淀み
そこには、形を持ったものが無かった。すべてがドロドロとした不定形なもので構成されていて、一つとして、形を持ったものは存在しなかった。無機物も、有機物も、生物も、概念さえもドロドロとしていて、はっきりとしていなかった。
そんな最中、問いかけが聞こえた。その問は単純で、ただ、正体を訪ねていた。「おまえはだれだ」そう、訪ね続けていた。
おまえはだれだ、おまえはだれだ、おまえはだれだ……
それは自問自答なのか、他問自答なのか、なにに問いかけているのか、なにもはっきりしていなかった。
どれくらいの時間が経っただろうか。いや、もしかしたら、一瞬の出来事だったかもしれない。それくらいには、時間の概念もあやふやだった。
そんな中、返答が聞こえた気がした。誰もが耳を澄ました。そこにどれだけの者がいたのか、もしくは、なにもいなかったのか、定かではない。しかし、返答があったのは確実であった。その声に呼応したのは、あの問いかけ、「おまえはだれだ」だった。
「私は……」
「俺は……」
「僕は……」
「ウチは……」
返答は徐々に大きくなっていき、形を持った、《言葉》となった。
「俺は、言葉 茜だ」