言葉 葵
言葉葵は、昔から面倒事に首をつっこみがちだった。それは、葵のお節介な性格のせいだろう。その度に兄や周りの人たちを巻き込んでいた。それは、良い方向に転がることもあれば、悪い方向に転がることもあった。だが、葵は今でも面倒事に首を突っ込むのをやめなかった。それは葵の性格からなのか、それとも、それが葵の運命なのだろうか。
今回も例に漏れず、葵は困っている人の手助けをしようとしていた。
葵は大型トラックの助手席に座り、運転手の手伝いをするために港の倉庫に向かっていた。
「いやあ、助かったよ。急にバイトの子が来れなくなっちゃってね。お嬢ちゃんがいてくれれば仕事に支障は無さそうだ。あ、ちゃんとお給金は出すからね」
中年くらいの男の運転手は、にこにこ顔で話す。その腕は、華奢な葵の体と同じくらいありそうなほどに太く、筋肉がついていた。
「いえいえ、困ったときはお互い様ですよ。私で力になれるなら、なんでもしますよ」
葵もにこやかに答える。こういう、誰かを疑うという事を知らないところは、葵の長所であり、短所であろう。
トラックが止まる。倉庫に着いたようだ。倉庫はかなり大きく、自分の通う高校のグラウンドにある、陸上用のトラックと同じくらいあるなと葵は思った。
葵と運転手は、トラックの荷台から荷物を運び始めた。葵は小さめの荷物を持ち、運転手は大きな荷物を両脇に抱えて運んだ。
「力持ちなんですね」
「おうよ。これくらいは軽い軽い」
にこやかに声を交わしながら荷物を運んでいく。倉庫内は意外と閑散としていて、小さめのコンテナが数個置いてあるだけだった。
しばらくして、荷物は運び終わった。葵は、本当に自分が必要だったのか疑問に思っていた。それくらいには早く終わったのである。こんなことでお金をもらってしまうのは心苦しいな。と、思いながら葵が倉庫の端で休んでいると、運転手の男が葵の元までやってきた。
「お疲れ様。これは今日のお給金だよ」
運転手の男は、葵に茶封筒を手渡してきた。それを受け取ろうとした葵の腕を、男は掴んだ。そのまま葵に詰め寄り、言った。
「さっき、なんでもするって言ってたよね?」
葵は何がなんだかわからないといった状態で、頭の上にクエスチョンマークを浮かべ、混乱していた。
「おじさん、最近溜まっててね。ストレス発散に付き合ってもらおうか!」
男がそこまで言うと、葵もさすがに状況を理解したのか、恐怖心が葵の心を駆り立てた。逃げなければ、酷いことになるぞと、警鐘を鳴らした。
「やめてください!」
葵が叫んだ瞬間、男が手を離した。男は苦痛の表情を浮かべ、腕をさすった。
「お前も、こちら側の者だったか。野郎共!」
男の一声でどこからともなく、見知らぬ男たち数人が現れた。その男たちは、ギラギラとした目で葵を見ていた。
「やれ」
運転手の男の言葉と共に、周りの男たちが葵に飛びかかってきた。そのとき、入り口の方で大きな音が鳴ったが、葵には恐怖で聞こえていないようだった。
葵は恐怖にぐっと目蓋を閉じ、助けを求めた。
(お兄ちゃん……!!)
一瞬の間の後、葵が目蓋をゆっくりと開けると、葵の瞳に、見知った短髪とパーカーが映っていた。
「お兄ちゃん!」
「待たせたな。葵」