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第32話 テイム契約

(ゴブリン)


 クオンの声で一気に緊張感が高まる。永遠を生きる精霊との駆け引きは、頭の中から消えてしまう。しかし、クオンの指示に従って森の中を進んでも、ゴブリンの姿はどこにも見当たらない。


 クオンも音を感じ取ってはいるが、上手く近付けないでいる。薄暗い森には何の変化もなく、動物達の動く音さえ聞こえない。あまりの変化のなさに、影の中からはウィスプ達も飛び出してくる。


「カンテ、見えるか?」


 しかし、カンテはゆっくりと明滅し、やはりゴブリンの姿は見当たらない。


「大丈夫よ。ここで合ってるわ」


「でも、何にも見つからないぞ」


「そうよ。あったはずの池が、見つからないんですもの。ゴブリンなんて見えなくて当たり前よ」


 湖の近くには、毒の精霊が棲みかとする小さな池がある。湖は竜種のブレスで出来た穴に水が溜まったものだが、毒の精霊の棲みかは規模も小さく元からあった池になる。湖とは比較にならないが、森の木々だけで隠せる程の小さな池ではない。正確な場所が分からなくても、近くまで来れば分かるほどの大きさがある。その池が、見つけれないなずがない。


「隠匿の結界が張られているのよ。でも、貴方の相棒さんは誤魔化せない。そうでしょ?」


 そこで、クオンが影から出てくる。ネコ型で出てきたクオンは、すぐにヒト型へと姿を変える。


「あら、思っていたよりも可愛らしいわね」


 しかし、俺の知っているクオンと少し違って見える。どこか大人びた雰囲気で色香さえ感じ、契約が強化された影響はクオンにも及んでいる。


「ボクが、ご主人様の一番精霊」


「やっと、出てきてくれたわね。やっぱりクオンも想像した以上。ネコ型にもヒト型に姿を変える精霊なんて、久しぶりに見たわよ」


 精霊は、理想の姿を求めて進化する。アシスは魔法の世界だけに、強い力を得るためには、どうしても言葉の力が必要になる。無詠唱魔法もあるが、最大限の力を発揮するには、言葉に込めた魔法が必要となる。それが故に、力のある精霊は自然とヒト型へと近付く。

 しかし、ヒト型に近付けば近付く程に、聴覚や嗅覚といったスキルは失われる。精霊であっても、全てを網羅することは出来ない。クオンは、影の精霊の能力と相性が良いネコ型の能力を維持する為に、どちらの姿にもなれるよう進化した。


 そして、ヒト型のクオンは自身の体を確認するように、体を軽く動かす。


「どうかしら、私の力は信用してもらえた?」


「毒の精霊は使えるの?」


「どうやら、認めてくれたようね。アイツは役に立つわ、私が保証する。助けれるなら、とっておきの契約で縛ってもあげるわ」


「うん、そうして。それと、コハクも契約させる」


「クオン、ちょっと待て。そんな事が出来るのか?」


 恐らく契約主は俺で、何も言わなければ勝手に話が進んでしまう。


「うん、名付けも終わってる」


「ええ、そんなの簡単よ。私は契約を司る精霊よ」


 契約は、精霊の召喚だけかと思っていたが、テイムも契約の一種になる。精霊を召喚するには、特殊なスキルが必要になるが、俺にはそれを可能にするマジックアイテムのブレスレットがある。

 獣とテイム契約するには、意思疎通出来る能力が必要になるが、俺にはクオンがいる。それが、テイム契約することを可能にさせてしまう。


「でも、コハクがどうしたいか聞いてみないとダメだろう」


「そんな野暮なこと聞くの?」


「コハク、出てくる」


 クオンがコハクを影から呼び出すと、コハクの体は一回り小さくなり、体に変化が表れている。


「やっぱり、契約は嫌だったんだろ。体が小さくなるなんて、少し遣り過ぎじゃないか?」


「違う。オラは進化すたんだ」


「これの、どこが進化なんだ?」


 そう言った後で、会話した相手と目が合う。俺の視線は、目の前のトラに釘付けになってしまう。


「今、喋ったか?」


「だから、進化すたんだ。オラは喋れんだ」


 クオンは納得し頷き、これがコハクの納得した進化の姿らしい。


「これは、契約よ。テイムに応じた代わりに、コハクは貴方の力の一部を受け継いでいるのよ」


「話せることが、俺の力?」


 アシスでは言葉に力があるといっても、会話出来ることが俺の力ならば、それは誰だって持っている。俺の力が弱いから、コハクの体も萎んでしまったと思うと、少し複雑な気持ちになる。


「精霊と融合し、魔力を糧とする体よ。無駄なものが一切削ぎ落とされた、理想の体を手に入れたのだから、テイムくらい安いものよ。勿論、それだけじゃないけどね」


 俺の心配をよそに、コハクはチラチラとクオンの方を見ている。それが、コハクが本当に願ったもの。精霊と獣の叶わぬ恋ではあっても、それを誰も止めることは出来ない。


「コハク、この近くに池があるの?」


「オラ、知らねーぞ。そんなもの、見たことも聞いたこともねーぞ」


「うん、やっぱり隠匿の結界。コハクはゴブリンの臭いを辿る。ボクは音を探す」


 それだけを言うと、クオンは再び影の中に潜ってしまう。コハクは葦の草むらで、大きな失態を犯しただけに、再びクオンから仕事を任され張りきりだす。

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