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第9話

「ファミレスは知らないくせに、こーゆー居酒屋は知ってるんだな」

「大学のサークルとかで来たことがあるから」

「ふーん」


コータはさすがに5杯、とはいかなかったけど、

本当にソフトドリンクのようにビールを飲む。

カッコつけている、とかいう風でもない。

・・・廣野組の、いや、統矢の教育の賜物か。


二人ともお腹が少し満たされ、少しギスギスした感じがなくなってきた。

そこで私は前から気になっていたことを聞いた。


「ねえ、ユウさんてどんな人だったの?」


あの統矢を射止めたユウさん。

やっぱりその人となりが気になる。

でもコータの答えは至ってシンプルだった。


「ふつー」

「え?」

「どこにでもいる、ふつーの女」

「・・・」

「顔は普通だし、背はちっちゃいし、胸もちっちゃいし。

あ、でも廣野組に来た時は、処女だって言ってたなー。

18歳でしたことない、ってゆー意味ではふつーじゃないのかも」


そうね。

って、なんてことを。


「女性の前でそういう話はしないでよ」

「統矢さん譲りだから」

「・・・あなたって、本当に意地悪ね」

「それも統矢さんに文句言って。統矢さんもネェちゃんをいつもイジメて、振り回して泣かせてたから」

「・・・」


本当にああ言えば、こう言う。

でも、いい加減コータの嫌味にも慣れてきた。

コータの嫌味は思い切りが良すぎて、いっそ気持ちいい。


「ふつーって言うけど、じゃあどうして統矢はユウさんのこと好きになったの?」

「ネェちゃんは・・・なんて言うか鼻の利く人だったから」

「鼻?」

「この人はこういうことをしてあげたら喜ぶだろうな、って言うのを嗅ぎつけるのがうまかった。

そして、何の下心もなく、あっさりとそれをするんだよね。俺に弁当作ってくれてたみたいに」


私も統矢が喜ぶと思って、必死に自分を磨いてきた。

でも、統矢が好きになる女の人は・・・結婚相手に求めることはそんなことじゃなかった。

初めから・・・10年前から私は間違っていたのかもしれない。


手をギュッと握り締める。


そんな私の気持ちを察したのか、コータは変な話をし始めた。


「あと、ネェちゃんは面白い女だった」

「面白い?」

「うん」


そう言って、ユウさんの武勇伝とも言える話をたくさんしてくれた。


そもそもユウさんが廣野家にきたのは、酔いつぶれて組員にお持ち帰りされてきた、とか

統矢を怒らせて日本刀で髪を切られた、とか、

組員同士の喧嘩に首をつっこんでビール瓶で殴られて病院送りになった、とか

前の組長(統矢のお父様)と統矢に同時に身体を求められて昼夜問わず二人の間を行き来してたとか、

前の組長の命令で統矢に内緒で勝手に妊娠しちゃったとか・・・


「俺のせいで、男に襲われたこともなったな・・・」

「え?」

「さすがにあの時は俺もへこんだなあ」


よく今まで生きてたわね・・・

本当なら、私がかなり落ち込んでいい話もあったけど、

あまりに現実離れした話だからなのか、コータの話し方が気を使わせないからなのか、

私はまるで他人事のように興味深く聞いていた。


中でも衝撃的だったのは・・・


「え?寝てる間に統矢のオデコに『肉』って書いた?」

「しかも油性の赤マジックで」


そう言って、コータは自分のオデコに指で「肉」と書いた。


信じられない。

あの統矢にそんなこと・・・

「肉」って・・・


「ふふふふふ・・・ユウさんてほんと、面白い人ね」


するとコータがちょっと意外そうな顔をした。


「何よ?」

「あんたもそんな風に普通に笑うんだな」

「当たり前でしょ。人間なんだから」

「ふーん」

「・・・コータこそ、もう少し高校生らしく爽やかで素直になれないの?」

「じゅうぶん爽やかで素直だと思うけど?それに気安く『コータ』なんて呼ぶな」

「苗字は?」

「・・・そんなもんヤクザには必要ない」

「また、カッコつけて・・・。じゃあなんて呼べばいいのよ?」

「・・・幸太」


どう違うのよ。



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