
息はある様だが、戦線復帰は無理そうだ。
「セラ、すまない。また準備をしてもらえるか」
自分の婚約者を矢面に立たせ、俺は後方からヒールだ。こういう時に、やはり少し歯がゆい。
「もちろんだ。ゆっくり休めたし、もう大丈夫だ」
そう言いつつも、立ち上がった後少しふらついていた。心配をかけまいと、気丈に振る舞ってくれているのが分かる。誰よりも死ぬ可能性が高い、レイドボス討伐のメイン盾だ。
出来ればこのまま休んでいて欲しい。その上で撤退指示を出してしまおうか、と情けない考えが頭を過る。でもそれは出来ない。何の為にここへ来たのか。何の為にオルフェンを討伐するのか改めて思い出す。
セラに死んで欲しい訳じゃない。ふらついてる女性を死地に送りたい訳でもない。だけど、俺は最前線にセラを送り出す。
「セラ、最後迄頼む。絶対あいつは倒す」
「応!!」
「セラが戻るぞ!楽園の管理者は再度最前線へ!」
既にシリエンナイトが必死で戦ってくれていたが、どうみても時間の問題だ。俺の声が聞こえたのだろう。苦しそうな中、一瞬安堵の色を見せる。
「待たせたな!交代だ!」
「すまない、助かる!」
セラがヘイトをかけつつ、シリエンナイトに声をかける。上手くメイン盾のスイッチが行えた様だ。それと同じく楽園の管理者も最前線へ再び立つ。
各自セラへ一声かけ、自分の役割を全うする。皆強い女性達だ。無事に帰れたら、皆を労いに酒場へ繰り出そう。
セラが改めてオルフェンに対峙し、余計な移動がなくなり戦線が安定する。
アタッカー達もMPを考えながら、しっかり攻撃を続けてくれている。普通ならタゲを取りたくないから、攻撃の手を緩めてしまう人もいるものだが、全員全力で戦ってくれている。
今オルフェンのHPはどのぐらい削れたのだろうか。外見の変化が無いので良く分からない。知能は間違いなくあるのだろうから、最後まで気を抜く事は出来ない。
安定したまま、オルフェンのHPを全員で削り続ける。
交互に休憩しつつ、既にオルフェン達に接敵してから2時間以上は過ぎただろうか。オルフェンだけで、既に1時間以上戦っている。セラだけではなく、全体的に疲労の色が見えてくる。
後どれぐらいで倒せるか全く分からないので、ゴールの見えないマラソンをやらされている様なものだ。しかも命がけ。そりゃ誰だって疲れてもくるだろう。
出来る限り声を出し、全員を鼓舞し続けているが、そろそろ何か変化が欲しい。俺達はこいつを倒せると言った様な変化だ。このままでは全員の心が折れてしまう。
その時オルフェンに変化が起きた。6本ある手の内の2本が地面へ轟音と共に落ちたのだ。幸い巻き込まれた人は居なかったが、まさかそんな演出があるとは。
多分ではあるが、残りHPに応じて落ちるのか、もしくは自分で使えなくなった手を斬り落としたのか迄は分からないが、戦力ダウンには間違いないだろう。
ゲーム的に考えれば、3分の1のHPが削れて2本落ち、3分の2のHPを削ればもう2本落ちる。と、言ったところだろうか。過度な期待は良くないが、ありがたい。
「皆!オルフェンはちゃんと弱っているぞ!この調子だ!!」
多少なりとも先が見えたからか、全体的に少しだけ元気になる。だが、先ほどの予測が正しかった場合、後2本の腕を落とす迄、また1時間以上かかる可能性があると言う事だ。これは想像したくない。
引き続き、交代で休憩を取りつつ、常に攻撃を続けていく。セラだけは全く休憩を取れていない。
最悪シリエンナイトはまだ心が折れていないので、一度位ならセラと交代する事も可能だ。だが、セラはもう交代する気は無いし、実際シリエンナイトが耐えられる共思えない。
まだまだ討伐迄時間がかかるだろうが、セラに頑張ってもらうという選択肢しか、俺には選べなかった。
この時俺はまだ危機感が足りてなかった。安定してこのままいけるかもと、思ってしまっていた。