第17話 オニ達の結び付き
草むらの中から出てくるオニは、一瞬ではあるが不敵な笑み浮かべていた。そして、その不気味さを感じ取ったウィスプ達が、俺の周りへと集まってくる。
しかし、オニは俺の姿を確認すると、軽く会釈をして感謝の意を告げてくる。ただそれだけで、特に口にすることもなく顔の表情も無表情なものに戻ってしまう。
このオニを助けたいとは思ったが、この後どう接するかは考えていなかった。感謝の言葉くらいあるだろうと想像していたが、当てが外れて僅かに沈黙が流れる。
「忌み子、ソーキ様を追いかけろ。放っておけば危ない!」
その沈黙を破ったのは、負傷していたオニ。頭からは血を流し、金属の鎧を纏っていても腕や足の継ぎ目には矢が刺さり、肩をかつがれて辛うじて立っている。
そして、命令を受けたオニは、何の表情を変えることもなく、再び大盾を背中に担ぎ駆け始める。
あの派手な鎧を纏ったオニがソーキなのだろう。そして、この中で次に偉いのが、負傷しているオニ。感謝の言葉1つあってもイイはずたが、ソーキの命を守ることを優先したオニの最後の力でもあり、ここで意識が途絶える。
力なく腕が垂れ下がると、そのまま地面へ崩れ落ち、地面に激しく激突する。肩を貸している方にも限界が来ている。
(まだ死んでない、助けるの?)
「生きてるのか?」
(うん、まだ助かる)
せっかく命を助けて、ここで見殺しにするのも後味が悪い。声には出さずに頷いて返事すると、俺の後ろからシャイが出てくる。
(シャイに任せれば大丈夫!)
「キューーーン」
シャイが鳴くと、オニの傷口が塞がる。完全に傷が癒えたわけではないが、青ざめた顔には血色が戻り、呼吸もしっかりしている。クオンの通訳から、シャイのスキルは身体能力の向上だと思っていたが、間違いなく自己回復力も強化されている。
(うん、大丈夫)
クオンも大丈夫と太鼓判を押しているのだから、死ぬことはない。それを、俺なりの言葉に変換してオニ達に伝える。
「命に別状はないだろ」
「ありがとうございます。お陰様で、助かりました」
ここで、やっとオニ達から謝礼の言葉が出てくる。しかし、どのオニも傷付いたオニに向けられる視線は冷たい。
「助けない方が良かったのか?」
「我々にとってソーオウ様が生き残ったの意味は大きいです。責任を取る者がいなければ、次の者が責任をとる羽目になりますので」
異世界に来て、初めて会ったオニから告げられる世知辛い事情。好きではないが、居てもらわなくては困る存在。だからこそ必死に守っていた。
元の世界と同じで、ギスギスした関係性の悪いオニ達に、好き好んで関わろうとは思わない。知っていれば巻き込まれることを避けていた。今は、嫌な予感しかしない。
「それに、1番の責任者であるソーキ様を助けねばなりません」
「もしかして、豪勢な鎧のオニか?」
「ええ、それが私の今回の職務ですので」
チラッと俺と視線が合うと、意味深な笑みを浮かべる。
「我が名は、ヒケンの森のオニ族のソーショウ。生き残っていれば、我が主からも謝礼がありましょう」
「ソーキからか?」
「いえ、我が主は、ヒケンの森の領主ソーギョク。アシスでも名の知れ渡った絶世の美女でございます」
それだけを言い残すと、ソーショウと皮鎧を身に付けたオニ達は大盾のオニ追いかけて走り出す。残されたオニは、傷付き倒れているソーオウと、そのお付きのオニの2人のみ。
(追いかけるの?)
クオンが、“どうするの?”ではなく“追いかけるの?”と聞いてくるは、ここに残るのを嫌っている。
「仕方がない。毒食らわば皿までだ」
このまま、ここにソーオウと一緒にいても、嫌な予感しかしない。人間関係や行動を見ても、ソーオウやソーキがまともとは思えない。それならば、ソーショウや領主であるソーギョクと関係を強めた方がイイ。
俺たちがソーショウを追いかけようとすると、お付きのオニが行く手を遮る。
「お前ら、ソーオウ様を置いて行くつもりか?」
「ソーオウが、ソーキを追いかけろと言ってただろ。それに、ここにはお前がいる。早くしないと、ソーショウを見失う」
大盾のオニ程ではないが、ソーショウもその他のオニも身体能力が高く、大柄な体には似合わない軽やかな動きで森の中を進んでゆく。クオンの聴覚があれば見失うことはないが、言い訳には都合がイイ。
俺が走り出すとカンテが明滅し、俺の前を先行するようにルークが飛び、後ろにはメーンがつく。シャイも俺の横を一緒に駆けてくるが、モフモフの尻尾は左右に大きく振れ、久しぶりに自由に動ける森の中を楽しんでいる。
しかし、想定外だったのは、アモンの木とマーノの花が咲く森から遠ざかるにつれて、沢山の生き物が住んでいる。特に俺が森の草木を大きく揺らしてしまうと、そこから逃げるように動物達が動き出し、見ない侵入者に対して鳴き声を上げる。
「クオン、大丈夫か?」
(何が?)
「森の中が騒がしいだろ。これじゃソーショウ達の音が聞こえなくなる」
(これくらいなら大丈夫。それに、そろそろ森が終わる)




