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第6話 初めての決断

(ゴブリンよ)


 クオンが先にいる魔物の名を告げてくる。


 異世界転移した時点で、魔物との戦いは避けて通れない。それは分かっていたつもりだが、こんなに早く魔物と遭遇するとは思っていなかった。魔物と戦うのは、この洞穴を抜けてヒケンの森に入ってからだったはず。


 改めてこれから、どう物語が展開するのか考えてみるが、頭の中からは洞穴を抜けてから先の物語はスッポリと抜け落ちて出てこない。

 そこで思い出す、削除ボタンを押した時に現れていたメッセージ。「削除すれば、あなたも」の続きは何だったのだろうか?だが、今更どうする事も出来ない。


(どうする?引き返す?)


 クオンが影の中から聞いてくる。仮にゴブリンと戦うにしても、ここで戦う必要はない。戦う準備も出来ていないし、それに俺は武器すら持っていない。


 もう一度洞穴の先を覗くと、中の空間は広く開けている。ゴブリン達の持つ松明では、この空間の奥まで光が届いておらず、これまでと比べるとかなり大きな空間が広がっている。だが一番違うのは整備された平らな床。ただ平らなのではなく、石畳が敷かれ人の手が加えられている。


 そして、ここから見えるゴブリンは5人。片手に松明を持ち、もう片方の手には木の棒を持っている。棍棒ではなく、細い枝を落としただけの棒にも見えるが、それでも無手の俺と比べれば攻撃力は高い。


(こっちに気付いてない。それにゴブリンは5体だけで、他に仲間はいない)


 悩む俺に、さらにクオンは今の状況を告げてくる。クオンの聴覚で他のゴブリンの集団を感じないなら、近くにゴブリンの群れはいない。

 俺に気付かず無防備な背中を見せているゴブリンは、5体いても誰かが周りを見張る素振りもなく警戒心は薄い。皆揃って何かを囲み、手に持っている木の棒を振るっている。そして、次第に叩き付けるゴンゴンッという音が大きくなってゆく。


 もう少しだけ身を乗り出してみると、ゴブリン達の囲んでいる中からは、松明の灯りとは違う光が見える。そして、クオンも影の中から頭を出して、ゴブリン達の様子を伺う。


「ウィル・オ・ウィスプか」


 小さな声ではあるが、思わず声が出てしまう。それでも、ゴブリン達が出す音は多少の物音でも掻き消してくれる。そして、クオンも俺の方を見ると頷き、ウィル・オ・ウィスプの存在を肯定する。


「戦うの?」


 クオンに聞かれても、直ぐには答えが出せない。ゴブリン相手なら勝てるのか?でもこの開けた場所で、5体を相手に無理に戦う必要はない。最優先するのは、ウィル・オ・ウィスプを助けることであっても、ゴブリンを倒すことじゃない。


「戦うなら、ゴブリンの動きを止める」


 なかなか答えの出せない俺に、さらにクオンが戦いを想定した提案をしてくる。


「動きを止めるって、何をするんだ?」


「ボクは影の精霊。ボクに影を傷付けられたら、しばらく動けなくなる。見ててっ!」


 クオンが俺の腕の影を軽く引っ掻く。そうすると、俺の体は全く動かない。2·3秒程度の短い時間だったが、腕だけが動かないのではなく体全体が硬直し動かせない。恐らく呼吸すらも止まっていた気がする。


「ゴブリンの動きはどれくらい止めれる?」


「ゴブリン相手なら、30秒は大丈夫」


「俺なら?」


「うーん、今のが限界だと思う。契約者には危害を加えれないの。きっと、これ以上は無理」


「そうか···」


 俺とゴブリンを比較すれば、おおまかではあるが強さの基準が見えるかと思ったが、そんな簡単にはいかない。もちろん、ステータスが可視化出来る都合の良い世界じゃない。


「どうしたの?ダメだった?」


 当てが外れて芳しくない反応をした俺に、クオンの声も寂しそうになる。


「ごめんごめん、そうじゃないんだ。それよりも、クオンは危なくないのか?」


「ゴブリンの影の中へと直接移動する。ゴブリンくらいなら、ボクの存続には気付けない」


 クオンに問題がなければ、後は俺次第。そして、クオンに返事をする代わりに、物質化魔法を唱える。


「マジックソード」


 右手に現れたのは、薄っすらと青く光る透明なショートソード。マジックボールはすんなり出来たが、流石に形状が複雑になると、今の熟練度ではショートソードが限界。それでも、動かないゴブリンを仕止めるならショートソードで十分。


 それに幾らデスクワーク中心で運動不足の俺でも、50mほどの距離なら10秒もかからない。それに今の俺の体は、元の世界の体と一緒じゃない。飛散しそうになった体を繋ぎとめる為に、精霊の魔力と融合してしまった、半人間半精霊の体。半日以上も洞穴の中を進んでも、息切れもしないし疲れすら感じていない体は、元の体とは性能が違う。


 無防備に背を向けているゴブリン達に向けて、全力で走り出す。最初の踏み出した1歩目で分かる、今までにない加速と経験したことのない疾走感。

 そして、クオンも加速する俺の後をしっかり付いてくる。今まで先導していたクオンは前に出ず、俺の影の中へと消える。


(行くよ、見ててボクの力)

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