第24話 目指すは上位種
「今度は、見つかった」
なるべく目立たず戦ったはずだが、ソーキが大きな声で騒いだせいで、折角の計画も台無しになってしまう。
「うーん、30は向かってくる」
「半分以上?」
「うん、凄い勢い。皆!森を移動してくる」
葦の中に潜んでいたゴブリン達は、足場の悪い湖を避け、森の中で姿を隠しながら移動している。だが、それはソーショウ達には、ゴブリンに達に起こった異変を教えることになる。
待ち伏せしていたゴブリンの大半が、俺たちに向かってくるのならば、ソースイ達を相手にするには20体で十分なのか、それ以上にソーキの存在に重要な意味がある。
しかし、舟の上で意識を失っているソーキには、そこまでの存在を感じない。ただ呪符を貼られた角だけが、不気味さを醸し出している。
「足手まといだな」
1番の問題は、ソーキを連れて逃げなければならないこと。起きていても問題を引き起こすし、寝ていても問題になる。
「影の中に入れる。そうすれば邪魔にならない」
「えっ、いいのか?そんなことしたら、クオンもシャイも嫌だろ」
「大丈夫、コハクに縛りつけておけば、暴れても大丈夫」
コハクの体がビクッと震えて、何とも言えない情けない顔になっているが、俺とクオンの意見が一致すれば、それを覆すのは難しい。
「無理強いするつもりはない。もっとイイ代替案があれば聞いてやるぞ」
「コハクの体も目立ちすぎる!」
クオンが追い打ちをかけると、コハクは項垂れる。そして何も言わずに、体を低くしてソーキを載せる準備をすると、クオンがテキパキと背中に載せて縛ってしまう。
見た目は華奢な女の子なのに、ソーキを軽く持ち上げてしまう力は、精霊の魔力によって強化された俺以上かもしれない。でも、そこに触れてはいけないのは、元の世界でも異世界でも一緒な気がする。
「これ、貰っていもイイの?」
そして残されたのは、ソーキが身に付けていた煌びやかな武器や防具。
「そうだな、イイんじゃないか。ここに放置すれば、もう戻ってこないだろうし、命が助かっただけでも儲けもんだろ」
「うん、そうする」
そして、ソーキの痕跡が完全に消えてしまうと、クオンも俺のやろうとしていることを理解し行動に移る。
クオンが見ているのは、ゴブリン達が潜んでいる葦の中。目を閉じ、耳が忙しく動いている。小さな音でも聞き漏らさないように、細心の注意を払いゴブリンの潜む位置を特定している。
ゴブリンが湖に沿ってソーキを運んでいたのだから、先には必ず別のゴブリンの群れがいる。そして、森の中には俺達に向かってくるゴブリン。
だからこそ目指す場所は、手薄になった葦の中に潜むゴブリン達。
「上位種を倒せば、問題は解決するんだろ」
「うん、ゴブリンなら統制の取れた行動は出来なくなる」
「上位種がいなければ、そのまま突っ切る!」
クオンに誘導されて、葦の中を進む。森の中を進むゴブリンは、俺たちを囲もうとしている。用意周到ではあるが、それは俺達に時間を与えてくれる。
仕掛けてくる前に、こちらから打って出る。もしダメならば、最悪は湖に逃げればイイ。それに、俺たちが動けばソーショウ達も動く。大きく動いた変化を見落とさないだろう。
俺が近付いても、葦の中に隠れている20体のゴブリンは動かない。しかし、葦の揺れる僅かな音の違いで、クオンに場所を特定されているとは思っていない。
さらに距離が縮まると、俺の影の中からウィスプ達が飛び出す。クオンから指示を受けたウィスプは、それぞれ違う方向に散らばってゆく。
もうゴブリン達の射程範囲内に入っているはずだが、それでもゴブリン達からの攻撃はない。それはウィスプ達が、ゴブリンを仕留めている証しでもあり、まだ上位種に遭遇していない証しでもある。
「ここに、上位種はいないのか?」
(まだ、本命はこれから。次は、コハク出番!)
俺の影の中からコハクが現れると、大きく葦を揺らして音を立てる。影の中から現れたのだから仕方ないが、今度も俺の前に立ち塞がってしまう。しかし、今度は少し違う。完全に出番がないと油断していたコハクは、驚き固まっている。
そして、突然揺れ動いた葦に向けて、一斉にゴブリン達の弓が引き絞られる音。小さな音ではあるが、クオンの耳は聞き漏らさない。そして、1ヶ所だけ音のしない場所。
(上位種、見つけた。右、湖側)
「コハク、後は任せた。好きなだけ暴れるぞ」
俺が上位種に向けて進路を変えると、コハクの体にはゴブリンの放った矢が刺さる。しかし、下位種の放った矢ではコハクの体を貫くどころか、傷一つ付けられず弾かれている。背中の上にはソーキが括りつけられているのだが、ゴブリンの矢では即死···はないのだろう。
(詠唱が聞こえる)
奇声しか出さない下位種ではありえない、上位種の存在を確定させる魔法の詠唱。そして、クオンの気配が影の中から消える。
クオンの影縛りがゴブリンの動きを止めてくれるが、上位種になれば効果時間は短くなる。さらに、足場の悪さと葦が進む速度を鈍らせる。
「ファイヤーボ」