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第24話

「ご、ごめんなさい。子供が・・・ちょっと、美優!!止まりなさいってば」


焦った私はかなり大声で怒鳴りながら美優を追いかけた。


「ワーイ!!」

「待ちなさい!!!」


統矢はポカンとして、しばらく私と美優の追いかけっこを眺めていた・・・



美優を捕獲した時は、私は髪もボサボサでゲッソリしていた。


「・・・ごめんなさい」

「ああ、構わない。元気な子供だな」

「・・・」


申し訳なくって言葉も出ない。


「あの。少し二人で話がしたいんだけど」

「わかった。おい、お前ら下がっとけ」


統矢はそう言って、襖の近くに立っていた3人の付き人を廊下へ出した。

彼らが襖を開けたとき、廊下に見知った顔があった。


「あ!」

「あれ?愛さんじゃないですか」


それは幸太がたまに連れてくるヤクザ友達だった。

よく美優とも遊んでくれる人だ。

助かった!


「ごめんなさい。悪いんだけど少しだけ美優を見ててもらえないかしら?」

「お安い御用ですよ。美優ちゃん、おいで。お外で遊ぼう」


「お外」と聞いて美優の目が輝いた。

あっと言う間に私の手を逃れ、廊下へ走っていってしまった。


「はあ」

「ははは、すっかり母親が板についてるな」

「ええ・・・もう、大変よ」

「みたいだな」


こんなボロボロになりながらするような話じゃないのに・・・

私はため息をついて、鞄を開いた。


「これ。統矢に渡そうと思って。幸太には内緒よ」

「なんだ?」

「住所。そこにユウさんと蓮君が住んでるわ」

「!」


統矢の顔が固まった。


「私でも簡単に見つけられたんだから、廣野組の力を持ってすればすぐに見つかるでしょうけど・・・

探したいけど探してないんでしょ?」

「・・・どうしてそう思う」

「わかるわよ、統矢のことならなんでも」

「・・・」


10年間も見てきたのだ、統矢の考えていることなんて、手に取るようにわかる。

連れ戻すつもりがあるかどうかは別として、統矢はユウさんの居場所くらいは知りたいはずだ。

でも、自分の浮気のせいで出て行った妻を「探せ」とは組長として子分に命令できないだろう。

統矢の性格ならなおさらだ。


「連れ戻せって言ってるんじゃないわ。ユウさんも蓮君も今とても幸せに暮らしてる。

結婚したわけじゃないけどね。ただ、そこに居るってことだけ統矢に知っていてほしいの」

「・・・二人に会ったのか?」

「ユウさんには会ってないわ。でも・・・」


私はもう一度鞄を開き、ソレを統矢に渡した。

統矢が目を見開き、食い入るようにそれを見つめる。


蓮君とサナちゃん、そして美優の3人が写った写真だ。

山尾家を失礼する前に撮り、山尾さんがその場でプリントアウトしてくれた。


「蓮君には会ったわ。とっても元気だった」

「・・・そうか」


統矢はいつまでもその写真を見つめていた。




タクシーから夕日が見える。

綺麗だ・・・


美優はまた私の腕の中でグッスリと眠ってしまった。

こんなにお昼寝ばっかりしてたんじゃ、夜はなかなか寝ないだろうな。


流れる景色をぼんやりと見ながら、廣野家のあの長い廊下を思い出す。

延々とどこまでも続くような廊下。

あのお屋敷の広さを象徴しているようだった。


統矢はあの広い広いお屋敷にたった一人で居る。

子分はもちろんたくさんいる。

でも・・・


統矢に渡した写真の中には統矢の子供が二人も写っている。

だけど二人とも統矢の側にはいない。

ユウさんもいない。

統矢は一人きりなのだ。


幸太が、

「ネェちゃんはいつも俺に、『コウちゃんは頑張っていつか統矢さんの役に立ってね』って言ってた」

と言っていた。

私は、ユウさんが幸太のことを心配してそう言っているのだと思っていた。

確かにそういう気持ちもあっただろう。


でも、おそらくユウさんの本心はその言葉通りなのだ。


『統矢さんの役に立ってね』


ユウさんはいつでも統矢のことを想っていた。

自分が統矢と私のせいで苦しい立場にある時も、統矢ことを心配していた。

だから、幸太に統矢を助けてほしいと言ったのだろう。


私にも・・・

私にも何かできるだろうか?

幸太が統矢のために働けるようになったとき、私にもその手助けができるだろうか・・・?




「あれ?電気がついてる」


家のドアを開けて驚いた。

私、電気をつけたまま出掛けちゃってたのかな?


「愛ー、遅い!どこ行ってたの?腹減ったー!」

「幸太?どうして居るの?遅くなるんじゃなかったの?」

「愛と美優に会いたくて早く帰ってきた」

「嘘ばっかり。道が空いてただけでしょ」

「・・・それもある」

「連れ込み旅館はどうだった?」

「おー。よかったよ!って、だからそんな旅館じゃないって!普通の旅館!」


どうだか。


「美優、ママとどこ行ってたんだ?ママの浮気に付き合わされてたのか?」

「ちんかんちぇん」

「ちんかんちぇん?新幹線か?」

「ふじちゃん」

「ふじちゃん?・・・富士山か?」

「うん」


幸太がジロリと私を見る。

うわー!美優!!なんてことを!!!


「愛・・・」

「み、美優ったら何訳のわからないこと言ってるのかしらね!ほら、二人とも!

早くお風呂入っちゃって!私は夕ご飯の準備するから!」


二人をお風呂へ追いやって、ため息をつく。


子供って無邪気すぎて怖い・・・

見てないようで何でも見てる。

そういえば、お隣の奥さんが、

「子供が幼稚園でオママゴトしてたんだけど、私と夫の夫婦喧嘩を見事に再現してて焦ったわー」

って言ってたっけ・・・

気をつけなきゃ。



「夕飯なに?」

「幸太の大好きな焼肉よ」

「おお!やった!・・・って、家で焼肉って、すげー手抜きなんじゃない?」


バレたか。


「・・・今日ってやっぱり一日中、出かけてた?まさか本当に浮気してたとか?」

「な、何バカなこと言ってるのよ!私がそんなことする訳ないでしょ!?」

「してたくせに」


うっ。


「幸太こそ!連れ込み旅館に行ってたくせに!」

「だからそんなトコじゃないって言ってるだろ!?」

「ちゅれこみりょかんー!」


美優!それはオママゴトにはちょっとハード過ぎるわよ!


「お。美優、難しい言葉、言えるんだな。でも『ちゅれこみ』じゃないぞ、『つれこみ』だ」

「ちゅれこみ」

「つ・れ・こ・み」

「ちゅ・れ・こ・み」

「つ!」

「ちゅ!」

「つ!だって」

「つ!」

「おお!言えた!偉いぞー、美優!」

「ちょっと、幸太!!!!」


あはは、と幸太が笑う。



なんでもない普通の食卓。

どこにでもある光景。

でも、こんなふとした瞬間に眩暈がしそうなくらい幸せを感じる時がある。


私が統矢のために直接できることは、今となっては何もない。


統矢自身の幸せは、統矢が自分で手に入れるしかない。

ユウさんと蓮君がそうしたように。

そして私が、幸太の助けを借りてそうしたように。


統矢はユウさんと蓮君を連れ戻すだろうか?

それとも連れ戻さないだろうか?


私にはわからない。

どちらが統矢にとって幸せなことかもわからない。


でも、私はこれからも統矢を見守って行きたい。

統矢が幸せになるのを、ここで、幸太の横で見守って行きたい。

それが、私が統矢にできる唯一のことだ。


ううん、もう一つあった。

私が統矢のために、そしてユウさんのためにできること。


それは、私自身が幸せであり続けること。


それが、私の罪滅ぼしだ。




最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

これでようやく本編の「18years」を再開できます!

明日から早速更新を始めますので、よろしければそちらもご覧ください。

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