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第28話 酒の精霊

 森の中から出てきたソーギョクは、ソーサに先導され一直線に俺の方へと向かってくる。ソーショウではなく、俺の前に立つと、真っ直ぐに俺の顔を見つめる。


「ソーギョク様、こちらがカショウ殿でございます。鐘の音が告げた迷い人で間違いありません」


「そうか、やはり間違いはなかったか」


「はい、鐘の音が鳴って始めて現れた、生きている迷い人。これは、今までとは明らかに違います。我らの救世主となる可能性は十分にあります」


 ソーギョクは俺の前に立ちはしたが、俺を無視してソーギョクとソーショウの会話が進む。しかし、ソーギョクの視線は俺を見つめたままで、どこか見透かされている気がする。

 オニ族族長が、アシスでどれくらいの立場なのかさえ知らない。広大な森の中の小さな集団なのか、国のような大きな集団。はたまた、族長には宗教的な意味合いがあるのかもしれない。


 そして最大の悩みは、俺がどう振る舞えばよいのか分からないこと。もしかして、俺が先に話しかけなければ、ソーギョクは俺に話しかけてこないのだろうか?しかし、礼儀やマナーなんて知るわけがない。


「ほらね、間違いなかったでしょ。私の勘は外れたことがないのよ」


 ソーギョクにさえどう対応したら良いか分からないのに、さらに後ろから別の存在が現れる。森から出てきたのはオニ族だけで、ソーギョクだけが唯一の女性だったはず。


 それなのに、ソーギョクの後ろから出てきた女も、ソーギョク以上の存在感を示している。頭に角はなく身長も俺と変わらないが、天色の髪の長い髪を後ろでまとめ、平元結に白衣緋袴の巫女の姿。物静かな雰囲気だが、くつくつと悪戯っ子のように笑っている。

 ソーショウは、この森にはオニ族と気まぐれなドワーフしかいないと言っていた。ましてや、ヒト族なんていないと···。


「はい、酒の精霊様のお導き通りでございます」


「精···霊···なのか。しかも、勘だって!」


 悩んでいたことが一瞬にして吹っ飛び、思わず突っ込んでしまう。精霊のくせして、勘と言い放つなんて胡散臭い。しかし、ソーギョクもソーショウも全てのオニ達が跪き、この場で立っているのは俺しかいない。


「あら、何も分かってないようね。女の勘を理解出来ないようじゃ、貴方の経験もまだまだなのね」


「厄介なヤツだな···」


 思わず漏れた心の声に、周りは凍り付いている。沈着冷静であまり感情を表に出さないソーショウは、顔から血の気が引き固まっている。ソーギョクも表情こそ変えていないが、目からは困惑が窺いしれる。


「心の声が漏れてるわよ。それも、駄々漏れよ」


 今度は巫女姿には似合わない、大笑いに変わる。オニ族としては、許されない非礼だったのだろうが、目の前の精霊は気にしていないどころか、逆に楽しんでいる。


「ああ、まだまだ経験不足でな。修行して出直してくるよ。次に、会う時までには、立派な大人になってるさ」


 精霊であろうがなかろうが関係ない。礼節なんてクソ食らえだ!今は、深く関わる前に退散するしかない。


「あら、中位精霊の私と契約してあげてもイイのよ。貴方には、精霊が必要なんでしょ?そのブレスレットは、普通のものじゃないわね。女の勘だけど!」


「···何故、それを?」


「どれくらい、精霊をやっていると思っているの?アシスが誕生した時からの精霊よ。それに、貴方の一番欲しいものを私は持ってるのよ」


 原初の精霊達が、8つの理に魔力を流し、万物と数多の精霊が誕生した。今でも、様々な精霊が誕生しているが、アシス誕生時の精霊であれば、アシスの世界を知り尽くしているはず。異世界転移した俺が、最も欲しいものは、この世界の知識。今はクオンに頼りっぱなしだが、それにも限界がある。


「一体、何の精霊なんだ?」


「ふん、やっと私に興味が出たようね。聞いて驚きなさい。酒の精霊よ!」


「···」


 それを聞いて言葉が出ない。この森に居るのは、オニ族と気まぐれなドワーフだけ。それは、ただの酒好きな輩の集まりでしかない。


「どう、驚いたでしょ。私の契約の条件はね···」


「イヤ、俺には勿体ない。俺なんかと契約されたら、オニ族やドワーフ族も困るだろ」


 自然と右足が一歩下がり、体はこの場から逃走する準備を始める。


「ちょっと待ちなさい!酒の力を知らないのね。神の加護が与えられるのよ!それでも、必要ないかしら?」


「俺はこの世界に転移して、死にかけたんだ。助けてくれたのは、知らない精霊。神なんて、殺そうとしても、救ってもくれなかった。そんな神が、俺に加護なんて与えるわけないだろ」


 言葉にしては出さないが、アシスの神なんてクソ食らえだ!元々、神の存在は信用していなかったが、危害しか与えない神ならば居ない方がイイ。


「あら、神々が嫌いなの。益々、私達気が合いそう。じゃあ、勝手に付いていかせてもらうわ。あなたも、それでイイでしょ」


「キューーーン」


 酒の精霊が話しかけたのは、俺ではなくシャイ。そして、シャイは酒の精霊にモフられ、気持ち良さそうにしている。精霊同士としての、相性は悪くない。


「ちょっと待て、なんでそうなる」

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