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言葉 茜 その1

朝起きて、朝食を取り、歯を磨き、学校へ行く。精華高等学校に通う高校2年生の少年、言葉(ことば)(あかね)は、そんな日々がこれからも続いていくと信じていた。


「お兄ちゃんは今日もいたこさんのところに行くの?」

「おう!」

茜は、双子の妹の言葉(ことば)(あおい)に元気よく返事をする。双子というのに、葵は女、茜は男と性別が違うだけでなく、背丈もかなりの差があった。傍から見れば双子ではなく、年の離れた兄弟のように見えるであろう。

「ご飯作って待ってるから、気をつけて帰ってきてね」

葵は茜の頭に手を乗せて優しく言う。それに対して茜は怒ったように葵の手を振り払った。

「いい加減それやめろよな」

「あ、ごめん。手を置きやすい位置だからつい……」

「葵、ほんとに悪いと思ってるのか?」

「これくらいは」

葵は人差し指と親指を3センチくらい離して見せた。

「もっと思えよ!」

葵はいたずらっぽく笑って手を縦に顔の前に持っていき、ごめんねのポーズをした。

「今日はお兄ちゃんの大好きなハンバーグにするから許して?」

「ちゃんとチーズも乗せろよ」

「もちろん」

茜は機嫌を良くしたようで、葵に一言挨拶してから急いで廊下を駆けていった。もちろんそれを咎める教師の怒号はあったが、それを気にする茜ではなかった。



「来ましたわね」

「今日もよろしくな」

ここが住宅街であることを忘れてしまうくらいの大きな屋敷の門を潜ると、玄関の前で白髪の女性が茜を出迎えた。(ひがし)いたこである。もちろん身長は茜より高い。

「今日も最速の剣である翡翠流剣術にコテンパンにされに来たのですわね?」

「馬鹿言ってんじゃねえ! いっつも反則で勝ってるじゃねえかよ。今日こそはうちの最強の剣、琴葉流剣術でお前を伸してやるよ」

自信満々のドヤ顔で言う2人の間には、確かな火花が散っていた。

「言いましたわね?」

「行こうぜ。道場によ」


東家の屋敷は、大きく分けて寝室や台所などがある本館と、広く開けた道場の別館、道が繋がっていない大きな倉庫で構成されている。道場への道である廊下からは、見事な日本庭園を見ることができる。職人を雇って維持しているものだ。

二人は長い廊下を歩き、道場にたどり着いた。道場は広く、すし詰めにすれば100人くらいは収容できそうなほどだ。

「じゃあ、始めるか」

茜が制服を脱ぐと、その下には短パンと白地のシャツを着ていた。胸には言葉の文字がある。所謂(いわゆる)体操服である。


2人が一定の距離を保って向かい合う。茜は腰に差すように木刀を左手で持ち、前のめりに構える。対するいたこは体の正面で竹刀を両手で構え、迎え撃つようにどっしりと構えていた。

しばらくの静寂。その静寂を打ち破ったのは、外で羽ばたく鳥の声と羽ばたきだった。

その音を合図に、茜がすごい勢いで詰め寄る。背の小さい茜は懐に飛び込みやすい。鍛えられた脚力も申し分ない。茜は懐に飛び込んで木刀を振るった。

だが、茜の振るった木刀は紙一重で空を切った。いたこが茜の踏み込みに合わせて距離を取っていたためである。その動きは完璧という言葉しか似合わないほどに性格で、コンマ1秒でも出遅れれば木刀の先が当たってしまうほどであった。その後、いたこは一度大きく距離を取る。

「さすがの剣圧ですわね」

「そっちこそ、さすがの身のこなしだ」

いたこの服は、避けたにもかかわらず、少し裂けていた。

「それでこそ、ワタクシのライバルですわ!」

(来る……!)

いたこが茜のすぐ側まで近付く。その速さは、一瞬視界から姿が消えるほどだった。そして、いたこは竹刀を茜の顔目掛けて打ち下ろす。それも、残像が見えるほどに早い二連撃である。茜は、驚くことにその二連撃を木刀で受け流した。何度も手合わせしているからこそできる、達人技とも言えるものである。その受け流した力の反動を利用して体を捻り、木刀を打ち下ろした。これこそが、最強と呼ばれる所以(ゆえん)である。すべてのエネルギーを己の力とし、相手に打ち込む。それが【琴葉流剣術】なのである。

しかし、油断というのは最後の一撃、最高の一撃を打ち込む時にこそ現れるものである。今回こそは勝った。茜がそう思ったとき、茜の腹部に鈍痛が走り、茜は道場の壁まで吹き飛ばされ、気絶した。


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