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第39話 毒の精霊ブロッサ

「「名付けを!!」」


 こうなることは想像していたので、予め幾つかの候補は用意してある。後は、その中のどれにするかをエイヤーで決めるだけ。

 しかし、ここでも頭がズキリと痛む。開き掛けた口が止まると、さっきまで覚えていた名前すら思い出せなくなる。さらに痛みが激しく鮮明になれば、思考することさえままならず、全ての感覚が麻痺し始める。


 何も見えない、何も聞こえない、何も感じない。そんな空間を漂っていると、急に頭の中に声が響く。感覚はないが、それを声に出してみる。


「ブロッサ」


 その瞬間、全ての感覚が元に戻る。色が戻り、目の前には俺の言葉を待つムーアと、毒の精霊の姿がある。まだ、名は聞こえてはいないようだ。


「名は、ブロッサ」


「イイ名。私ハ、ブロッサ。ムーア、覚エテナサイ」


 短い了承の意と、ムーアに宣戦布告した毒の精霊は、ブレスレットの中に消える。ここで名を呼べば、ブロッサが召喚され再び姿を現す。それは、新しい女精霊の戦いを予感させる。

 クオンとムーアの争いは、ムーアが引いて事なきを得た。しかし、精霊が増えれば増えるほどに、相性や関係性の問題が生じる。それは、元の世界だけではなく異世界でも同じ、さらには人間だけでなく精霊も同じことに、少しだけ辟易する。


 召喚することに躊躇いが生まれ、直ぐに毒の精霊の名を呼ぶことが出来ない。しかし、俺の意に反してブレスレットが反応する。


「どうして?」


 ブレスレットの中から精霊が出てくる。まだ、名は呼んでいないが、ブレスレットの中に居る精霊は、毒の精霊のブロッサしかいない。

 そして、飛び出してきたのは、全く見たことのない赤茶の髪の女の精霊。髪はハーフアップで頭の上でお団子をつくっている。ほとんどヒト族と見た目は変わらないが、指先だけが少し丸く膨らみ、蛙の名残を感じさせる。


「ブロッサなのか?」


「そうヨ。契約の力とご主人様の上質な魔力で、進化することを決めたノ」


「でも、まだ俺は召喚してないのに···。どうして?」


「ムーアは説明してないノ。それは駄目ヨ」


 ムーアは、俺以上にブロッサの姿に衝撃を受け、完全に固まっている。アシスの誕生以来ずっと男だと思っていた。あの低い声と辿々しい話し方では、勘違いしても仕方がない。


「じゃあ、私が説明すルワ」


 召喚契約には、お互いの関係性が大きく影響する。従属するのか、それとも対等な関係を求めるのかで、精霊の行使出来る力が大きく変わる。従属するのであれば、精霊が行使出来る力は契約者の力次第。対等な関係であれば、精霊本来の力が発揮出来るが、思い通りに命令出来ない。


「俺達の関係は、どうなってる?力を発揮するなら、対等な契約なんだろ」


「違うわ、従属契約ヨ。ご主人様の持つ、膨大な魔力に全てを依存してルワ。この魔力が無ければ、存在出来ナイ」


「何でそうなる。俺は、そんな関係性は望んでないぞ。一方的に、契約は成立しないはずだろ!」


「従属じゃ駄目なノ。それじゃあ、ワタシ達の存在価値なんて意味がないノネ」


 ブロッサの目は潤み、それを見せまいと俯く。しかし、落ちる涙は隠せずに跡をつくる。


「やっぱり、ゴブリンにイイように玩ばれて、存在なんて消えてしまうしかないノヨ。精霊は死なないから安心シテ。存在は限りなく小さくなるダケ。千年もあれば、また元に戻レル。少しだけでも、夢を見せてくれて有り難ウ」


「ちょっと待て。そんな慌てて答えを出さなくても、ゆっくり考えればイイだろ」


「いいのね、ゆっくり考えテモ。後はムーアに任せルワ」


 話が振られて、固まっていたムーアがクスクスと笑い出す。


「ゆっくりと答えを出すなら、千年くらいは待つわ。契約の精霊の前で嘘は許されない。覚悟しておくのね」


「千年って···、どういうことだ?」


「精霊だから仕方ないでしょ。百年くらいは一瞬なんだから」


 俺はまんまと嵌められたことを知る。ブロッサもムーアと同格の中位精霊で、永きを生きる精霊だと思い知らされる。


「ありがとう、ご主人様」


 頭をペコリと下げたブロッサは、少し屈んで胸元を見せながら、上目遣いで俺を見てくる。何故か頭の高い位置にあったお団子が低い位置に移動する。


「ブロッサ、何やってるの?こんな時に!」


「ご主人様の魔力だけじゃなく、性格や趣向も知ル。このやり方が最も効率的ナノ。ムーアは少し、制約が多いから出来ないデショ」


 巫女姿であることは、ムーアが酒の精霊でもあり、神々との繋がりがある事が大きく影響している。そこは精霊の中でも特殊な存在で、全てを思い通りには出来ない。巫女姿や髪型だけでなく、それ以外にも制限がある。


「髪型を変えることに、何の意味があるっていうの?」


「ワタシの方が自由な行動が出来て、女子力も高イ。ハニートラップだって仕掛けられるかもしれないノヨ」


「仕方ないわね。それなら、ちゃんと情報は共有しなさい」


「ちょっと待て。俺の目の前にで、なんて会話してるんだよ」


「あら、とっておきの従属契約って言ったでしょ。一番の使命は、契約主を守ることなの。召喚されていないから、契約者を守れなかったなんて、あってはならないことよ」

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