第15話
統矢が私を愛人にしてもいいと思った理由。
いくつかあるだろう。
まずは単純な同情。
それと、長年自分を思ってきた女を振ったという罪悪感。
それに・・・
統矢への想いは私の全てだった。
それをバッサリ断ち切ってしまうとどうなるか・・・
統矢は敢えて挑発的な言い方をして、私が統矢のことを思い続けられるように仕向けた。
私に、統矢を奥さんから奪い返すという目標を与えた。
これは統矢の奥さんであるユウさんを傷つけることにもなる。
それでも統矢は私のために、敢えてこういう風にしてくれたのだ。
その気持ちが嬉しかった。
ほんの少しでも、ユウさんより私を優先してくれたことが嬉しかった。
パーティの時に会った、人のよさそうなユウさんの笑顔を思い出す。
私は何も本気でユウさんから統矢を奪い取ろうとは思っていない。
ただ・・・
少しだけ統矢の気持ちに甘えて、統矢を借りたい。
9年間も思い続けてきたそのご褒美、というのも変だけど。
車で帰っていく統矢を窓から眺めた。
結果としてお爺ちゃんの企みどおりになった。
少しの間だけ、私を統矢の愛人にしておいて、
私を立ち直させる。
統矢も私もその作戦にまんまと乗ってしまった。
統矢も乗せられた?
違う。
わかってる。
統矢が私を愛人にしてもいいと思った理由。
同情、罪悪感、励まし・・・
それだけと思っておきたいけど、違うだろう。
最大の理由はビジネス。
間宮財閥は、ヤクザとも繋がりがある。
どうしても表立って出来ない仕事はヤクザに・・・主に廣野組に回している。
莫大な謝礼を払って。
統矢からすれば、私のお爺ちゃんは大きな取引相手の社長だ。
その社長からの頼みを無碍には断れない。
だから私の面倒を見る。
だから私を立ち直させる。
全ては廣野組のためだ。
同情もあるだろう。
罪悪感もあるだろう。
励ましたい気持ちもあるだろう。
だけど統矢はそんなことだけで、適当な愛人は作らない。
間宮財閥の娘という肩書きが私にあるからこそ、愛人にするのだ。
だから、お爺ちゃんの話を聞いたとき、私は嫌な予感がした。
心のどこかで、きっと統矢はお爺ちゃんに乗せられた振りをして、
私を愛人にするだろうと思った。
軽い屈辱感を覚えた。
でも・・・
それならいっそのことそれを利用しよう。
私が間宮財閥の娘ならば、
期限が1年と決まっているならば、
統矢は私を決して粗末には扱えない。
ユウさんは、これから何十年と言う長い時間、統矢と一緒に過ごせる。
しかも統矢の子供も一緒に・・・。
だけど私にはそれは叶わない。
ユウさん、ごめんなさい。
1年後、私はまた少し泣いたら、今度こそ一人でちゃんと立ち直ります。
だから・・・
1年だけ私のワガママを許してください。
1年だけ私を思い切り勝手で嫌な女にさせてください・・・