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第2話 異世界の名はアシス

 暗転した世界の中にいるが、死んでしまった後の世界とは思えない。宇宙空間を彷徨っている感じがするが、見える星の灯りは頼りない。そのどれもが、ぼやっとした微かな光りでしかなく、星の光りとは程遠いくらいに弱い。


 俺の体は勝手に光のある方へと進むが、近付けば光は消えてしまう。近付いては消えるの繰り返しで、どれだけの時間をこの空間で過ごしているかさえ分からない。だが不思議と時間感覚はなく、俺はされるがままに光を見ているだけ。消えた光の数は、とっくに百を超えただろう。


 ずっとこのままなのかもしれないし、このままでもイイと思えた時に、変化が訪れる。俺が近付いても消えない光。それどころか、頼りない光りは次第に輝きを増し、青白く強い光を放つ。


 それと同時に、今までになかった変化が訪れる。それは、今までに感じたことのない感覚。痛いのか熱いのかも分からない、全身を激しく襲う激痛。普通なら、肉体よりも精神が先に崩壊して、意識はなくなるはず。


 だが、俺の意識は研ぎ澄まされてゆく。現実から逃げたい気持ちとは反して、全身を襲う感覚の正体を確かめるために、激しい痛みをさらに感じとろうとしている。


「うおおおおぉぉぉぉぉーーーっ」


 堪えきれずに出た、ただの叫び声。


(生きるのです)


 誰かの声が聞こえた気がするが、姿は見えない。この痛みに耐えて生きろと?それなら、死んだ方がマシだと思える。


(生きるのです、あなたの名はカショウ)


 再び聞こえる女性の声。


「うおおおおぉぉぉぉぉーーーっ」


 それでも俺に出来ることは、ただ痛みに耐える為に叫び声を上げるだけ。生死なんて考える余裕はない。しかし、凛とした女性の声は、俺の大きな叫び声を通り越して直接頭の中へと響いてくる。痛みで埋め尽くされる感覚を通り越し、鮮明に聞こえる声。


「好、き、にし···ろ」


 ほとんど声にはなっていない、何とか絞り出した掠れる声。もしかしたら、心の中で念じただけなのかもしれない。それでも次第に痛みは薄れ、意識も遠退く。




 何かが俺の頭を小突くが、体は疲れきって動かない。横になっているのは分かるが、硬い感触はベッドの上じゃない。それでも、痛みから解放されたばかりの体は、動こうはしない。

 再び、何かが俺の頭を小突く。柔らかい感触もするが、今度は鋭利なものが俺の頭を引っ掻く。痛いとまではいかないが、ただ煩わしい。ただ今は放心状態で何も考える気も起こらない。


「もう少しだけ、寝かせてくれ」


 目も開けないで、何となく右腕で振り払う。しかし、腕には何の感触もなく空振りする。気のせいならイイかと、再び意識を放棄する。

 すると、今度は胸の上に重みを感じる。それが、ゆっくりと俺の顔の方へと近付いてくると、ザラッとして湿った感触が俺の顔を襲う。

 嫌ではないが、くすぐったい。顔を揺すってみるが、執拗に俺の口や鼻を舐められる感触。小突かれるなら無視出来るが、くすぐったいのは我慢出来ずに、目を開けるとそこには黒猫がいる。


 暗い洞穴に、射し込む日の光。何もない宇宙空間を彷徨った後ならば、地面があり生き物が居るだけでも安心感がある。しかし、たて続けに起こる変化に、完全に思考はついてこない。状況を理解しようとしても、思考は空回りしてしまう。


 そんな状態の俺ではあるが、目を開けたことに黒猫は満足し、今度は胸から飛び降りると袖を齧り引っ張り始める。目を開けさせた次は、俺の体を起こそうとしている。


 渋々と重い体を起こすと、そこには俺の知っている風景が広がっている。


 断崖絶壁の中腹から見える風景は、見たことはないが知っている。それは、俺が小説の中の世界として想像したアシスという世界。見える範囲だけでも、太陽が2つあり、月も3つ見える。月は、太陽に存在を弱められているものの、それぞれ赤·緑·青に染まり円い姿を完全に露にしている。


 そして眼下に広がるのはヒケンの森。魔物と精霊の戦いによって荒廃した土地には、永い時間をかけて森が甦ったが、竜種のブレスによって出来たクレーターには水が溜まり湖となっている。


「ここは、俺のつくり出した世界なのか?」


 誰も居ないが、それでも声を出してしまう。それは、五感を確かめるためでもあり、これは夢の世界ではない。これが本当ならば、俺がこの世界に転移して死にかけている。あの痛み、は体が際限なく魔力を吸収して弾けて飛散しそうになったもの。飛散してしまえば、その衝撃はアシスに大きな被害をもたらすはずだった。

 しかし、声の主が俺を助けるとともに、この世界で俺に生きる術を授けてくれているはず。それは一時の応急措置でしかないく、アシスに転移した俺が魔力を吸収してしまう異常体質であるのは変わらない。俺の着ている服は魔力吸収を阻害し、すでに体内に蓄積された魔力だけでも精霊の力があってこそ飛散しないでいる。

 だが何もしなければ、精霊の力が持ちこたえれるのは一年。俺が助かる為の方法は、より多くの精霊を召喚契約を結び、体内に蓄積した魔力を消費させること。


 両手首を見ると、そこには革製のブレスレットが付いている。見た目は革製だが、触れば金属の質感がする不思議なブレスレットで、精霊と召喚契約する為に必要なマジックアイテム。


「クオン、どうなってるんだ?」

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