第9話 俺とチーム名クオン
クオンとウィスプ達が遊んで···いる間に、俺は祠に近寄る。寂れた祠に見えるが、何故か近寄ることが出来ない。ただ真っ直ぐに前へと進むだけだなのに、気付けば祠と違う方向へと進んでいる。俺が進む方向を逸らされているのか、それとも祠が逃げているのかさえも分からない。
クオンとウィスプ達の鬼ごっこを見ていても、ウィスプは全力で祠の周りを飛び回り、クオンもそれを追いかけている。だが、祠には触れるどころか、掠めることもない。
「特殊な力に守られてるのか?」
俺の独り言に反応したのか、黄色の光が明滅してくる。俺の前に出てきたのは、ウィスプのカンテ。鬼ごっこを良く見れば、追いかけられているのは、青い光のルークと、白い光のメーン。カンテは俺に隠れて、上手く鬼ごっこから抜け出している。
いや、少し違うのかもしれない。ウィスプを追いかけまわすクオンだが、俺には突っ込んでこない。近くに来ても、必ず迂回する動きをみせている。
「カンテ、クオンの動きのクセを見抜いたのか?」
再び黄色の光が明滅して、俺の言葉を肯定する。
「そうか、それならカンテは俺に付き合ってくれ」
幾つかの質問をカンテに投げかけると、肯定の場合は激しく明滅し、否定する場合はゆっくりと明滅する。そしてこの祠は、寂れて見えるが特殊な力を持っている。周りに設置されていた燭台も、祠の存在を隠すために設けられた結界。だが、その結界はゴブリン達に破壊されて機能を失ってしまった。
「そうか、俺なんかと契約して大丈夫だっのか?」
俺が一番気になったのは、そんな使命を担っていたウィスプをここから連れ出して問題が出てはマズい。しかし、それには今までで一番激しい明滅を見せる。クオンに追い回されても、ウィスプはこの祠の結界から解放されたいと願っている。
そのカンテの激しい明滅に鬼ごっこが止まり、クオンが近付いてくる。
「どうしたの?」
「ここから、早く出た方がイイってさ。いつゴブリンが現れるかも分からない」
「そう、なら仕方ない」
そこで鬼ごっこは終わり、再び洞穴の中を先へと進み始める。ゴブリン達が洞穴の中に侵入してきたのだから、何処かに出口がある。それに、松明の灯りだけを頼りにして洞穴を進んできたのなら、出口は近い気がする。
「集合」
クオンが号令をかけると、ウィスプ達は一斉に横並びとなって整列する。俺の前ではなく、クオンの前に。
「分かってる。ご主人様を守るのが使命」
その言葉に、激しく明滅するウィスプ達。俺としては、召喚契約を結んだ精霊に優劣はないつもりだが、精霊達の中では集団として機能する為の、役割や構造が必要になる。
「じゃあ、それぞれの持ち場について」
次のクオンの言葉で、ルークは俺の前方に、メーンは背後、カンテは傍で待機する。それに満足したのか、クオンは俺の影の中へと潜ってしまう。それは影の中で休む為ではなく、クオンの最大限の力を発揮するのは影の中だから。
(さあ、先を進みましょう)
再びクオンの指示に従い、洞穴の先を進みはじめるが、予想を裏切って先は長い。ゆっくりと下に向かっているのは分かるが、さらに半日以上は経っている。精霊の魔力と融合した俺の体に、疲れは感じないし眠気もない。
問題なのは、どうやってゴブリンが祠まで辿り着いたのか?持っていた松明は、マジックアイテムでなく普通のもの。燃え尽きてしまえば、灯りは無くなる。途中で残骸も無ければ、足跡すら見つからない。
「クオン、他に道はないのか?」
(ここだけ。他には無さそう。どうしたの?)
「何の痕跡も無いのが気になってな」
それでも、俺はこの洞穴に転移させられたのだから、どうしようも出来ない。変化を起こすためには、洞穴を進むしかなく、さらに続く長い道のりに次第にその不安の消え、この状況に慣れてもくる。
今は持て余した時間を有効活用するため、無属性魔法の修練を行いながらの移動。右手にはショートソード、左手には盾。盾といっても、直径がショートソードと同じ長さのサークルシールド。何故かといえば、単純な形状は簡単にイメージ出来るから。今の俺の熟練度では、ショートソードを維持しつつ、盾も具現化するのは難易度が高い。だからショートソードの長さとサークルシールドの直径は同じで、一番簡単な形状の円形となっている。
それを今は、宙に浮かせて手の動きに合わせて自在に操る。最大の問題だったのは、魔力で作り出したもの軽さ。攻撃するにも受け止めるにも、軽すぎるという致命的な弱点。
しかし、持て余した時間の中で、利点も見つけた。物質化魔法も魔法の1つで、俺の体の近くならば手から離れても自由に動かせる。今の距離は2m程でしかないが、離れた相手に攻撃し、余裕をもって攻撃を受け止めれる。
(風に揺れる草木の音、外が近い)
使えそうな手応えを感じた時に、遂に洞穴の中に変化が起こる。クオンが風の音を聞き取った後に、久しぶりに日の光が見えてくる。暗い洞穴の中に射し込む光は、それだけで洞穴も心の中も温めてくれる。