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第4話

「初めて来たけど、なんだこのくだんねーパーティは?」


統矢が心底嫌そうに言う。


「うん。つまらないわよね」


私もそう言って、ワインを飲む。

・・・やっぱりマズイ。

でも、頑張って飲む。

ちょっとは「大人だな」って思ってくれるかな?


「・・・よくワインなんか飲めるな」

「え?」

「俺、ワイン飲めない。不味い」

「・・・統矢こそガキね」


ジロっと軽く睨まれる。

でも、やっぱりかっこいい。

ドキドキする。


「まあ、ガキって言われても仕方ないか。せっかく1年間頑張ってきた禁煙も、

このパーティのつまんなさに負けてこのザマだし」


そう言って、ふーっと煙を吐く。


「さっき、19歳って言わなかった?一体いつから煙草吸ってるの?」

「・・・いつだっけ?忘れた。物心ついた頃かな?」

「何それ」


面白い人だな。


それから私たちはそのままテラスで、くだらないことばかり話した。

でも統矢の話はとても面白かった。

私はずっとお腹をかかえて笑っていた。


お酒も物心ついた頃から飲んでて、アルコールとソフトドリンクの違いを知らずに育ち、

中学生の時に先生が「二十歳になるまでアルコールは飲んじゃいけません」と言うのに対し、

「コーラはアルコールですか?」と質問して赤っ恥をかいたとか、

空手をしているのをいいことに喧嘩しまくってたら、お母さんに簡単にぶっ飛ばされたとか、

大学の講義中に寝てたら椅子から転げ落ちて、更にそのまま教授のいる壇上まで階段を落ちて、

しかもその教授が女でスカートの中を見てしまって痴漢扱いされたとか・・・


結構間抜けというか、かわいい人だな、と思った。

そして、そんな楽しい時間はあっと言う間に過ぎて行った。



「ご機嫌だな、愛」

「うん」


帰りの車の中、私の機嫌は最高によかった。

でも、統矢とは次いつ会えるんだろう・・・

さすがに「どこに住んでるの?」とは聞けなかった。

なんかストーカーみたいに思われたら嫌だし。


「ねえ、お爺ちゃん。廣野さんって知ってる?」

「廣野?知らんな」

「20歳くらいの男の人」

「・・・ああ、あの廣野のことか」

「知ってるの?」

「廣野は関東を牛耳るヤクザだ。廣野大吾がその組長で、愛が言っている若いのは跡取りだろう」

「え?ヤクザ?」

「そうだ。愛、あんな奴らと関係を持つなよ。ロクなことにならん」

「・・・」


ヤクザ。

どうりで雰囲気が他の人たちと違うわけだ。


でも、私には統矢がヤクザなのか政治家なのかなんてどうでもよかった。

統矢は統矢だ。


「廣野さんは毎年あのパーティに来てるの?」

「ああ。ヤクザと言っても政財界まで影響を及ぼす力を持ってるからな」

「ふーん」


私はわざと興味がない風を装った。

でも心は弾んでいた。

じゃあ、来年のクリスマスパーティでも会えるんだ!

一年間も会えないのは嫌だけど、さすがにヤクザのお家に「こんにちは」とは行けない。

一年に一回会える・・・なんか織姫と彦星みたいでロマンチックじゃない!


よし!

見てなさいよ、統矢!

来年のクリスマスパーティの時にはビックリするくらい大人になっててやるんだから!




それからの1年間、私は全精力を次のクリスマスパーティのために注いだ。


エステティシャンに家に来てもらって2週間に一回エステをしたり、

馬鹿な女だと思われたくなかったから勉強も頑張った。


クリスマスの3ヶ月前には、

デザイナーの人に来てもらって、パーティ用のドレスを特注で作ってもらった。

できるだけ大人っぽく・・・でも背伸びはしすぎないように。


前日は、エステはもちろん、美容院で髪も整えてもらい、ネイルもした。


そしてパーティ当日。

1年前と同じように、鏡の前で全身をチェックしていた。

薄いピンクのワンピース。

ピンクなんて子供っぽいと思ってたけど、さすがはプロの仕事だ。

少し大きく開いた胸元と、タイト目のデザインのお陰で可愛らしさと大人っぽさが見事に共存している。

胸元には小ぶりだけど本物のダイヤのネックレス。

ママにおねだりして買ってもらった。


髪も今日だけ少し染めて、夜会巻きにしてある。


去年なんかとは比べ物にならないほど大人っぽい。


そして・・・何より去年と違うのは鏡の中の私の表情だ。

自分でも分かるくらいはっきりと「恋する乙女」と書いてあるようで恥ずかしい。


でも!

でもこれで少しは統矢に近づけるかもしれない!


私は高鳴る胸を抑えて、パーティ会場へと向かった。


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