1月3日・後編
閲覧ありがとうございます!それではお話の始まりです―――
神社を後にし家へと帰っている最中のこと。
ようやく頂点近くまで昇りきった太陽から降り注ぐ日光を遮っている雲の下を歩き続けていた俺は、麓のバス停でバスを待っているらしき金太郎の姿を見つけていた。
そして俺が金太郎に気づいたのとほぼ同時に彼女も俺に気づいたらしく、バス停から俺の方へと駆けてくる。
「新先輩、どうしたんだよ?珍しい・・・わけでもない所だな、ここじゃ」
そうして俺のそばまでやってきた金太郎が周囲を見回しながら俺に声をかけてきた。
「俺からしたら金太郎の方が珍しいんだが、なんかあったのか?」
「ああ、実は食堂で皆と話をしてたんだ」
俺が尋ねると、金太郎がそう前置きしながら食堂であったことを話してくる。
金太郎が口にした内容を簡単に整理すると、同じ部活の子や学校の友人数名で食堂に集まり新年の挨拶をしていたということだった。
「オレが一番遠いお陰で始発のバスに乗る羽目になったんだけどな」
説明を終えた金太郎が、最後にそう文句を口にしながら説明を終える。実は金太郎は市内の方に家があるため、こっちに来るだけでもそこそこ時間がかかる。だが、それでもちゃんと約束は守る律儀な奴なため、結構人付き合いは多い方だったりするんだが・・・
「それは何というか・・・」
「ああ、マジで面倒だったぜ。あんな寒い中を歩いてバスを待って、それから何時間も揺られながら食堂に着いたと思ったら皆「遅れる」とかぬかしやがって、さらに待ちぼうけだからな」
災難だったな、と言おうとした俺の声を遮り、事細かに今朝の心境を報告してくる金太郎。――本当に災難だったな、金太郎・・・
「それで――」
「いや、まだ続くのか!?」
「?ああ、・・・今度は集まってからだが」
今まででも十分だと思っていたが、そこからさらにまだあるらしい。もはや災難と言うより不憫に思えてくるぞ・・・
「で、集まったら集まったで「金ちゃん来るの早すぎだよ~」とかぬかしやがる」
「・・・それ、絶対皆が遅れたんだろうがとか思ったんだろ?」
「当たり前だろ?しかも腹立つのが詫びを言ってきたのは半分以下だったからな?成り行きで付き合ってる面子ばっかりだが、正直そろそろ付き合いを辞めたいレベルなんだが」
もはや怒りまでも露わにしながらそう口にする金太郎。ここまで愚痴を連発してくる金太郎を見るのは久しぶりなのでもう少し聞いて居たかったんだが、流石にそろそろやばそうな気配がした俺は金太郎をなだめるために声をかける。
「まあまあ、その辺にしとけって。愚痴なら今度いくらでも付き合ってやるから。・・・もちろんあそこで」
なだめるというよりは買収に近い台詞となったが、当の金太郎は特に気にした様子もなく俺の台詞に頷くと携帯で時間を確認する。
「げ、もうバスが来ちまう。・・・じゃあな、新先輩!」
携帯で時刻を確認した直後バス停の方へと駆けていく金太郎。そんな彼女に続くように俺もバス停の方へと歩いていくと、市街へと向かうバスがバス停へと停車する。
「乗ります、乗りまーす!」
すると停車したバスへと向かい、手を振りながら声を上げる金太郎。実は彼女はまだバス停のそばにはおらず、反対車線側に立っていたのだった。そうして急に左右を確認したかと思うと、右手を上げながら反対車線へと道路を横断する。
「・・・目の前で危ないことするなよな・・・」
危険行為を目の前で見せつけられたことで俺は小さく溜息を吐いてしまう。
だが金太郎の行動は、結果的にだがバスに乗る意思を伝えられたようで、直前にハザードランプを消したバスにクラクションを鳴らされながらも無事にバスに乗ることが出来たようだった。
「あ、頭下げてら」
そうしてバスに乗った金太郎が、わざわざ運転手の元へ向かい頭を下げる光景が目に映る。・・・やっぱり、ああいう所は律儀な奴だと思う。
そうして謝っていた金太郎に対し運転手が席に座るように促したんだろう、金太郎が最後に大きく頭を下げ近場の席に座ると、バスは左のウインカーを出しながら発車していった。
「・・・ていうか、早めに帰ってみやこと話をする時間を作っておかないと」
市街へ向け走り去っていくバスの後ろ姿を眺めていた俺は、元々家に帰ろうとしていたことを思い出して歩き出す。すると俺の視界の端の方へ、どこかで見たことのある色味のものが映り込んできた。
それが気になった俺がそれへと視線を向けると、白菫色の髪を持つ、俺と同い年くらいの少女が俺の向かう方向へと歩いていた。
「あれ、みやこ?バスでどこに行ってたんだ・・・あ、夕食の材料を買いに行ってたのか」
視界に映った少女であるみやこがそこにいることに驚いた俺だったが、彼女が手にしていた袋に書かれた文字を見てどこに行っていたのかを察すると、少しだけ早足になる。
そうして声が届くであろう距離まで来た俺は、みやこに対して声をかける。
「みやこー」
「え、新君?どうしてここに?」
どうやらみやこも俺がこんな場所にいるとは思っていなかったんだろう、俺の声に振り向くと同時に驚いた様子で声を上げた。
「俺は光を見送った後にぶらぶらしてたんだ。・・・みやこは?」
そんな彼女に対して俺はそう口にすると、手に持っている物を見れば分かるであろう質問をわざとする。
「夕食の買い出しよ。といっても、今日の分じゃ無くて明日の分だけど・・・っていうか、これを見れば食料品を買ってきたことくらい分かるでしょう?」
すると、俺がなんとなく予想していた通りの答えが返ってくる。
「いや、それは分かってるんだけど、もしかしたら~とか思ったから」
「何?それは私をおちょくってるの?」
俺の台詞に対してジト目で睨んでくるみやこ。だが俺の方は、そんなみやこの反応が面白かった為、今朝のショルダータックルの仕返しも含めてさらにいじろうかと考え始める。
「それはそうと、早く持ちなさいよ」
だが俺の悪だくみは、みやこのその一言でエスカレートした。
「・・・それは良いんだが、今朝の事を謝られてないんだが?」
「今朝の事?何のことよ?」
「今朝のことを尋ねた俺に問答無用でタックルをかましてきたこと。あ、何があったかは光から聞いたが、タックルは絶対余計だったよな?」
俺は今朝――朝食後みやこを家まで送っていた時のことを口にする。するとみやこが気まずそうに視線を泳がせながら――
「ああ・・・それね?うん、その・・・完全に私が悪かったわ。朝一のことも含めて」
今朝のタックルだけでなく、俺の消された記憶についても謝罪を口にする。
「え?いや、別にその朝一のは俺の方に責任があったんだろ?」
そんなみやこに対して光から聞いていた話をすると、みやこの表情が段々と強張っていき、最終的には視線を泳がせるどころか明後日の方向へと向ける。
「なあ、一体何があったんだ?」
そんなみやこの姿に違和感を抱いた俺は、みやこに今朝何があったのかを尋ねる。するとみやこの方は、なぜか観念したような表情を浮かべたあと――
「・・・私が寝ぼけて新君の上に覆いかぶさったのよ!」
逆ギレした様子で俺に顔を寄せてきた。
「・・・・・・ええっと、つまり、俺は何も悪くない?」
「そうよ。しかもその上で・・・屈辱だわ」
逆ギレしてきたみやこに戸惑いながら尋ねると、みやこがそっぽを向きながらそう口にする。――どうやら俺は、寝ぼけたみやこに乗っかられた上に、目が覚めた彼女に記憶を抹消させられるような何かを受けたらしい。いや、むしろそんな内容なら聞きたくなかったんだが・・・
「はあ・・・罰として全部持ちなさいよ?」
「罰?一体何の・・・」
急に訳の分からないことを言い出したみやこに対し首を傾げる。すると――
「私に恥ずかしいことを思い出させた罰よ!分かったらさっさと持ちなさい!」
顔を真っ赤にさせながら俺の方へと手にしていた袋を突き出すみやこ。ここで断れば――いや、何か口にすれば碌なことが起きない気がした俺は、黙ってみやこに突き出された袋を手に取ると2人で家へと帰っていったのだった。
そうして祖父の家が見えてきた頃。
つい先ほどまで雲の隙間から差していたわずかな日光すらも完全に塞いだ、暗くどんよりとした雲から小さな白い塊がひらひらと地面へと向かい落ち始める。
「うわ、このタイミングで雪かよ」
「ほんと、もう少し待ってほしかったわ」
ギリギリの位置で降り始めた雪に対して2人して文句を口にする俺たち。もう少しで家に着くのだから、それから振り始めてくれれば良かったのにと思いながら、残る道程を駆け足で駆けていく。
「もう少しだけ待ってくれれば良かったのに・・・」
家の軒先に駆け込むと同時に、だんだんと本降りになり始めた雪を恨めしそうに見つめながら肩に乗ったわずかな雪を払うみやこ。
「まったくだな。ま、あそこまで降らないように頑張ってくれたと思うようにしようぜ」
「そうね。・・・あ、荷物、先に持って入るから貸して」
俺の台詞に同意したみやこが俺の持っていた袋を受け取ると、先に家の中へと入っていく。
そうして残された俺は、神社での出来事をいつ伝えようかと考え始める。
(話すなら今の内だよな。・・・でも、じいちゃんに聞かれると色々困るし・・・)
祖父は大抵三が日は家にいる。いや、普段も家にいることが多いのだが、正月三が日だけは初詣すら行こうとしないのだ。
昔そのことが気になった俺は理由を尋ねたことがあったが、祖父は「昔色々あってな」としか答えてくれなかった。
(昔色々あったって、何があったんだろう?よほどのことが無ければ初詣すら行かないというのは考えずらいんだが・・・)
そのまま少しだけ祖父が三が日だけは外へ出ようとしない理由を考えたが、結局それらしい理由は浮かんでこなかった。
(・・・いや、今はこんなことをしてる場合じゃない。さっさと家に入ってみやこと話をするタイミングを窺おう)
それに寒いし――
そうして本降りとなった様子の雪を背後にし、俺は家の中へと入っていった。
「なんとなく、寂しくなったわね」
「・・・そうだな」
その日の夕食。光がいなくなり3人となった食卓を囲んでいると、みやこがおもむろに口を開きそう口にすると、彼女の口にした台詞に対して頷きながら俺も同意する。
あの後、結局みやこと話をするタイミングを逃し続けてきた俺は、夕食になっても昼間のことを話せずにいたのだった。――いや、正確には祖父が話させてくれなかったというべきだろうか。
1日中家に居たらしい祖父が時折俺とみやこに対して声をかけてきた為、長話をする時間が取れなかった。
そうこうしているとみやこが夕食の準備を始め、その間祖父が居間にずっといた為、こうして夕食をとっている今になっても昼間のことを話せずにいたのだった。
「いつもなら光ちゃんが新君にねだっていたものね」
今もこの場にいれば間違いなく俺の膝の上でねだっているであろう光景を想像したのだろう、みやこが俺の方を見ながらそう呟く。
「だな。・・・やっぱ、急にいなくなると違和感があるな・・・まあ、すぐにまた慣れるんだろうけど」
俺はそう口にしながら夕食をどんどん口へと運んでいく。
「わしも光が居なくなって寂しいのう。・・・仕事もあるから仕方ないが」
すると、祖父が俺たちに続くようにそう口にする。きっと祖父も、孫同然の光が居なくなって寂しいんだろう、どこか寂し気な瞳を浮かべていた。
だが3人ともが湿っぽい発言をしたことで、居間の空気は非常にどんよりとしたものとなってしまった。
「・・・そうだ、じいちゃん、テレビつけるよ」
そんな空気がしばらく続き、とうとう耐えられなくなった俺はテレビのリモコンを手に取りながらそう口にする。
ちなみに、祖父は食事中にテレビやラジオなどを聞くことが嫌いな人間だ。なんでも、食事中に大多数に騒がれたりするのが苦手らしく、ニュースやラジオで流れる人だかりの声やノイズ音でさえ駄目らしい。
ただ誰かと会話をしながらであったり、自身で許容している場面ではあまり気にならないらしいので、考え方や捉え方の違いなんだろう。俺は逆に、静かすぎる食事は苦手だし。
「構わんよ。・・・わしもちょうどそうしようかと思っていたからのう」
どうやら祖父も、この重苦しくなった空気を変えたかったらしく、俺の台詞に対してそう返した。――ただ、俺が気にしないようにするための方便の可能性もあるが、今はそれは置いておこう。
そうして祖父から許可を貰った俺は早速テレビをつける。するとちょうどテレビでは年始の特別お笑い番組が流れており、重苦しくなっていた居間の空気を一変させてくれたのだった。
その後テレビに流れる番組を支えにしながら夕食をとり終えた俺は、みやこが台所で片づけをしている音を聞きながらテレビに流れる番組を眺めていた。
「なーんでやねんっ!」
テレビの向こうの芸人が相方のしたボケに対してそうツッコむ。すると、相方の芸人が更なるボケのために一言口にし、そのままボケを突っ込んできた。
「あ、その2人組、懐かしいわね」
2人組の芸人がコントを続ける画面を見ていると、片付けを終えたらしきみやこが居間に戻ってきながらコントを続けていた芸人を見てそう呟く。
「そうなのか?」
「確か小学生くらいの頃に流行ってたはずよ?学校でも真似する子が結構いたもの」
「へえ。・・・言われてみれば、そんな気がするな」
みやこに指摘され小学校の頃の記憶を辿ると、彼女の言う通り確かに同級生の何人かが真似をしてクラスでいつも笑いを取っていた気がする。
「うん?光と一緒に新もよくやっておったろう?」
「え、そうなの?」
祖父にそう言われ、俺は驚いた声を上げる。
「とは言っても、光に付き合っておっただけじゃったがのう。いつも不思議そうな目で見ておったし」
驚いた声を上げた俺に対してそう口にする祖父。――どうやら俺は光と一緒に今見ているネタをやっていたらしい。・・・全くと言うほど覚えはないが。
「あ、おじいさん、私はそろそろ帰りますね」
3人でテレビを見ながら談笑していると、みやこが不意にそう口にし俺の方を見てくる。その姿になんとなく嫌な予感を感じると同時にチャンスを感じる俺。
「という訳で、行くわよ、新君」
「はいはい。・・・じゃ、行ってくるよ」
半ば暴君のように俺を連れていくことを宣言したみやこに対して頷いた俺は、祖父に出ることを伝えるとみやこと共に外へ出たのだった。
「・・・それで、バス停で会ってからやたら何か言いたそうだったけど。・・・どうかしたの?」
祖父の家を出てから数分後。
いつの間にか雪は止んでいたらしく、冷たい風が吹いてくる夜道を2人で歩いていると、急にみやこがそう口にした。
「――実は、今日光を送っていった後、気になった事があって神社に言ったんだ」
「神社?」
みやこに今日あったことを説明するためにまず神社に行ったことを口にすると、みやこが不思議そうに首を傾げる。
「ああ。・・・初詣の時の俺のおみくじの内容、覚えてるか?」
「確か大吉だったけど良くないことが書かれてて、それが気になってることに関係する事だった――って言ってたわよね?」
俺がそう尋ねると、みやこが覚えている部分を口にする。
「ああ。それでその内容が偶然かどうか確認したくてまた引きに行ったんだ。理由は――言わなくてもわかる、よな?」
俺の台詞に対して頷くことで返すみやこ。俺がそもそもここまで神経質になっている理由は、みやこに、明日1月4日、平戸新は交通事故で命を落とすと言われていたからだ。
「それで引いてみたのがこれなんだ」
「・・・2つとも全く同じじゃない」
頷いたみやこに対して今日引いたおみくじを見せると、驚愕した表情を浮かべながら俺の顔を見てくる。
「でも、偶然同じ物を2つ引いたってことは・・・」
「正確には3つとも同じものだ」
「・・・嘘でしょ?」
俺の告白を聞いて、その言葉が何を意味するのかを考え始めるみやこ。
「――つまり、明日必ず良くないことが起きる。そして・・・新君は事故に遭う・・・」
やがて結論に達したらしきみやこがそう口にする。
「おそらく、な」
その結論を口にしたみやこに対し、俺は神妙な面持ちで頷いた。だがみやこの方は少しだけ楽観視していたのだろう。いや、少しでも気を楽にしようと思ったのかもしれない。――とにかく、どちらかまでは分からないが――
「でも、本当に偶然の可能性だってあるわ。・・・それに、明日本当に良くないことが起きるとしても、今からそんなに神経質になっても解決する訳じゃないもの、こればっかりは明日気を付けるしかないわ」
真面目な表情でそう口にする。対する俺はというと、みやこの言葉にも一理あると思い頷いていた。
それから2人で並びながら歩き始め、みやこの自宅のすぐそばまでやってくると、不意にみやこが口を開いた。
「・・・あ、そうだわ。新君、ちょっとこっちを向いて?」
「なんだよ、急に――」
みやこの言葉に従い彼女の方を向く。すると、思っていたよりも近くにみやこの顔があり、一瞬ドキリとしてしまう。
「いい?明日の午前中は絶対に外に出ない。午後も出来る限り外出はしない。・・・いいわね」
「お、おう・・・」
俺の目の前で、遠足前に生徒たちに最後の確認をする先生のような口振りで話すみやこ。その様子に若干戸惑いながら俺が頷くと――
「よし。――必ず助けてみせるから」
そう口にすると同時にさらに俺の方へ近づいてくるみやこ。そうして目の前が少しの間みやこの顔で埋め尽くされたかと思うと、照れていながらもまるで無邪気な少女のような笑みを浮かべながら――
「それじゃ、また明日」
そう口にして家の中へと入っていった。
(――何があったんだ・・・?)
その後しばらくの間、なにがあったのかが理解できず俺は立ち尽くす。
そんな俺を、冬の夜空から降り始めた雪たちが見守り始めたのだった。
あそこはもちろん、ホームセンター。
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