雑談
「ご飯今からだから、座って待っててね」
葵はそう言い、セキを椅子に座らせる。リビングとキッチンは壁で隔たれており、壁に大きな四角い穴が空いており、リビングからキッチンが見えるようになっている。
キッチンで手際よく動いている葵を眺めながら、セキが口を開いた。
「で、なんでここにおるねん」
「そりゃあ、ここが俺の家だからな」
茶化すような返答に苛立ちを顕にして、セキは男を睨みつける。その視線に満足したかのように、男は語りだす。
「情報収集しようと思ったんだが、この世界の裏山には俺のラボが無いらしくてな。それで、とりあえず家にパソコンでもあれば、それから情報収集しようかと思ってここまで来たんだ。お前こそ、まるで客人のように饗されてるじゃないか」
嘲笑ぎみにニワトリ面の男が言う。
「茜じゃないって見抜かれた」
セキは不機嫌そうに答えた。すると、男は大笑いした。セキは一瞬眉をひそめたが、すぐに無表情に戻った。
「ここの葵はずいぶん目がいいみたいだな」
「……そうやな」
2人が小声(?)で話していると、葵がキッチンから出てきた。
「お父さん、お兄ちゃんの帰りが遅いから、少し探してきていいかな?」
「ああ、家のことは任しておけ」
「私はいなくなるけど、あかねさんもお父さんと仲良くしてあげてね」
「わかった」
「それじゃあ、いってきまーす」
葵は慌ただしく玄関から出ていった。
葵が出ていったのを確認してから、男が口を開いた。
「影は付けたのか?」
「一応な」
「じゃあ安心だな。お前の影を付けておけば、どこにいても居場所がわかる。便利な能力だ」
「そうでもないやろ。代償がでかすぎる」
「まあそうか」
つかの間の沈黙、口を開いたのはニワトリ面の男だった。
「この世界は不思議だな。お前の変装を見破ったり、すんなりと家まで招き入れたり」
「そうやな」
「この世界なら、お前の願いも叶うんじゃないか?」
「それは……まだ、わからん」
少しの間のあと、男が返事する。
「……そうか」
男の声には、落胆にも、安堵にも思える声色が混じっていた。
男がリビングの壁にかかっている壁掛時計に目をやると、葵が出ていってから1時間が過ぎていた。
「おい、あかね。これはちとおかしいだろ」
セキは黙って椅子から降りて、玄関に向かって歩き出した。
「車を出してくれるか?」
「よしきた!」
男は待ってましたと言わんばかりに、セキを追い抜いて勢い良く外に出ていった。セキはその後を悠々と、少しだけ満足げな顔をしながら玄関へと向かった。