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12月26日・前編

閲覧ありがとうございます!それではお話の始まりです―――

 翌朝、何気なく目が覚めた俺はぼうっとしたまま居間へと向かうと、台所の方から女性の声が聞こえてきた。


「おはよう、(あらた)君。朝ご飯出来てるわよ」


「んー、サンキュー」


 寝ぼけたまま俺は食卓に着きながら返事をする。と、そこで何か1つ、おかしな違和感を覚える。

 いつも冬休みを利用して祖父の家に来るときは俺1人だ。そして飯は、大体祖父が用意してくれている。

 そのため本来であれば俺と祖父の男2人だけのはずなのだ。なのになぜか、俺の耳には女性の声が聞こえてきた。・・・まさか、じいちゃんが女の人になった?


(て、んなわけあるか!)


 あほな考えが浮かび、1人でツッコミを入れる。と、そこへ。


「・・・あなた、1人で誰に対してツッコミをいれているの?」


 どうやら心の中だけでツッコミを入れていたはずなのに、勝手に体が動いていたようで、すぐそばで女性の呆れたような声がする。

 女性はいつの間にやら食卓に着いていたようで、ジト目になりながら俺の方を見ていた。

 いきなり声がして驚いた俺は、思わず声のした方を見る。すると、結構な至近距離で俺の顔を見る平子の姿があった。


「うおわっ!ひ、平子(ひらこ)!?」


「なによ、人の顔を見て驚かないでもらえる?」


 どうやら俺が起きぬけに感じた違和感の正体は彼女のようだった。そして、その違和感の正体であった平子は現在進行形で口を尖らせていく。

 慌てた俺は、なんとか話題を逸らそうとするが。


「はっはっは。昨日と変わらず賑やかじゃのう。どうじゃ、みやこ。孫を嫁に貰う気はないか?」


 俺よりも先にいたのであろう祖父が話に乱入してくる。というか、普通は「婿に貰う」か「嫁になる」じゃないのか?


「いえ。それは間違っても嫌です。行政で手続きされてたとしても断ります。離婚届突き付けます」


 ひらこが祖父の言葉に対してはっきりと告げる。・・・なぜか俺はどんどんとメンタルを削られていっている気がするんだが、気のせいだろうか。できれば気のせいだと思いたい。


「そんなことはいいんで、早く食べちゃってください」


 やがて祖父に弄ばれかけていると気づいたのか、平子が祖父を急かす。そして俺を見ながら――


「変態セクハラ魔君も早くして」


 例の呼び方を口にしながら睨んでくる。


「はいはい。っていうか、もう食べ終わったんだが」


 2人の会話の飛び火がこないように黙々と食事をしていたせいで、俺の分の朝食は既に胃の中へと納まっていた。それを見た平子が、俺の茶碗を掴みご飯をついでくる。


「はい、おかわりのご飯よ」


 そう言いながら、乱暴に俺の前に置く平子。


「いや、俺、おかわりなんて一言も・・・」


「可愛い女の子の手作り料理が食べられないっていうの?ええ?」


 そう口にしながら、鬼の形相で俺を睨む平子。そんな彼女に対し、俺は反論する。


「いやお前。どこのヤクザみたいなセリフだそれ。ていうか、お米は炊飯器で炊いたやつだろ」


「わかったわ。ならこっちと一緒なら問題ないでしょ」


 そう口にしながら平子が俺の前に置いたのは、自分の分の朝食。だが、いくら何でもこれを「はいそうですか」と受け取るわけにもいかない。


「待った、待った。これは平子の分だろ?」


「何よ、私のご飯が食べられないっていうの?」


「だからどこの酒飲み亭主だよ・・・」


 というか、これを受け取ったら朝食抜きということに彼女は気づいているんだろうか。


「平子、これ俺に渡したら朝飯抜きだが、いいのか?」


「え?・・・あ」


 指摘され初めて気づいたように零す平子。やっぱり彼女は気づいていなかったようだった。

 それに気づかせれたことに安心したのも束の間、彼女の口から衝撃の言葉が放たれた。


「――っ、私、朝は食べないタイプだからいいの!」


「はああっ!?」


 平子の言葉を聞いて思わず叫んでしまう。だが、彼女の言葉は引くに引けなくなって口走った言葉だったようで。


「おや、そうだったのか?なら今度から2人分だけで・・・」


「ごめんなさい嘘です。目の前でおいしそうに食べるのだけはやめてください、お願いします――」


 ジャンピング土下座ばりに食卓に頭を着いた平子の口から、呪詛のように言葉が流れてくる。・・・どうやら彼女も祖父の洗礼は受けたことがあるらしい。


「ほら、俺はさっきついで来てくれたご飯だけでいいから、これはちゃんと食べとけよ。――じゃないとまた「あれ」を味わうぞ・・・」


 昔、俺も受けた祖父からの洗礼が脳裏をよぎる。とてもじゃないが、今でも祖父にされたことだけは思い出したくない。――あれは悪魔かそれに準ずる何かの所業だと思う。


「うん、そうする・・・」


 珍しくしおれた平子を慰めながら、朝食は進んでいった。




 朝食の後。俺は昨日祖父に言われた通り、平子を家まで送っていた。といっても、数分で着く距離なのでもう平子の実家である「料亭・宮川」は目の前だったが。

 ほんのわずかな時間ではあるが、お互いの心の距離はある程度縮まっていたようで、さすがに昨日ほど互いの距離は離れていない。それでも人間2人分くらいの距離を開けて歩かれてはいたが。――おそらくこれが、今の俺と平子の心の距離を数値化したものなんだろう。


「それじゃあ、夕方に」


「ああ」


 そう言って、俺は料亭を後にする。そうして向かった先は。


「よう、1年ぶりだな」


 祖父の家の倉庫にある原付だった。

 これは去年免許を取ったお祝いにと、昔、祖父が使っていたものを譲り受けたものだ。たしか三代目らしく、一代目と二代目の魂が宿ってるとかなんとか。ちなみに、一代目は祖父が今も所有し倉庫の中に眠っており、たまに乗っているそうだ。そして二代目は父が埼玉で現在も休日に乗り回している。・・・あれ、先代の魂とはどこにあるんだ?全台現役ではないか。

 17歳の今頃になってその事実に気づくとは、俺も抜けているところがあるらしい。・・・いや、単にバカなだけなのだろうか?

 ヘルメットを装着し、隣接する道路まで押して出る。ノンヘルは命を捨てる元だ。自転車もそうだが、年々事故率や死亡率も上がっているらしいし、自分の命は自分で守る努力をしないと。


「よっ、と。さて、ちょっくら行ってきますか」


 原付に跨り走ること30分。徒歩では1時間はかかる道のりを半分で来れるのはやはり大きい。冬場なため、少し冷えることを除けば完璧だろう。

 昨日バスから降り立ったバス停を通り過ぎ、一旦スーパーへ寄る。ここで簡単に摘まめる軽食と飲み物を買い、再度原付を運転して目的の場所へと向かう。


「こんちはー」


 早速目的の場所である友人の家に着いた俺は、インターフォンを鳴らし声をかける。

 すると、ほどなくして玄関から俺と同い年くらいの少年が姿を現した。


「よ、かねみつ」


「新。久しぶりだな」


 かねみつ。本名・金宮林太(かねみやりんた)。俺と同じ高校二年で、小学校からの縁。普段から連絡も取りあってるくらいの仲で、数少ないバカを出来る親友だ。


「母さーん、新が来たよー!」


 林太りんたが背後を振り返りながら大声で叫ぶ。すると、すぐにパタパタと足音をさせながら、林太の母親が姿を現した。


「お久しぶりです、おばさん」


「新君。元気にしてた?ご両親は?」


「2人共元気にしてます。おばさん達も元気そうで」


 お互いに軽く世間話をし、かねみつを連れていくことを伝える。


「という訳だから、昼は大丈夫だよ、母さん」


「前から聞いてたから大丈夫よ。楽しんでらっしゃい」


 そうして、林太と共に俺は近所の食堂へと向かった。




 林太と共に向かった地元の食堂。ここは俺がまだこっちに住んでいた時から馴染みのある場所で、よく家族で食べに来たことのある場所だ。

 わずか2台しか停められない駐車場の隣に立つ馴染みの食堂は、地元のお客で賑わっているようで、店内からは店主であるおじさんの威勢のいい声が外にまで響いてきていた。


「ちわーす」


「こんちはー」


 2人で店内に入ると、店主であるおじさんが俺たちに気づき、ニコニコとした表情を浮かべながら俺たちに尋ねるおじさん。


「おお、新君と林太君。2人でご飯かい?幸子(ゆきこ)君ももうすぐ来るから、来たら声をかけてやるよ」


 店主のおじさんに声を掛けられながらカウンター席に座る。すると、2つほど空いた席に座っていた男性に声をかけられた。


「新君、久しぶりだね」


恭介兄(きょうすけにい)のお父さん、久しぶりです。・・・恭介兄は一緒じゃないんですね」


 俺に声をかけてきたのは、俺が「恭介兄」と呼ぶ井上恭介(いのうえきょうすけ)の父親だった。恭介兄は俺の3つ上の大学二年生で、同年代の俺たちからやたら頼られる兄貴分的な存在だ。

 普段あまり連絡は取らないが、今は市内に近いコンビニでバイトしているらしい。


「ああ、恭介は寝てるんだ。昨日夜勤だったらしくてね。・・・でも、そろそろ起きた頃だろうからよかったら呼んであげようか?」


 尋ねる俺に対して、恭介兄の父親がそう提案してくる。


「それじゃあ、お願いします」


「はいよ。・・・おやっさん、これお勘定ね。勝手に精算しといて」


 そう言いながら自身の座る席にきっちりと代金を置いて外へと向かう恭介兄の父親。

 残された俺たちは、少し黄ばんでいるメニューを見ながら何を頼むか相談し始める。

 少しし、それぞれ注文の決まった俺と林太は、おじさんに注文を告げる。


「ホルモンうどん~我が家すぺしぁる~と醤油ラーメンね。ちょっと待っててな」


 注文を受けたおじさんは、厨房に立つパートのおばさんに注文内容を伝える。

 ちなみに、ホルモンうどん~我が家すぺしぁる~とは、おじさんが昔自作した特性ダレを使ったホルモンうどんで、喉に絡みつくような甘く濃いタレと大量の野菜。さらに、それらをうまく纏める程よいピリ辛さが絶品の、この食堂の看板商品である。

 なんでも、最近ではこの看板商品を求めて遠方から来るマニアックな方々もいるとかなんとか。――なお、すぺしぁるは誤字ではないのであしからず。

 注文を終え、のんびりとおじさんと世間話をしながら料理を待っていると。


「おはようございます、遅くなりましたー!」


 勢いよく開け放たれた食堂から声が響く。驚いた俺たちがその方向を見ると、食堂の入り口に立つ、1人の少女がいた。

ホルモンうどん~我が家すぺしぁる~


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