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第10話

車を止めてエンジンを切る。

時間は午後6時50分。


20分だけ。

20分だけ待ってみよう。


目の前には母校の校門があった。

大学受験をする「外組」は、卒業式が終わっても学校で毎日勉強する人が多い。

私もそうだった。


そして昨日、幸太は7時に勉強を終えた。

たぶん幸太の中で、なんとなく7時が勉強の一区切りの時間で、家に帰ることにしてるのだろう。


わざわざ残業もせず帰ってきて、こんなところで・・・

何やってるんだろう、私。

これじゃ幸太にストーカーだと言われても仕方ない。


私はシートに深く腰をかけなおした。




7時7分。

出てこないな・・・

もう帰っちゃったのかな?

まだ勉強してるのかな?

それとも・・・学校で勉強していないのかもしれない。


昨日は卒業式だったから学校の図書室が使えず、外で勉強したのかと思ったけど、

もしかしたら幸太は元々、学校ではなく図書館で勉強する派なのかもしれない。


確かにそういう生徒はいた。

周りに友達がいると集中できないから、と言って。


仕方がない。

帰ろう。



そう思ってキーを回そうとした時、

校舎から出てくる幸太の姿が見えた。






それ以来、私と幸太は毎日会った。

といっても、幸太は受験を控えている。


私が7時に学校へ迎えに行き、幸太の教えてくれた「ファミレス」で夕食をし、

廣野家の近くまで送っていく。

しめて1時間ちょっと。


だけどそれが私の大切な時間になりつつあった。


普段は電車通勤だけど、幸太を迎えに行くために毎日車で通勤した。

仕事が忙しい時は、始発並みに早い時間に出社して、帰りはなんとか7時に間に合わせた。

3月に回せる仕事は全部3月に回した。

それでも突発で残業しないといけない時は会えなかった。

そういう時は、幸太も会えない時間を勉強に回し、次の日に少し長めに食事の時間を取ってくれたりした。


そんなちょっとした気遣いが、統矢はしてくれなかった気遣いが、嬉しかった。


幸太は本当に頑張っていると思う。

朝7時から夜7時までみっちり勉強し、家に帰ってからも勉強しているようだ。


そんなにH大に入りたいの?と聞いたら、


「法学部に行って、司法試験受けたいんだ。弁護士になって将来統矢さんを助けたい」


と照れくさそうに言った。


「まあ、ネェちゃんからの受け入りだけどね」


ううん。

立派な夢だと思う。

私が言うのも変かもしれないけど頑張ってほしい。

頑張って統矢の右腕になってほしい。


そしてできれば、私はそれを側で見守っていたい。



受験の前日、幸太はさすがに学校にも行かず家にこもって勉強していた。

でも、会社帰りに少しだけ会ってくれた。

どうしても直接、頑張ってと伝えたかった。


幸太は「うん、ありがとう」とはにかんだ。



H大の試験は2日間に渡って行われる。

普通の大学は1日で終わるけど、H大ぐらいになると、

科目数も多いし、1科目の受験時間も長い。

受験生は勉強という面でも大変だけど、精神的にも体力的にも辛いだろう。


1日目が終わった夜、幸太に電話かメールをしたかったけどやめておいた。

別にメールの一つやり取りしたところで合否に響くとは思えないけど、

この2日間は幸太に受験の世界にはまっておいてほしかった。

下手に他のことに気を回さないで欲しかった。


なんて。

大人ぶってみたけど、正直辛かった。

たった1日、幸太の姿も声もなしで過ごすのが想像以上に辛かった。


私って幸太のこと好きなんだなあ、と今更ながらに気づき、

ほんの2ヶ月前に「もう二度と恋なんてしない」と泣きじゃくっていた自分に恥ずかしくなった。


10年間も統矢のことが好きだったのに。

なんたる変わり身の早さ。

でも、これは私のせいじゃない。

幸太のせいだ。


私は悪くないもん・・・。



明日は日曜日だから携帯はサイレントにしてアラームも切っておこう。

さすがに幸太からも連絡はないだろう。

明日も長い一日になりそうだ・・・

できるだけ遅い時間まで寝ていよう・・・


私は携帯を握り締めて、ふてくされながらベッドに入った。


それなのに、翌朝は6時に自然と目が覚めてしまった。

携帯をみると、昨日の11時に幸太から「おやすみ」とメールが来ていた。












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