第20話
去年の11月に幸太が司法試験に合格してからは別の意味で大変だった。
私のお爺ちゃんと両親がようやく結婚を認めてくれたのだ。
それでも最初は渋々、といった感じだった。
ところが・・・
純粋な本心なのか、狙っていたのか分からないけど幸太がこんなことを言い出した。
「愛って一人っ子だろ?俺でよければ、養子になるよ」
もう、この一言で間宮家はノックアウト。
特にお爺ちゃんの喜びようと言ったら・・・
私が妊娠して半勘当状態になって以来、
お爺ちゃんとしては、もう私に家を継いでもらうことは諦めていたらしい。
かわりに、大して思い入れもない親戚の誰に継がせようか・・・と悩んでいたところに、
幸太からの鶴の一声。
しかも曾孫付き。
嬉しくない訳がない。
さらに幸太は廣野組の組員ではあるけど、堀西の高校をトップで卒業し、H大に現役で合格、
19歳で司法試験に合格・・・って世間的に見ればいつの間にやら超インテリだ。
婿養子としては、文句のつけようがない。
「うわー。私ならそんな男と絶対結婚したくない」
「するんでしょ?」
そうでした。
12月6日の幸太の二十歳の誕生日も間宮家で祝った。
お酒好きのお爺ちゃんの息子とは思えないほど、お父さんは下戸だ。
それに比べ、幸太は折り紙つきの酒豪。
結局朝までお爺ちゃんと幸太の二人で飲んでいた。
翌日は私の冷たい視線に二人してそっぽを向き、それぞれベッドに潜り込む始末。
その日の夜は、二日酔い(と言うのかわからないけど)の幸太と一緒に、
幸太の実家を訪れた。
14歳で家出して以来、お兄さんとはたまに連絡を取るものの、ご両親とは全く音信不通だったと言う。
6年ぶりの再会とあって、さすがの幸太も少々緊張気味だった。
「幸太って、本城っていう苗字だったんだね」
「そう言えば、そうだった」
「しかも・・・ご実家、弁護士事務所なのね」
「うん。俺も兄ちゃんも、親にしつこく『弁護士になって家を継げ』って言われてうんざりして
家を出たのに、俺は結局弁護士を目指しちゃってるなー」
「え?お兄さんも家出したの?」
「いや、兄ちゃんは高校教師になって普通に家を出たんだ」
幸太が耐えかねて家出するなんて、一体どんなご両親なんだろう・・・
と、不安になりつつ門をくぐった。
でも。
なんてことはない、ごく普通の優しいご両親だった。
いかにも幸太のお父様とお母様と言う感じで、とてもいい人達だ。
「はじめまして、愛さん。幸太の父親です。すみませんね、わざわざ。
しかもこんなバカ息子と・・・愛さんは心が広いですな」
「幸太の母です。まあ、可愛らしい方ね。しかもこの女の子・・・天使みたい!
うちは男の子二人だったから、こんなかわいい女の子、うらやましいわ」
と、ニコニコしている。
ごめんなさい・・・この子は本当はお二人とは血の繋がりはないです・・・
そう心の中でお詫びして、私も挨拶させてもらった。
「はじめまして。ご挨拶が遅れて申し訳ありません。間宮愛と申します。それと・・・娘の美優です」
「でしゅ」
美優も愛想よく笑う。
もうお二人ともすっかり美優の虜だ。
昔は幸太も子供だったのだろう。
反抗期と言うこともあって我慢がきかず、家出してしまった。
しかもその時、たまたま統矢に出会い心酔してしまい、家に帰らなくなっただけだ。
「いや、昔は本当に口うるさかったんだよ。今は兄ちゃんの嫁さんが弁護士で、
家を継いでくれることになったから安心して丸くなっただけ」
なんて幸太は言うけど。
そのお兄様と言うのが・・・
「愛。見とれすぎ」
幸太にわき腹をつつかれてしまった。
だって!!かっこいい!!
幸太もかっこいい方だとは思うけど、若いということもあり
まだまだ「かわいい男の子」の域。
でも、このお兄様は・・・もうどこをどうとっても正真正銘のイケメン!
幸太と10歳違うって言うから30歳のはずだけど、どう見ても25歳くらい。
背も180以上あるかな。
スポーツでもしていたのか、がっちりしてるけど細身で、スタイル抜群。
眼元はお父様譲りで、幸太も含めて3人ともそっくりだ。
鼻も高くてくっきりしていて・・・それでいて濃すぎず。
うわー、うわー・・・これは・・・乗り換えようかしら・・・
「はじめまして。本城真弥といいます。こっちは妻の和歌」
これまたそつのない素敵な笑顔で挨拶されてしまった。
そうだ。結婚されてたんだった。残念。
「和歌」と紹介された女性が幸太と私に向かって「はじめまして」と会釈する。
和歌さんは真弥さんに比べると少し地味な感じはするものの、
ストレートの黒髪がとっても綺麗な知的美人という風情。
弁護士としては理想的だ。
歳はたぶん私と同じくらいかな?
私も真弥さんと和歌さんに挨拶をする。
「はじめまして」
「うわ、すげー美人だな。幸太、お前にはもったいなさすぎる」
幸太が真弥さんをジロッと睨む。
「兄ちゃんだって、なんだよ、こんな若い奥さんもらって。和歌さん、騙されちゃダメだよ。
この人、八方美人の遊び人だから」
「おい」
「ほんと、若いよね。和歌さんていくつ?」
「24歳です」
「6つも下じゃん」
「愛さんもお前より5つ上だろ。でも全然そう見えないけど」
と、またもやニッコリと私に微笑みかける。
ああ。眩しい。
でも、幸太は何やら不審そうな顔つきで呟いた。
「ちょっと待って。6歳差って・・・和歌さんてもしかして・・・」
「うっ」
真弥さんが気まずそうに頭を掻く。
和歌さんもちょっと赤くなって下を向く。
え?何?
「兄ちゃん、和歌さんて兄ちゃんの教え子?」
「・・・」
「うわー!最低!!信じらんねー!!!」
ええ!?なんてドラマチック!!!
というか、組長の元愛人に手を出した幸太に「信じらんねー」とは言われたくないと思うけど?
そんな兄弟のやりとりと、美優の存在のお陰で、6年ぶりの再会はとても和やかなものになった。
なんだかんだ言っても家族なんだ。
そう簡単に離れたりしない。
幸太と私は12月24日に入籍して、家族だけで式もあげた。
「ごめんね」
「何が?」
「相手が私じゃなければ、幸太は絶対統矢を呼んでたよね」
「んー。たぶん呼んでない」
「どうして?」
「統矢さんてさ、こういう形式染みたこと嫌いだから。
『おめでとう』って言ってもらえただけでじゅうぶん」
クリスマスパーティの時の統矢を思い浮かべる。
・・・確かに、こういうのは苦手そうだ。
統矢と初めて会った13歳のクリスマスイブ。
それからの10年間、私の人生は統矢のためだけにあった。
そして25歳のクリスマスイブ。
私は2度目の恋を実らせ、
幸太と、そして美優と一緒に新しい人生をスタートさせた。
これからの人生は、幸太と美優のため、そして自分のために過ごしていこう。