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告白

 初対面の時、公爵様は私を異国からの客人だとお義母様に紹介されました。王様からの大事な預かり者だとも仰りました。お義母様は王様からのお手紙を読まれ、私を公爵家の後妻として丁重に扱って下さいました。私はてっきり異世界人だと書いてあると思ったのですが、その後のお義母様との会話からそうではなさそうだと判明しました。本当の事を話して酷い扱いを受けるのが怖かったので(王城では牢に入れられ散々厳しい取り調べをされたので)、私は遠い異国からやって来た客人だという誤解を否定しませんでした。

 しかし、そんな私が後妻になった事で王弟殿下から危険視された結果子供たちの養育権を取り戻す事が出来ないのならば、お義母様に真実を打ち明けこの家から出て行く事になったとしても、子供たちの為に喜んでそれを受け入れる覚悟があります。この世界に来てからもう4年近く経ち、すでに20歳を越えました。成人している上に義理とは言え母親なのです、私はもし自分が万が一子供を持ったら、自分の事よりも子供の事を優先する親になりたいとずっと考えていました。私を育ててくれた祖母と叔母に恥じぬよう、二人には立派になったと誇りに思ってもらえるような人間になりたいのです。


 私は魔法使いの話はぼかして、お義母様に真実を伝えました。おそらく公爵様が口止めされているのはその部分なのではないかと思われたので。私の話を遮る事無く聞いて下さったお義母様は、話が終わると優しく私を抱き締めて下さいました。


「ハツコ、あなたがどんな産まれだとしても我が家の恩人である事に何の変わりはありません。あなたを追い出して子供たちを戻したら、私はあの子たちに酷い祖母だと嫌われてしまいますよ」


 私は話している時には必死に涙を堪えていましたが、お義母様に抱き締められた瞬間に涙が溢れて止まりませんでした。お義母様の声も涙声です。私は自分を否定されなかった事に安堵しお義母様の優しさに包まれながら、ファスセウスが私たちを探して公爵様の部屋に入って来てからも泣き続けました。


 公爵様は私が話し出した時からハラハラしながら見ておられましたが、魔法使いの話をぼかしたのが分かった時点でほっとされていました。そんな自分本位の公爵様には少し腹が立ちましたが、お義母様が私の辛い気持ちを理解して下さり、この先は実の娘と思いこの世界での私の母となり支えになると仰って下さったので、王様からの命令とは言え私を後妻にして下さった公爵様には感謝しています。公爵様の母親がお義母様でなければ、私はもっと悲惨な事になっていたかもしれませんので。


 私が泣いていたので、ファスセウスは私にしがみ付いて一緒に泣いてくれました。こういう時に自分の気持ちに寄り添ってくれる存在がどれだけ愛しく大事なのか、私は彼に教わりました。子供がこんなに愛しいなんて、日本にいたなら一生知る事は無かったでしょう。もうすぐ私の背を抜きそうな程大きい7歳児ですが、姿形や血の繋がりなんて関係ありません。私は自分が両親と同じ酷い親になってしまう事を恐れ子供は絶対に産まないと決めていましたが、私を育ててくれたのは祖母と叔母です。私がちゃんとそれを忘れずにいれば恐れる事は無いとこの世界に来て分かりました。


「申し訳ありませんでした、大人なのに大泣きしてしまって」


 私はやっと気持ちが落ち着いて泣き止むと、三人に謝りました。先程まで昂っていたので気にしていませんでしたが、ファスセウスにまで心配を掛けて泣かせてしまうなんて、母親としてかなり減点なのではないでしょうか。


「気にする事はありませんよ、あなたと同じ経験をしたら私なら一生泣き続けると思いますよ」


 お義母様ならどんな場所でも逞しく生きていけそうだと思いますが、私を慰めて下さって嬉しいです。ファスセウは訳も分からずにただ泣いている私と一緒になって泣いてくれましたが、彼にもいずれ私の話をしたいと思います。私が産まれた世界を、子供たちにも知ってもらいたいです。


「ハツコお母様、もう大丈夫なの?」


 まだ涙目のファスセウスが不安そうに聞いてきたので、私は彼を抱き締めました。やはりこんなに優しいファスセウスを権力争いの道具にしたくありません。私は王城で働く事になっても偉い方々には会いたくないと思っていましたが、積極的に関わって仲間を増やす事も考えなくてはなりません。


 私の武器は娯楽と甘味だけ、正直それで渡り合っていけるのかは疑問です。しかし、王妃様とお義母様と侍女さん達と子供たち、今のところ女性と子供には大変好評です。その線から徐々に攻めて行けばもしかしたら状況を変えられるかもしれません。まずはお偉方の奥様たちとどうにかしてお知り合いになる方法をお義母様に教えて頂き、王都で王妃様に協力して頂きながら少しずつ私の勢力を広げていこうと思います。

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