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回想 1年目 義理母は難しい

 いきなり5人の母親か、と覚悟を決めて結婚したのですが、子供たちには一度も会わずに半年以上過ぎました。


 公爵様はお仕事で屋敷にはほぼおらず、前公爵夫人は別宅で末っ子と暮らし、私は本宅で公爵夫人としての仕事も無く呑気に芋を育てつつ屋敷で働いている人々と芋スイーツで仲良くなろう計画を順調に推し進めていた年の瀬、公爵様が突然お帰りになりました。そして告げたのです「子供たちの部屋を整えておくように」と侍女さん達に。


 普段から仕事熱心な侍女さん達は当然子供たちの部屋も綺麗にしているので平然としていましたが、私は緊張で心臓が引き絞られるような感じがしました。ついに子供たちと対面する事になるのです。私に出来る事は無いのですが、せめて義理の母親として恥ずかしくないようにしたいと芋スイーツを愛情込めて作りました。


 いざ初対面、少しいやかなり緊張しつつ子供たちの帰りを出迎えました。公爵様はあれほど愛した(侍女さん談)前奥様の産んだ子供たちに素っ気なく対応していて、とても驚きました。てっきり甘々な父親なんじゃないかと思っていたので。子供たちも公爵様に他人行儀な挨拶をしてますし。私は初対面の義理母として無難な挨拶をしました。子供たちには無視されましたが。


 歓迎されるとは思っていなかったので傷付きはしませんでしたが、それより末っ子の様子が気になりました。おそらく3、4歳くらいのはずなのに、前公爵夫人のスカートにしがみついて父親にも兄姉たちにももちろん私にも一切目もくれず、一言も発しませんでした。その姿を見て、私はピンときました。あれは、いじめに合っていた頃の自分に似ていると。


 いじめているのは兄姉たちで間違いない、と私の勘は告げていました。おそらくですが、母親を奪った末っ子に冷たく当たっているに違いないと。この勘はずばり当たっていて、私はどうにか末っ子を助けようと公爵様に直訴したのですが、なんと公爵様は愛する奥様を奪った末っ子にあまり良い感情は持っていないというのです。少しだけ上がっていた公爵様の好感度は、地の底の底まで一気に急降下しました。


 私は中学の時にいじめに合っていました。中学受験をして私立に合格したのですが、毎日辛い気持ちで学校に通っていました。教師は見て見ぬふり、高い学費を払ってくれている親には相談出来ず、弟や祖母たちには心配掛けたくなくて無理矢理笑顔を作り、独りでずっと苦しんでいました。そんな時、小学校の担任だった先生が下校途中の私に声を掛けてくれたのです。「大丈夫か」その一言に涙が溢れ止まりませんでした。話を聴いてくれて救われました。色々変な事をさせられたけど、生徒の事をちゃんと見ていてくれる良い先生だったのです。それからは無視されても仲間外れにされても悪口を言われても嗤われても、そんな事をする人間を気にするだけ無駄だと割り切って過ごす事が出来ました。後々祖母や叔母も私の異変に気付いてはいましたが私のプライドを守る為に静かに見守っていたと知り、自分が恵まれている事に感謝しました。


 だからこそ、私は絶対に末っ子を助けると決心したのです。あの時たった一人でも私の異変に気付いてくれた人がいたという事がどれだけ私の心を救ってくれたか。私は末っ子を救いたい、その一心で前公爵夫人に相談しました。前公爵夫人も末っ子の境遇に心を痛めており、何度も息子に改善を要求したそうです。しかし、公爵は愛する奥様の事を思い出したくないと子供たちには極力関わろうとはしませんでした。とんだ無責任育児放棄野郎です。私は怒りのあまり公爵様を一発ぶん殴ってやろうと意気込んで彼の部屋に乗り込みましたが、すでに姿はありませんでした。


 それからは毎日別宅に通い末っ子ファスセウスの心を開こうとあの手この手でアタックしましたが、結果は芳しくありませんでした。ちなみに最初はファスセウス君と呼びかけていたのですが、前公爵夫人に義理とはいえ母親が子供に対して君付けするのは良い事ではないと言われ、名前だけで呼ぶようになりました。


 私には弟がいるので子供の相手をするのは慣れているつもりでした。しかし義理母としてどう子供に接して良いのか分からず散々悩んだ末、小学生の時に教わったアレを思い出したのです。


 

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