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第23話

東京駅につくと、私は眠ったままの美優を抱き直し、タクシーを拾った。

家に帰るだけなら電車でじゅうぶんだけど、

その前に寄るべきところがある。



私は勘違いしていたようだ。

私が心配すべきはユウさんではない。


私が心配するべきなのは・・・




廣野家は久しぶりだ。

いや、中には入ったことはない。

統矢とつきあっている時もここには近づいたこともない。

ただ幸太が高校生のとき、この近くまで送っていたので、

遠目には何度も見たことはある。


タクシーの運転手は気味悪そうに私と美優を門の前で降ろし、

さっさと去っていった。


・・・それにしても、近くで見ると凄い。

まずこの広さ。

私の実家もたいしたものだと思うけど、比べ物にならない。

ここにはかつての幸太のように住んでいるヤクザが50人近くいるという。

それにしても広い。

軽く100人以上は住めるだろう。

まさに「お屋敷」という感じだ。


更に、この鉄の黒門。

そりゃいつ攻め込まれるかもしれない世界だ。

セキュリティにも気を使うだろう。

この門なら散弾銃を打ち込まれても平気だ。


その門の前に、見張りとおぼしき若いヤクザ達が5人ほどいた。

統矢や幸太とは違い、「いかにもヤクザ」という強面の人たちだ。

でも、統矢とつきあっていた頃は、この手の人がいつも統矢と私の近くにいた。

それに、幸太もたまにヤクザ友達を家につれてくる。


だから私もすっかりヤクザ慣れしてしまい、この程度の若いヤクザなんて、

かわいい坊ちゃんもいいところだ。



「すみません。組長に用事があるんですけど」

「何?」

「組長の廣野統矢に会いたいんです」

「あんた、何モンだ」


組長の元愛人です。

いや、ダメか。

下手したらつまみ出されそうだ。


「えーと、間宮幸太の妻です」

「まみやこうた?」


あれ、知らないのかな。いい加減古株だと思ったけど。

それとも、「間宮幸太」じゃわからないのかな。

結婚したばっかりだし。


「ええっと、本城幸太の妻です」

「ほんじょうこうた?」

「・・・」


そう言えば、統矢は幸太のことをこう呼んでた。


「コータ、の、妻です」

「・・・」


あれ?ダメ?


「コ、コータさんの奥様・・・!?」

「はあ。それと娘です」

「し、失礼しました!!!」

「・・・」


どうやらこの門番達は幸太より下っ端らしい。


私はうってかわって、丁重な扱いで中に案内された。



このお屋敷、外も凄いけど、中も凄い。

門から一足踏み込むと、そこには見事な日本庭園が広がっていた。

その辺のちょっとした公園なんて目じゃない。

小池には橋がかかっていて、美優の遊び場には最適だな・・・

なんて思う。


あの元気な蓮君が頭に浮かぶ。

あの子が今ここに住んでいたら、毎日のようにこのお庭を駆け回っていたことだろう。

ただし、そこにサナちゃんはいない。

あの二人の仲の良さを考えても、やはり蓮君はここを出てよかったのかもしれない。



うちの全部屋がすっぽり入りそうなくらい大きな玄関ホールを抜け、

先が見えないくらい長い廊下を進む。

廊下の左側は先ほどの庭に出れるようになっており、右側は延々と襖が続いている。


一番奥まで来たところで、ようやく襖の中へ通される。


・・・予想はしていたけど、今ずーっと歩いてきた廊下に平行して、

これまたずーっと畳の間が広がっていた。

一体何畳あるんだろう・・・数えているだけで日が暮れそうだ。


「ここでお待ちください。組長を呼んできます」

「・・・はあ」


その時、ちょうど美優が目を覚ました。


「ママ?」

「あ、おはよう。起きちゃった?」


美優はしきりに辺りを見回した。


「おっり、おっり!」

「降りたいの?はい」


と、美優を降ろした瞬間、後悔した。

けど、時既に遅し。

美優はすごいスピードでその広間を走り出した。


「み、美優!ダメよ!止まりなさい!」

「キャハハハハー!!!」


確かにこの広い畳の間は、子供には魅力的だろう。

走り回りたい気持ちはわかる。

でも!!!

場所が悪すぎる!!!


統矢は美優に会ったことがない。

初対面がこれじゃあ、

統矢の娘としても、幸太の娘としても、

なんだか申し訳なさ過ぎる!


「美優!!!いい加減にしなさい!!!ママ、怒るわよ!!!」

「ヤダー!」

「ヤダじゃない!!!」


1歳半とはいえ、子供の全力疾走はかなり速い。

私も本気になって追いかけるけど、ストッキングにスカートでは大したスピードも出ない。


「みゆ・・・!」

「何をしてる?」

「・・・統矢!」


いつの間にか統矢が部屋の中に入ってきていた。


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