第23話 角の呪符
カンテが激しく明滅してアピールしてくる。それは、俺達の1番の目的であったはずのソーキを放置していたことへの抗議。
コハクの失敗は相手を侮った結果で、もしかすれば命を危険に晒した許されざる行為。しかし、俺に最も不足しているアシスの知識や経験を補ってくれる。予定通り進んだならば、得られたものは少なかった。せっかく命がけのリスクを冒したのだから、得られるものは最大限に得たい。
そして最大の理由は、俺にとってはソーキは重要な存在ではない。ソーキが死んでいれば、それをソーショウに伝えてやればイイし、その方が仕事も簡単になる。その想いが結果として、ソーキを放置してしまった。
「忘れてないって!カンテ達を信用してるからこそ、お任せに出来たんだろ」
今度はゆっくりとした明滅になるが、訝しんでいるように見える。
「さあっ、早くソーキを助けやらないと」
小さな小舟の上にソーキが縄でグルグル巻きにされて寝かされている。ゴブリンなら3·4人は乗れる舟でも、体躯の大きなオニ族と武器や防具を載せれば、それだけで積載重量の限界に達してしまう。
特に血を流していたり、体が損傷している箇所もない。たまに、うめき声を漏らすから生きてはいるが、1番注目すべきはオニ族の象徴である角の1本が折られている。そして、残された1本には怪しげな呪符が貼られている。
「マズいな、嫌な予感しかしない」
「うん、嫌な魔力。ご主人様、どうするの?」
と聞かれても、クオンが分からなければ、俺に答えを導き出せす知識も経験もない。
「臭い物には蓋をする···わけにもいかないか?」
苦し紛れに出た言葉で、途中少しだけ言葉が詰まる。しかし、その間にクオンは手刀で葦を刈り始めている。
「クオン、ちょっと待て。何してるんだ?」
「うん、臭い物に蓋する。これはヒト型になれるボクだけが出来ること」
呆気に取られる間に、刈り取った葦でソーキの顔が隠れてゆく。クオンにとって、ソーキの一番臭いところは顔なのだろうが、それに関しては否定しない。
だが気になるのは、俺が迷ってポロっと漏れた言葉に、クオンが即座に反応してしまったこと。盾のオニを助ける時、クオンは俺の思考を読みとった行動をしてくれたが、今回は俺の苦し紛れに出た言葉に反応した。
何も考えが思い浮かばず、殺してしまえと言っていれば···。
「蓋をするのは、何時でも出来るから、少し待ってくれ」
俺が角の呪符に手を伸ばすと、ソーキの顔に被せられた葦が舞い上がり、俺の手が弾かれる。今までのゴブリンとの戦いでも、傷を負ったことは無かったし、痛みを感じたことさえ無かった。
しかし、初めてアシスに来てから痛みを感じる。今は痛みよりも痺れの方が強いが、飛び散った血も見えた。
そして、クオンから溢れ出す殺気。葦を簡単に刈り取ってしまう手刀が、ソーキの首に振り下ろされようとしている。
「クオン、ダメだ!」
「何で?ご主人様を傷つけた。ボクは絶対に許さない!」
「これは、ソーキがやったんじゃない。怪しい呪符のせいだ」
ソーキの角の呪符に触れようとした時に、放たれたのは石礫。葦が舞い上がったのも、角や頭を中心として箇所だけで、ソーキの目から下は隠れたままになっている。
「でも、血が流れてる」
「大丈夫。たいした傷じゃない」
それは嘘でも痩せ我慢でもない。痺れていた感覚が徐々に薄れ、そこから大きくなるはずの痛みもない。手から流れているのは、手の平に付着した血が落ちているだけで、傷口も塞がっている。
「ほら、見てみろ」
湖の中に手を浸して、絵筆のように濯げば傷痕さえ分からない綺麗な右手が現れる。クオンも俺の手を取り、まじまじと眺めている。
「ホントだ。精霊の魔力と融合してるせい?」
「恐らくそうだろう。出来れば痛みも無くして欲しかったけど、そこまでは無理だったみたいだな」
「うん、問題ないなら我慢する。でも、どうするの?助ける?」
そこで、ソーキのうめき声が大きくなり、小さな小舟の上で体を大きく動かし始める。
「はふけろ、ははく、ほほけ」
ソーキが意識を取り戻したことは良いのだが、今度は扱いが面倒になる。森の中の逃げる様子を見た感じでは、きっと俺の言うことは聞かない。さらにソーキの動きは激しさを増し、そのまま放置も出来ない。
マジックソードをソーキの顔の横に突き立てる。
「大人しくしろ、じゃないと縄がほどけない。怪我させてもイイなら暴れてろ」
俺の言葉でピタッと動きが止まるが、大人しかったのは一瞬だけ。縄が緩み拘束から解放されると、再び騒ぎ始める。
「何をしておる。遅いぞ、グズどもめがっ!」
想像はしていたし覚悟もしていたが、それを軽く超えてくるイラつき。そして、さらに吐き出される暴言。
「何だ、ヒト族か。卑しい種族に触れられるとは、全く考えら···」
クオンの殺気で、ソーキの言葉が止まる。
「クオン、触れちゃダメだ。クオンが汚れてしまう」
「うん、分かった」
クオンの合図でウィスプ達が雷撃を放つと、再びソーキの意識は無くなり舟の上の住人となる。
「今度は、見つかった」




