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12月29日・前編

閲覧ありがとうございます!それではお話の始まりです―――

 翌日。昨日と同じように布団の中で味わった懐かしい感触に目を覚ました俺は、人の布団の中でぬくぬくと眠るひかりの姿を見ていた。

 昨日今日で何年も前は当たり前だった環境に慣れるというのはやはり不可能らしく、今日も俺は頭の中を混乱させる。


(そうだ、忘れてた)


 やがて思考が冷静になったのか内心でそう呟いた俺は、彼女を起こさないように居間へと向かった。


「おはよう、みやこ」


あらた君、おはよう。もうすぐできるから待ってて」


「分かった。その間に光を起こしてくるよ」


 そう言い残し、俺は光を起こすために先ほどまでいた部屋へと逆戻りする。なお、後方からみやこの殺伐とした視線が向けられたのは気のせいではないだろう。・・・早めにこの辺りも話しておかないと、今度は熱湯を飲む程度ではすまなさそうだ。


「光ー、朝だぞ。今日は遊びに行くんだろ」


 光に声をかけながらその体を揺する。だがその程度では光は目を覚まさないので、彼女に一番効く目覚ましをしてやる。


「お兄ちゃんもう出るからな」


「やだ!」


 俺の言葉を聞いた瞬間、飛び跳ねるように上半身を起こす光。そして――


「あと5時間――」


 寝ぼけた様子でそう呟くと、そのまま再度布団に横になった。・・・ん?一番効く目覚まし?・・・さすがに寝起きが悪いのまではどうしようもないんだ、察してくれ。

 というより、こういう時は「あと5分~」じゃないのか?5時間だと昼前だが。


「起きろ、光。本当に置いてくぞ」


 そんなことを思いながら再度光を揺するが、彼女が起きる気配は一切ない。それどころかすやすやと寝息を立て始めた光。 そんな彼女を見て、俺は静かに居間に戻っていった。


「だめだ、ありゃしばらく起きそうにない」


「・・・仕方ないわね。朝ご飯を食べても起きて来なかったら置いて行きましょう」


 俺の言葉に対し、そう返すみやこ。そんな彼女に「だな」と短く返し、俺は朝食を食べ始めた。

 ちなみにその後朝食を食べ終えても結局光が起きて来なかったため、俺は最後にもう一度だけ光に声をかけたが結果は同じだったため、俺たちは光を置いていくことに決めたのだった。




 祖父の家から、朝の冬空を歩くこと約1時間。光のことを祖父に任せた俺とみやこは、2人きりでバスを待っていた。


「で、どこにいくんだ?」


 バス停に着いてから早10分。冬の朝の冷え切った空気の中待っていた俺は、あまりの会話の無さに耐えきれなくなり、口を開いていた。


「市内のショッピングモール。・・・本当は3人の方が気楽なんだけど」


「・・・確かにな」


 現在の俺たちは、傍から見ればカップルに見られる可能性はあるだろう。なにせ年頃の男女が2人きりなのだから、デートそのものだ。

 だが実際にはそんな存在とは程遠そうな短い会話と、人1人分くらいあるお互いの距離。だが不思議と、みやことはこのくらいの距離間の方が心地が良いと感じる自分もいる。


(でも、不思議なもんだな。数日前までは顔も知らなかった女の子なのに、気づけばデートまがいのことをしてるなんてな)


 人の縁とは不思議なものだな、と思いながらみやこの横顔を見ると、白菫色しろすみれいろの髪が揺れる彼女の横顔は、どことなく赤くなっていた。――おそらく直接口にはしないが、デートといえる状況に緊張しているのだろう。


「・・・何?じっと人の顔を見て」


 そんな俺の視線に気づいたのだろう、みやこが鬱陶しそうな目線を向けてくる。


「いや。人の繋がりって、どこでどうなるか分かんないなって思っただけだ」


「・・・そうね。その通りだわ。まさか新君と2人で出かけるなんてね」


 俺の言葉に同意するようにみやこが頷く。それをきっかけに2人で話していると、気づけばバスが到着したのだった。




 それから俺たちは1時間ほどバスに揺られたのち、市内にある大きなショッピングモールへと到着した。

 俺たちがやってきたショッピングモールは、全国的に展開する大企業の運営する物だ。食品から衣類、趣向品などを一手に扱う大企業直営の店舗に加え、多くの専門店が軒を連ねている。


「久しぶりに来たな」


 ここに来るのは何年ぶりだろうか。昔はよく休みの日に祖父や祖母に連れられ来たものだが、小学校中学年くらいからめっきりと減っていた。

 最後に来たのは、恐らく祖母が亡くなったときだろうか。


「さ、ひとまず中に入りましょ?」


「そうだな」


 思い出に浸っていた俺は、みやこのその言葉で店内に入っていく。

 店内に入った俺たちが、まず向かったのは2階にあるフードコート。時刻はまだお昼というには早いが、昼時のフードコートは混み合う為早めに済ませておこうということになったからだ。


「じゃ、この辺りの席で食べるか。もし席が埋まってたらあの辺な」


 ひとまずの集合場所を決め、互いに昼食を買いに行く。そうして少しフードコート内を彷徨った俺は、あるハンバーガーレストランで昼食を買うことにする。


「いらっしゃいませ、店内ご利用ですか?」


 レジへ並ぶと、俺の対応をする店員さんが元気よく聞いてくる。


「店内で。えっと――」


 そうして俺はセットを購入し、会計を済ませる。レシートと共に「あちらの画面の見える位置でお待ちください」と言われ、俺はその言葉に従ってレジの左側にあるモニターの前へと向かう。

 待つこと1分。ぼうっとモニターを見ていた俺の視界の端へと、ここ数日見慣れている少女の髪が映る。やがて会計を終えた少女は俺と同じように言われたのか、モニターの方へと振り向き――


「あ」


 どうやら俺の姿を見つけたのだろう、小さく声を上げた。そしてそのまま無言で俺の後ろに並ぶ。


「お待たせしましたー、203番のお客様でーす」


 すると程なくして、俺の持つレシートに書かれた番号が呼ばれる。


「ごゆっくりどうぞ」


 店員さんから食事を受け取った俺は少女――みやこに声をかける。


「さっきの場所な」


「わかったわ」


 俺の言葉に少しだけ照れた様子で返すみやこ。しかし、そんなに広くないとはいえ別々の方向へ向かったのにばったり顔を合わせるとは・・・。ある意味、運命すら感じられる。


「・・・何よ」


 それから少し。みやこが買ってきたものを見て、俺は絶句していた。フードコート内でばったり会うというのは十分にありえそうな話だが、さらに買ったものまで同じとは・・・


「・・・いや、別に。まさか同じだとは思わなかっただけだ」


 絶句しながらも、とりあえずそれだけを口にする。・・・一体こうなる確率って何パーセントくらいなんだろうか?20種類近いメニューから同じハンバーガー。さらにセットなのでサイドメニューもあるが、それも同じ。そして飲み物はというと――


「・・・一応聞きたい。ドリンクは何に?」


「・・・コーラよ」


 同じだった。ちなみに、サイドメニューはホクホクのポテトではなくサラダだ。さらに言うと、ドレッシングまで同じだった。・・・もはや訳がわからん。


「こっちも同じだとは思わなかったわよ。ていうか第一、何で新君は私の真似をしたのよ?」


「いや、それはこっちの台詞だし。むしろ俺の方が先に買ってたからな?」


「なによ、私はいつもこれなの。だから――」


 いつの間にか口論へと発展し、次第にヒートアップしていく俺たち。だが急に聞こえた誰かの咳払いと――


「ママ―、あの恋人さんたち喧嘩してるよー」「こら、そんなこと言わないの」


 という親子の会話で思わず静かになる。


「・・・何食べたって、その人の勝手だよな」


「そうね。こんなことでいがみ合うのも馬鹿らしいわね」


 その後俺たちは静かに昼食を終えたのだった。




 昼食後、俺たちはショッピングモール内を一周し、ある服屋の中にいた。

 先ほどから服を物色するみやこに対し、俺は向かいに陳列されているパーカーを眺めていた。


「新君。これとこれ、どっちがいいと思う?」


 そんな俺に、背後で物色を続けていたみやこから声がかかる。そうして彼女が手にしていたのは、この時期には少しばかり寒そうな赤のワンピース、そしてすこし厚手の黒いダウンジャケットのセット。もう1つは単純に厚手の黒いパーカーだった。


「・・・上着としてならどっちがいいかってことか?」


 俺の質問に頷くみやこ。それに対し、俺は両者を軽く吟味すると――


「どっちでもいいんじゃねえか?どっちも似合いそうだけど?」


 正直な感想を告げる。実際、みやこならどちらを着ても普通に着こなせそうな気がしたからだ。

 だがみやこのほうは不満そうな表情を浮かべると「あっそ」と言って服を戻すと、拗ねたように服屋をあとにする。


「お、おい、みやこ?」


 そんな彼女を俺は慌てて追いかけたのだった。




「買わなくてよかったのか?」


 服屋をあとにした俺は、なぜか先ほどから不機嫌なみやこに声をかけていた。そんな俺に対し、みやこは不機嫌そうに答える。


「別に。片方に決められなかっただけよ」


「なんだよ。そういう事なら片方くらい買ってやるのに」


 俺がそう告げると、みやこの表情がぱっと輝く。・・・本当に訳が分からないが、見てて飽きはしないな。


「本当!?なら言質は取ったし、せっかくだから買ってもらおうかしら」


「ああ、いつもじいちゃんの世話してくれてるお礼だ」


 そうして再び服屋へ向かう俺たち。そこでみやこが手にした服の値段をみると――


「5000円!?たっか、買えるかこんなの!」


 税抜き4980円という値札が付いていた。そんな俺に対し、みやこが悪い笑みを浮かべながら口を開いた。


「あら?さっき買ってやるって言ったのは新君でしょ?――男なら責任持ちなさいよ」


「ぐぬぬぬ・・・」


 みやこの言葉に呻くことしかできない俺は、そのまま税抜き4980円のワンピース付きのダウンジャケットを買ったのだった。・・・というか、何気にみやこが周囲に勘違いされそうな発言をしていた気がしたんだが、気のせいだろうか?いや、気のせいと思った方が精神衛生上よさそうだ。

 まあ、隣を歩くみやこの機嫌がよさそうなので下手に掘り下げる必要もないだろう。


「それで?次はどこ行くんだ?」


「次は新君の行きたいところに行きましょう?行きのバスで言ってたでしょ?」


「じゃ、ホームセンターだな」


 そうして俺たちは、ショッピングモールの建つ敷地から道路を挟んで隣接されているホームセンターへと向かったのだった。




 ショッピングモールを出て歩くこと数分。横断歩道を渡り到着したホームセンターで俺はみやこの事を忘れ、いつもの通り物色をしていた。

 まず工具。電動工具や手動工具。果てにはドライバーの先部分ビットやペンキ、釘。それらをひとしきり見尽くすと、次は文房具を陳列している場所にいた。


「おお、こいつは・・・!6冊セット!でお値段・・・300円!?まじか」


 一般的なサイズのノートのセット売りを目撃した俺は、その冊数を見て思わず声を上げる。5冊セットというのは多いが、6冊というのはあまり見たことが無かったからだ。

 国語・数学・理科・地理・歴史などで使える一般的な配列が5冊。そして少し特殊な英語用配列の計6冊がセットになっているらしく、中学生はおろか高校生の俺でもお世話になるセットだ。それが300円・・・ふつうは5冊でこのくらいするし、かなりお買い得ではなかろうか。

 だがどうやら数量限定らしく、すでに半分以上が消えてなくなっていた。


「お、初めて見るな。・・・こいつは新発売されたばかりなのか」


 ふと、視界端に初めて見る表紙が映る。どうやら日記帳のようだが、表紙が地味というかなんというか。だがその理由は、中身を見て理解できた。日記帳というよりは手帳だったからだ。おそらく、小学生の頃に使っていた連絡ノートみたいなものだろう。明日の時間割や先生からの連絡事項みたいなものが書かれたあれである。

 それから少しし、俺は店内をぐるりと見て回る。そうして最後にペットコーナーへと足を運んでいた。


「はあぁ、癒される・・・」


 その時、俺はそこで小動物のコーナーを見ていた。ちょろちょろと動き回るハムスターや、警戒しているくせにこちらへ寄ってくる鳥たちの姿を見て、ちょっとした幸福感を得ていたのだ。


「やっと追いついた・・・」


 そんな俺の背後から、いつの間にか消えていたみやこが声をかけてくる。


「ん?あ、みやこ」


 そんな彼女へ俺は何事もなかったかのように声をかける。というか、すっかりみやこの事を忘れていた。


「あ、みやこ。じゃないわよ!ていうか、昨日話してた趣味ってこのことだったのね。確かにオタクっぽかったわ」


 ああ、そういえばそんな話をしたっけか。・・・あれ、昨日俺はなんて話したんだ?たしか「動物大好きー!」的な趣味だっていう話をして・・・みやこに嘘だと看破されて、でも本当の話はしていなくて・・・・・・あ。


「・・・・・・み、みてたのか・・・?」


 そこまで行って、俺はみやこの言葉の意味を理解する。今この瞬間、俺の秘密にしていたかった趣味はバレると一番面倒そうな奴にバレたのだ。

 さらにそこへみやこの追い打ちが入る。


「声をかけようとしたら引くレベルの顔だったもの。思わず戸惑ってるうちに何度も逃げられていたの」


 気まずそうにそう口にするみやこ。次の瞬間、俺が地面へ膝をついたのは言うまでもない。・・・ああ、小動物たちの立てる音がまるで、俺を嘲笑っているように思えてしまう。


「べ、別に変な趣味ではないと思うわよ?私だって面白そうなレシピの前では」


 膝をついた俺を不憫に思ったのか、みやこがそう声をかけてくる。だが俺にとっては傷口に塩を塗られた気分だった。


「いいんだ。そういうフォローは・・・」


「いや、フォローじゃなくて本当の事なんだけど・・・」


 意気消沈した俺が復活したのは、それから10分後の事だった。――そうだ、長時間座り込んだままになってごめんなさい、店員さん!




 なんやかんやあってホームセンターを後にした俺たちは、ショッピングモールに戻ると、その中の書店に向かった。

 フードコート脇にある書店へ到着した俺たちは、それぞれで本を買い、フードコート内の席で待ち合わせしていた。


(遅いな、みやこの奴)


 俺は買いたい本は予めチェックしておいて本屋に来た時にそれだけを買う派だ。なので基本的に新刊のコーナーくらいしか見ないのだが、みやこはどうやら新刊以外も細かくチェックする派のようだった。


「お待たせ、新君」


 だが、それでもさほど大きくはない書店だったため1時間もしない内にみやこが姿を現した。


「それじゃ、帰りましょうか」


 そうして1階に降り、食品売り場部分を抜けてバス停へと向かおうとする俺たち。今思えば、ギリギリまで2階を移動してから1階に降りればよかったと思う。・・・まさか、あんなところで立ち往生することになるとは、誰が予想できただろうか?

 それは間もなく食品売り場へ着く寸前。丁度、食品売り場を望めるショッピングモール正面側の入り口の辺りだった。――そこで特売セールが行われていたのだ。

 内容は衣類や小物雑貨などが中心だったが、中には食材も幾つかあったようでみやこの魂に火が点いたのだ。


「見て、セールをやってるわ」


「ああ、そうだな」


 なんとなく嫌な予感のした俺は、静かにみやこから距離をとる。


「それじゃ、行ってくるから。荷物持ちよろしく」


 予感的中。しかも十分に離れきる前に荷物持ちとして特売セールという名の戦場へ連れていかれた。


「あ、これも。これも、これも!・・・ちょっと、それ私が狙ってたのよー!」


 文字通り戦場と化しているその場所から何とか抜け出した俺は、遠目からみやこの姿を眺める。その戦場に立つ彼女の姿は実に生き生きとしており、さっきの俺もあんなんだったのかな、と思ってしまった。


(・・・確かに変な趣味ではないし、オタクっていうほどオタクでもないよな、多分)


 それから少し。無事戦場で戦果を獲得できたらしいみやこは、上機嫌で会計を済ませていた。・・・あれ、全部俺が持つことになるんだよな?いくらか食材も混ざってるみたいだったけど、これから2時間かかることを分かっているのか?


「お待たせ、新君。はい」


 会計を済ませたみやこは、レジ袋へ戦利品を詰め込むと当たり前のように俺へ突き出してくる。


「・・・だと思ったけど」


 溜息を吐きながらもそれを受け取った俺は、今度こそバス停へ向かって歩き始めたのだった。

ショッピングモールのモデルはイオンモール津山店。毎年夏に、母方の祖父母のお墓に供える花を買いに行ってました。


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アルファポリス様、pixiv様でも同名で活動中です!

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