第13話 五穀の精霊
マジックシールドに乗って森の奥へと進むと、改めて無理難題だったことに気付かされる。
アモンの木も、マーノの花も広範囲に渡って生息している。もう数時間は移動しているが、アモンの木が点在し空いた場所をマーノが埋め尽くしている風景は変わらない。
ゴブリン達は、何処かららやってきたんだと思うが、閉ざされてしまった洞穴に戻ることは出来ない。そして、こんな場所に転移した時点で、大抵の人間は生き残る可能性は少ない。
「クオンは、ずっと崖で暮らしてたのか?」
「影の中。影さえ分かれば、どことでも繋がれる」
それなら、クオンにはアモンの木もマーノの花も障害にならない。底辺だと思い込んでいたゴブリンにも、もしかすると特殊能力があったのかもしれない。
「ご主人様、待って!」
俺の足元に座って、景色を眺めているだけだったクオンの耳が忙しなく動く。何かの音を感知し、聞き取ろうとしている。
俺もマジックシールドの移動を止めると、周囲の様子を伺ってみる。だが、クオンが微かに気付ける程度の変化に、俺が気付けるはずがない。
「あっち!」
クオンが音のした方を見ると、カンテが明滅する。それに、反応しルークが動き出す。何もしていないように見えて、いつの間にかクオンを中心とした連携が確立されている。
そして、ルークの光が激しく明滅すると、そこに異変があったことを知らせてくる。
「うん、やっぱり居た」
「クオン、何が居たんだ?」
「精霊よ、ご主人様。でも、大分弱ってる。早く行ってみよう」
クオンの見つめる先には、変わらずマーノが茂っている。その中に囲まれて、どんな精霊が居るか分からない。それでもクオンが見つけた精霊ならば、俺を助けてくれるに違いない。
「行ってみるか」
ルークのいる方に進むと、マーノに覆われているが僅かに小さな穴が見える。ルークの光に照らされて、中に見えるのは小さな子狐姿の精霊。丸まり小刻みに震えて相当弱っている。
「これが精霊?」
「うん、五穀の中でも米を司る精霊」
米の精霊であれば、近くに稲があるはずだが、周りはマーノに覆われ、稲なんて何処にも見当たらない。
「でも、近くに稲なんてないぞ。だから力が弱ってるのか?」
しかし、今度は目の前のルークが明滅する。
「お前達は、あの燭台のせいだろ。それでも、あの場所が良かったのか?」
俺がそう言うと、ルークはゆっくりと明滅しながら、遠ざかってゆく。言葉が話せなくても、分かりやすい反応をしてくれる。それでも、雷が無くてもウィスプは存在出来るのだから、燭台や俺の召喚契約と同じで何らかの仕掛けがあるのかもしれない。
「カンテ、気を付けて。ボクの合図でだよ」
俺とルークが脱線している間に、クオンとカンテはしっかりと仕事をしていた。空いた穴からマーノの密集具合を探り、子狐姿の米の精霊の姿を確認すると、カンテの光が次第に大きくなり雷を蓄え始める。
「ご主人様。少し高度を上げて欲しいの」
「おうっ、分かったぞ」
少し引け目を感じて、クオンに言われるがままに少しずつ高度を上げるが、それでも俺が出来るのは後1mだけで、あっという間に限界まで到達する。
しばらく間が空き、カンテからバチバチッという音が聞こえて瞬間、クオンが合図を出す。
「撃って!」
カンテから幾つもの稲光が放たれると、マーノを打ち付ける。カンテの魔法は上手くコントロールされ、穴を避けている。次第に稲光が収まると、そこには俺が降りれそうなくらいの穴が空き、その中心には子狐が居る。
俺がマジックシールドの高度を下げるよりも先に、クオンは飛び降りる。流石に俺と違って、ネコ型のクオンは2mくらいの高さなら問題なく着地する。
そして、クオンがゆっくりと子狐に近付く。ネコはネコ科で、キツネは犬科。相性が悪いようにも見えるが、2人はどことなく似た雰囲気さえ感じさせる。
そして、クオンの後を追いかけたカンテが横に並ぶ。稲光というくらいだから、ウィスプと稲の精霊の相性も良いのかもしれない。
「うん、悪くないケモミミ。これなら合格」
その言葉で、子狐は立ち上がるとモフモフの尻尾を立てて振ってみせる。助けられて感謝しているのか、それともモフモフの尻尾もあると見せつけているのか分からないが、お互い友好的であるのは伝わってくる。
そして俺が子狐に近付くと、足元には小さな稲のような植物が見える。
「もしかして、それを守ってたのか?」
「キューーーン」
俺の問いかけには、鳴き声が返ってくる。
「ここに残された最後の稲」
クオンが通訳してくれる。ここは昔は、稲を始め沢山の穀物が獲れる地帯だったが、上位精霊と魔物との戦いの中で荒廃してしまう。その後でこの周辺に適応したのが、アモンとマーノの2つの植物。
「ご主人様と召喚契約する?」
クオンが子狐に話しかけると、子狐は悲しそうな顔で稲を見つめる。
「それなら簡単。こうすればイイ」
クオンがネコ型からヒト型に変わると、両手を稲へと近付ける。そっと根本から救う仕草を見せると、あったはずの稲が消えてしまう。
「どう、これなら一緒に行けるでしょ!」
「キューーーン」
「ご主人様、ボク達と一緒に来るって。名付けをして」




