第12話
私は、幸太が乗るとすぐに車を発進させた。
幸太にどこに行くかとも聞かないし、
幸太もどこに行きたいと言わない。
自然と私は自分のマンションに向かった。
車中、「おつかれさま、どうだった?」と聞いたけど、
幸太はさすがに疲労困憊という感じで、
「やるだけやったし、大きな失敗はなかったから・・・後はもう神任せ」
と息をついた。
「後期の勉強も一応しとかないとなー。後期もH大だけど、T大滑った奴とかが
受けにくるから後期は厳しい・・・」
らしい。
でも、幸太には申し訳ないけど、今の私は取り合えず幸太に会えたから万々歳だ。
私の機嫌に比例して車のスピードも速くなる。
「俺、ビーエムの黒いセダン飛ばす女って好きじゃない・・・」
悪かったわね。
「免許、取らないの?」
「大学生になれたらね。でも金ないし。司法試験に受かってからバイトしながら取るよ」
「それくらい、統矢が出してくれるでしょ?合格祝いとかでおねだりしてみたら?」
「たださえでも居候の身だし、大学の金も出してもらうことになるからさすがに頼めない」
「じゃあ、合格したらお祝いに私が教習所代をプレゼントするわ」
「いらない」
「どうしてよ?」
「・・・なんか、嫌だ」
「そう?じゃあ何がほしい?」
「まだ受かってないし」
「じゃあ、考えといて」
幸太は返事をせずに窓の外に視線を移した。
何を考えているのか・・・は、マンションについたらすぐにわかった。
玄関に入るなり、幸太はキスしてきた。
しかも・・・離してくれない。
どうしよう。
さすがに玄関で、は、嫌だ。
なんとか靴を脱いで上がる。
寝室まで、わずか数メートル。
普通に歩けば10秒もかからないのに、私たちはその入り口までたっぷり20分はかかった。
でも、せっかく頑張って(?)ここまで来たのに、
幸太は寝室に入るのを拒んだ。
なんで?と聞いたら、呆れられてしまった。
男心がわからないのか、と。
・・・ああ、そういうことか。
「統矢はこのマンションに来たことないわよ」
「え?どうして?」
「さあ・・・」
「そっか・・・」
という訳で、ようやくベッドまでたどり着いた。
統矢はここに来ようとはしなかった。
付き合っていたときは、それが寂しかったし悲しかった。
でも今は心の底から感謝したい。
目が覚めたのはもう12時近かった。
こんなつもりじゃなかったけど、掃除しておいてよかった・・・
なんて女らしく現実的なことが頭をよぎる。
隣を見ると、幸太は私を抱きしめたままスヤスヤと眠っている。
っぷ。
思わず噴出す。
高校生だから本当に若いんだけど、それにしてもこの寝顔は若すぎる。
中学生みたい。
そういえば統矢の寝顔って見たことがない気がする。
いつも私の方が先に寝てしまい、統矢の方が先に起きていた。
あまり気にしなかったけど、今思えば統矢にとって私は安心して一緒に眠れる女ではなかったんだろう。
それに引き換え、この幸太は・・・
なんだかイタズラがしたくなってきた。
ユウさんが眠っている統矢のオデコに「肉」って書いた気持ちが物凄く良く分かる。
なんか、こう・・・愛おしすぎてイジメたくなる。
でもさすがに「肉」はないなあ、どうしようかなあ・・・と考えていると幸太が目を覚ました。
「あれ?今何時?」
「12時よ」
「まだ12時・・・おやすみ・・・いや、やっぱり・・・」
そう言ってまたキスしてくる。
そうだ。
いっつもしてやられてばっかりだから、たまにはギャフンと言わせてやろう。
「幸太は手馴れてるわね。服はともかく、ストッキング脱がすのが上手すぎる。
思わず破っちゃうくらいの愛嬌はないの?」
「統矢さんに脱がし方、教えてもらった」
「・・・」
そうきたか。
じゃあ、逆にそれを使ってやろう。
「でも、統矢は絶対玄関で押し倒してきたりしないわ。大人だもの」
「・・・」
ふふふ。
お姉さんを舐めるんじゃない。
「愛はそういうこと言わない程度に大人だと思ってたけど、意外と子供なんだね」
うっ
「それに、統矢さんはいきなりネェちゃんの部屋に押しかけて、無理矢理やっちゃったんだよ?
ネェちゃん、初めてだったのにかわいそーに」
「・・・」
「ふふん」
「・・・・・・ごめんなさい。負けました」
「素直でよろしい」
幸太は満足したように不敵に笑うと、
私を抱きしめた。
「俺をイジメたいなら、シンプルに『統矢の方が上手だわ』とか言っときゃいいのに」
なるほど。
「でもまあ、それは仕方ないわよね。幸太はまだ18だし、統矢と一回りも違うんだから」
「・・・本気で言ってる?」
「何を?」
「・・・・・・もういい」
そういうと幸太は布団を頭までかぶって私に背を向けた。
何???なんで怒ったの???
まあ、いいか。
私は幸太を後ろから抱きしめて、また眠りについた。