回想 1年目 兄姉たちと末っ子
指人形、それは指に顔を描くだけで何人もの役者を揃える事が出来る魔法の技。小学生の時、一人一人が自分でオリジナル脚本を考えて披露するという地獄の指人形劇発表会が開催されました。発案者は大学時代に少し芝居をかじったという担任A先生(個人情報保護の為仮名を使用しています)、手品と違い男子も女子もぶーぶー文句を言っていましたが、先生は全く意に介さず。素人小学生の見るに堪えないお粗末な芝居が延々と垂れ流されました。私は一生懸命考えた劇を披露しましたが、結果は惨敗。意気消沈して家に帰り、まだ幼稚園生だった弟にやけくそ気味に見せたところ、弟には大好評でした。学校では出来なかった大袈裟なお芝居と変な声がウケただけでしたが、それ以来弟の為に度々劇は上演されました。弟、今頃元気にしてるかな。中学生になったら急に生意気になってあまり口をきかなくなってしまったけど、お姉ちゃんがいきなり消えたらさすがに心配してるよね。両親は共働きで仕事第一って感じだったから、寂しい思いしてないといいけど。
子供にはウケるはず、でも文化が違うし難しいかも。色々と悩みましたが、意を決してファスセウスに強引に見せたところ、少しだけ反応してくれました。それまでは前公爵夫人の後ろに隠れて一切こちらを見てくれなかった事を考えると、大前進です。私はこの機を逃してなるものかと毎日次から次へと新作指人形劇を上演しました。発表会とは違い既存の物語を使用出来るのでネタは尽きません。次第に少しずつ彼の表情が柔らかくなっていき、1ヶ月くらい続けた結果なんと初めて彼の声が聴けたのです。
それで有頂天になる私ではありません。石橋を叩いて叩いて結局渡らないと言われた私の慎重な性格は、異世界にきても健在です。私は更に子供にウケそうな事を必死に考えました。弟は簡単な手品でも不思議の虜になって何度も同じ手品をねだってきました。A先生は特別な道具を使わない簡単な手品を何個も教えてくれたので、私は弟にとってずっと凄い姉で居続ける事が出来ました。その手品を、ファスセウスにも見せました。彼はとても興奮した様子で何度も同じ手品をねだってくれました。私はその要求に応え、彼が満足するまで同じ手品を繰り返し披露し続けました。
その一方で、兄姉たちにも言い分はあろうという事で接触を試みました。しかし、彼らは結束して私を排除しにかかりました。虫を大量に部屋にまき散らされたり、服をビリビリに破かれたり、芋畑を荒らされたり、その他にも悪戯で片付けるには無理がある仕打ちを受けました。中学生の時にいじめに合っていなければ、心が折れていたかもしれません。しかし、私にはあの地獄の日々を耐え忍んだ実績があるのです。あの逃げ場のない苦しい日々を思えば、ファスセウスの為という強い気持ちがある今の私にとって、彼らの行為は逆に闘志を燃やすガソリンになってくれました。
冷静に考えれば、彼らだって無責任育児放棄野郎の犠牲者なのです。私は彼らより年上で義理母であるという責任があります。ファスセウスの為を思うならば、兄姉たちの心も開かなければならない。そう気付くのに少し時間が掛かりましたが、私は彼らにも子供が喜びそうな事を色々と試していきました。
その中で気付いたのは、この世界は娯楽が少ないんじゃないかという事。私の拙い演技でも子供たちは熱心に見入ってくれ、簡単な手品でも凄く驚いていました。その他にも弟の要望でアニメキャラを描きまくって磨かれた画力を活かして広い畑に可愛いキャラクターの絵を書いたらとても喜んでくれました。そんなこんなでファスセウスだけではなく、長男レゾニティレン、長女シェラエナ、次男ブランシステス、三男ネフェラス(次男と三男は双子)とも打ち解ける事が出来、私はいよいよ彼らとファスセウスとの関係改善に着手しました。これが一筋縄ではいかなかったのです。




