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第1話 プロローグ

 俺の小説がエタる時が来た。根拠はないが、完結させる自信はあった。書きたいことも、まだまだ沢山ある。


 主人公は住んでいる世界に弾かれて異世界転移するが、転移した世界にも拒絶され死にかけてしまう。しかし、主人公は1人の精霊に助けられる。だが、主人公を助けた代償は大きく、精霊は存在を維持出来ずに姿を消してしまう。

 何故、精霊は主人公を助けたのだろうか?俺の存在に何か意味があるのだろうか?それを知るために、異世界を旅する。


 テンプレ風のダークファンタジー、それが俺が初めて書いた小説になる。



 小説を読むのは好きだが、書いたことはない。社会人になってからは、もっぱら報告書程度の文章しか書いていない。その文字は味気なく、どこか冷たい雰囲気がある。そんなつまらない文字が、俺の人生の膨大な時間を奪い、そして少しずつ疲弊させていった。

 今の生活に限界を感じた俺は、一度だけ上司に反抗した。その結果が、2階級降格の配置換え。だが、お陰で冷たい文字に囲まれた生活から解放された。


 仕事しかしてこなかった生活から、急にぽっかりと空いた時間。管理職から外れ、残業代がつくようになったとはいえ、残業自体がない生活。


 そこで知ったのが、ネット小説投稿サイト。ただで小説が読めて、中には書籍化しているものもある。俺の空白の時間を埋めるにはうってつけで、最初の1年間は書籍化された小説を読み漁った。次の1年は、埋もれている小説がないか、ひたすら探し続けた。

 もちろん面白いと思うものは少なく、最後まで読んだものは少ない。ただ、どの小説の文字も冷たくなく、温かみすら感じる。


 それに気付いた時、小説を書いてみたいと思った。面白くなくても上手くなくてもイイ。俺にも冷たくない文章を書くことが出来るのだろうか?それが、小説を書き始めた、些細なきっかけになる。


 そして、1年間休まずに毎日、小説を投稿し続けた。ブックマークこそ底辺卒業の目安である100に到達したが、70万文字での達成ならば、効率は悪いし自慢出来る数字ではない。もちろん感想なんて書かれないし、現実なんてそんなもんだろ。

 それでも、初めて書いた小説に思い入れは強い。それに応募した賞の一次先行にも通過した事が、それなりに作品の世界観が認められた気がした。上手くないが、少しやりがいすら感じていた。


 それでも、俺の小説はエタってしまう。


 脱出出来たと思ったブラックの仕事の波が、再び押し寄せてくる。元の仕事に戻されてしまえば、俺の書く文字も再び冷たくなってしまう。そこに感情も情熱の欠片もない。そんな状態で書き続けても、俺の創ったキャラクター達は色褪せて死んでしまうだろう。それならば、いっその事消してしまえばいい。一度そう思えば、一切の迷いは無かった。


 投稿編集画面を開くと、作品削除ボタンをタップする。


注意:作品が削除されると、元に戻すことが出来ません。本当に削除を行いますか?


 誤操作を防止するために表示されたメッセージボックスの「はい」と「いいえ」のボタン。それを迷わず、「はい」のボタンをタップする。


注意:本当に削除してもよろしいですか?


 繰り返し表示されるメッセージに、これが最終確認なのだろうと思い、覚悟を決めて「はい」のボタンをタップする。


注意:本当に本当に削除してもよろしいですか?


 再び現れたメッセージに、少しイラつきながらも「はい」のボタンをタップするが、何度も繰り返しメッセージが表示される。イラつきながら、「はい」ボタンを連打するが最後のメッセージだけは違った。


注意:削除すれば、あなたも―――


 しかし、最後までメッセージを読み取ることが出来なかった。メッセージが消えたからではなく、俺の目が霞みスマホ画面の小さな文字を読み取る事が出来ない。それだけではなく、タップしようとした右手は1㎜も動かせてはいない。


 次第に暗くなり、灯りが無くなる。視界だけでなく、全ての感覚が失くなる。消えてしまうのは、俺のことだったのか?

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