遭遇
茜を取り込んだセキの中に、茜の知識、記憶、色々なものが流れ込んでくる。これももう慣れたものだ。セキは、もう何度もこの行為を繰り返している。それは、シンとの契約でもあり、自分の目的のためでもあった。
「そうか、今日はハンバーグか」
黒い塊から出てきたセキは、茜とうり二つの姿をしていた。知識も記憶も得ている今のセキは
、茜と呼ばれても何ら違和感ない。
セキは家に向かって歩き出した。
しばらく歩いた後の十字路、家は背伸びをすれば微かに見えるといった位置であった。セキの前方に、見慣れた、茜にとっては見慣れた存在がこちらに手を振っているのが見えた。
「お兄ちゃーん」
それは、綺麗な青い髪に学校指定の制服を着た女性、言葉葵の姿であった。セキは、茜がそうするように駆けていった。
「葵、遅かったな」
「うん。ちょっと急な来客が……」
そこまで言ったところで、葵は言い淀む。次に葵の発した言葉は、セキには衝撃的であった。
「あなた、誰?」
セキはもう何百年も生き長らえているが、その生涯の中ではじめての経験だった。言葉葵に、兄弟ではないと見抜かれたことは。
「何言ってるんだ、俺だよ。茜」
「違うよ。あなたはお兄ちゃんじゃない」
葵は続ける。
「お兄ちゃんがそんなにゆっくり歩いてるわけないもん。お兄ちゃんって、いっつも慌ただしく帰ってくるんだよ」
セキはドキリとした。今回も駄目なのかと落胆した。
「惜しかったね。お兄ちゃんのファンさん」
葵は顔の側で指を立て、ウインクして言った。葵なりのドヤ顔のつもりらしい。セキはこの一言に目を丸くした。まさか、そんな風に思われるとは思わなかったからだ。
「あなた、名前はなんていうの?」
セキは一瞬迷ってから、「あかね」と答えた。
「名前も揃えてるの? 気合入ってるねー」
葵はニコニコ顔で言う。なぜ、兄弟の名を語る偽物が目の前にいるのにそんなに嬉しそうなのか、セキにはわからなかった。
「そうだ。家すぐそこだから、寄っていく?」
葵の突然の提案に少々驚きながらも、セキは首を縦に振った。
葵と茜の家は2階建ての一軒家だ。庭はそこまで広くないが、2人でバーベキューモドキをするのには十分な広さはある。慣れ親しんだ玄関を上がると、少し廊下が続く。廊下の左右には、トイレと風呂場がそれぞれある。廊下の先はリビングがあり、リビングの隣にキッチンがあった。葵がリビングへの扉を開くと、見慣れた顔がセキの目に飛び込んできた。
「よう、おかえり」
「なんでお前がここにおるねん」
テーブルの周りに並べてある椅子の一つに、ニワトリ面を付けた男が座っていた。