1月3日・前編
閲覧ありがとうございます!それではお話の始まりです―――
みやこと夜通し話をした翌日。俺はいつもと異なる感覚によって目を覚ましていた。
寝起きの頭で周囲を見回すと、自分がどこで眠っていたのかに気づき大きく伸びをする。
(――そうだ、昨日みやこと話してる最中に寝ちまったんだ)
祖父の家に来てから毎朝見ていた光景と異なる、布団すら敷いていない畳の上。大きめの手提げバックと肩掛けのバック、そして綺麗に畳まれた布団だけが物として存在している、どこか質素で味気の無いその空間は、借りている部屋とはいえとても女の子らしい部屋とは思えないほどだった。
「みやこ、起きろー」
次第に頭がはっきりとしてきた俺は、俺のすぐそばで横になっていたみやこに声をかける。・・・正直言って、今のこの状態を誰かに見られたら色々な誤解を招きそうな状態だが、それを回避するためにもみやこには起きてもらわなければいけないだろう。それと、朝食の為に。
対するみやこは、俺の声に小さく反応を見せたが起きることは無かった。
(早く起きて欲しいんだがな・・・)
相も変わらず熟睡しているみやこを見ながら内心で呟いた俺は、ふとみやこの寝顔を眺めてしまう。
(まあ、このまま寝顔を見ているのも・・・って、何を考えてるんだ、俺は!?)
危ない危ない、今俺は何を考えたのだろうか。
一瞬訳の分からないことが脳裏によぎった俺は、すぐに頭を振った。
(そもそも、みやこが起きなければ下手をすると朝飯抜きもあり得るんだ、さっさと起こさなければ)
そうして再度俺はみやこに声をかける。すると、みやこが寝ぼけ眼をこちらに向けながら「おはよぉ・・・」と口にしながら立ち上がる。
「もう朝ぁ?早く準備しないと・・・って、わ、わわわ!」
だが次の瞬間、みやこの体が一瞬傾いたかと思うと、そのまま俺の方に倒れてきた。――どうやらみやこは、歩き出そうとして体勢を崩したらしく、寝起きだったことも相まって足がもつれてしまったようだった。
対する俺は咄嗟の出来事に対応できず、そのままみやこの下敷きになってしまう。
「った!」
「ふぎゃっ!・・・あ、いいクッション・・・」
ぶつかった俺達が互いに声を上げると、みやこの方は俺の体をクッションか何かと勘違いしたらしくなぜか船を漕ぎ始める。
「ちょ、みやこ!?」
そんなみやこに対し俺が驚いた声を上げながら体を揺するが、みやこの方はどんどん沖へと進んでいるようで、次第に寝息を立て始めていた。
すると、みやこが寝息を立て始めたとほぼ同時に部屋を仕切っているふすまが開き――
「・・・・・・お兄ちゃん・・・?」
光が今までに見たことのない表情で立ち尽くしていた。
「・・・光、おはよう」
絶句した様子で立ち尽くす光に対し、俺はひとまず挨拶をする。
そうしてそのまま時が止まったかのような感覚を感じていると、やがて我に返ったらしき光がみやこを起こすために近づいてくる。
「平子さん、起きて!大変なことになってるよ!」
みやこを揺すりながらそう声をかける光。すると薄目を開けながら悪態をついていたみやこが、下敷きにしている俺の姿を見て硬直してしまう。
「新君、立ち上がって頂戴」
「あ、ああ」
やがて状況を理解できたのだろう、顔を真っ赤にさせながら、みやこの顔がプルプルと震え始めた。――だがこの直後、俺はちょっとでも弁解すべきだったと後悔することになるのだった。
「・・・この、変態っ!!」
その直後、みやこのほぼ八つ当たりに近い右ストレートが俺の脳天を直撃。そのまま俺の意識は暗転していったのだった。
その後、なぜか自分の部屋で目を覚ました俺は、周囲を見回しながらなんとなく違和感を覚えていた。
(――あれ、確か俺はみやこが借りてる部屋で寝落ちしたんじゃ・・・いや、ここにいるってことは、あの後部屋に戻ってたのか・・・?)
そうして昨夜からの記憶が残っていないことに困惑していると、不意に俺の部屋のふすまが開き光が顔を出した。
「お兄ちゃん、ご飯出来たって」
「ああ、分かった」
なぜか不機嫌そうな光を不思議に思いながら俺は返事をすると居間へと向かう。
どうやらこの日は俺が一番起きるのが遅かったらしく、祖父とみやこは先に朝食に手を付け始めていた。
「おはよう、じいちゃん、みやこ」
「・・・え、あ、おはよう」
俺の台詞に対してなぜか挙動不審となるみやこ。そんな彼女を不思議に思い何かあったのか尋ねようとすると――
「おはよう、新。・・・今朝みやこと光に引きずられておったが、何かあったのか?」
それを遮るように祖父が口を開き俺に尋ねてくる。
だが俺にはみやこと光に引きずられていたなどという記憶はなかったので、何のことだか分からずに首を傾げていた。・・・何か大事なことを忘れている気がするんだが、気のせいだろうか?
そう思い、俺を引きずっていたというみやこと光に視線を向ける。するとみやこは顔を真っ赤にしながら体をもじもじさせ始め、光の方は頬を膨らませながらなぜか俺のことを睨んできた。一体全体、何があったのだろうか・・・誰か教えてくれ。
すると俺のそんな願いが届いたのか、光が口を開き――
「お兄ちゃんがみやこさんとエッチなことをしようとしてたんだよ」
俺とみやこの間にあったらしいことを口にした。――いや、待て。本当に何があったんだ?何があったらそういう状況になるって言うんだ?・・・いや、昨晩は確かにそうなりそうな雰囲気はあったが、俺はみやこよりも先に寝落ちしてたはずだし、そんなことが起きる可能性は・・・・・・あれ?無いって言い切れないぞ?
だが俺の心配はどうやら杞憂だったらしく、みやこが光の発言を否定する台詞を口にした。
「ちょ、光ちゃん、そんなことはしてないから!――多分」
――いや、微妙に否定できていなかった。ていうか、多分ってなんだ、多分って。
すると、否定したみやこを追い詰めるように光が口を開く。
「えー、お兄ちゃんの上に平子さんが乗っかってたじゃん」
「あ、あれは乗っかってたんじゃなくて、新君が気づいたら私の下にいたの!」
そんな光の台詞に対して拒絶レベルではっきりと口にする。
「それ、どっちも同じだよな・・・」
「何か言った!?」
そんなみやこの口にした台詞に対し、彼女に聞こえないように小声で呟く。だがみやこにはしっかりと届いていたようで、今にも首でも絞めてきそうなほどの形相で俺を睨んでくると、俺はほぼ反射的に首を横に振っていた。
「光ちゃん、この話はこれでおしまい!早く食べて頂戴!」
そんな俺の姿を見届けることなくみやこが光を急かす。そしてそんな俺たちの姿を、この状況を作り上げた張本人でもある祖父だけが平然とした表情で見守っていた。
「なあ、一応聞いておきたいんだが。・・・俺、今朝何かやらかした?」
朝食後、光と共にみやこを「料亭・宮川」まで送っていた俺は、みやこの実家が見えてきたところで朝食の際に話題となった今朝のことについて尋ねる。
2人の口にしていた内容から、正直言って碌なことは起きていないんだろうなという予想を俺はしていたのだが、万が一、いや、億が一にも「何か別の要因から起きた事故」という可能性があったからだ。――まあ、どちらにしろ俺はみやこに何かされたことに変わりはないのだが。
そして俺の台詞を聞いたみやこはというと――
「――!や、やらかしたから今朝の記憶が無いんでしょうがあーー!」
顔を茹でだこのように真っ赤にしながらショルダータックルをかましてきた。
そしてそれが鳩尾へとクリーンヒットした俺はというと、今にも気を失ってしまいそうな激痛と言う名の痙攣に耐えながら「す、すまん」と口にする。
正直、俺が何かやらかしたから変な状態になっていたのは分かっていたことだからいいんだが、それで記憶を抹消するほどの衝撃を与えないでくれ。おまけにそのお陰で、今またいらぬ詮索をして記憶と意識が飛びかけたのだから・・・
結局そのままみやこの家に着くまで今朝のことを聞けなかった俺は、その帰りに光から今朝あったことを光の視点から聞かされ後でみやこに土下座しようと決めたのだった。
そのあと家まで戻ってきた俺は、帰る当日になって「まだ準備が終わってないから手伝ってー!」と泣きついてきた光の手伝いをしていた。
「うう、やっぱり昨日の内に用意してればよかったぁ・・・」
それが何度目の光の後悔した台詞だったかは覚えていないが、台詞とは裏腹にどこか楽しそうな様子を光が浮かべているから、おそらくギリギリまで俺と居たいといったところなんだろう。・・・向こうへ帰れば、少なくとも3ヶ月は会えないわけだし。
だが、それとこれとは話は別だ。
「毎年言ってるけど、さすがに帰り支度だけは当日の直前にやらないでくれ。それで前は大事なもの忘れたとか言って大騒ぎになったの、忘れたのか?」
「う・・・で、でも、それは中学生の頃の話だもん・・・」
俺に以前会った実例を指摘され、小さくなりながら反論を口にする光。ちなみに光が以前やらかした内容は、いざバスに乗ろうと麓のバス停で待っていた時、帰りの新幹線の切符を失くしたというものだった。
その時はバックの底の方に隠れていたため事なきを得たのだが、その時も光は今回と同じ行動をしていたのだ。
(たしかその時に、耳にタコが出来そうなほどに言い聞かせたはずなんだがな・・・とりあえず、何も起きないことだけを祈ろう)
内心でそう思いながら光の支度の手伝いをしていき、荷物の確認まで終えたのは、それから20分後だった。
光の帰り支度を手伝った俺は、光の「最後にもう少しお兄ちゃんと話がしたいな」という台詞に了承したことにより、麓にあるバス停へと向かっている途中だった。
時刻としては大体9時前。弱々しいが、また冷える前に少しでも暖かくなるように日光を注ぎ続ける太陽と共に歩いていると、急に光が声をあげた。
「お兄ちゃん、平子さんの事、どう思ってるの?」
「どう・・・って?」
本当は光の言わんとしていたことは分かっていたが、俺はわざと分からないフリをしてしまう。なんでそんな反応をしたのか。その理由はなんてことはない、自分自身ですらよく分かっていなかったからだ。
すると、そんな俺の心境を見抜いたかのように光が口を開く。
「・・・お兄ちゃんの優柔不断なところは嫌いじゃないけど、分からないのに嘘を吐くところは嫌いだよ」
いつも俺に甘えてくる光と同じとは思えない、冷たく突き放してくるような声。おそらく、それだけ今の俺の態度が空々しかったんだろう。
こういうタイミングで口にするのはあれだが、伊達に何年も兄妹ではないというところだろう。・・・それこそ、お互いのことを自分よりもよく知っているんではないのかと錯覚させられるくらいには。
「ごめん、俺が悪かった。・・・でも」
「好きなのかは分からないんでしょ?・・・明らかに平子さんが好きそうな行動はしてるけど」
俺の台詞を途中から繋ぎながらそう口にする光。ていうか、やっぱり他の奴からはそう見えてたんだな・・・。
すると、急にくすくすと笑い声を上げ始める光。
「どうしたんだ?急に笑い出して」
そんな光を不思議に思った俺は、急に笑い出したことについて尋ねる。すると光は若干呆れた顔をしながら――
「だって、分かりやすいのに本人は「分からない」なんて言ってるんだもん。ちょっと同情しちゃった」
そう口にした。そんな光の姿に、今更ながらいつもと違う感覚を覚えていた俺は、思っていたことを思い切って尋ねてみる。
「・・・なあ、なんか今日はやけに棘が無いか?」
「そうかな?・・・うん、いつもよりはあるかも?」
「あ、やっぱりあったのか。・・・じゃなくて、なんで急に」
棘があると口にした光に対してそう尋ねた俺は、その台詞を口にしてからあることに気づく。なぜなら、急に光の当たりが冷たくなった覚えがありすぎるからであった。
そしてそのことに気づいた俺は前言撤回をしようとするが――
「・・・お兄ちゃんって、本当に酷い時があるよね」
どうやら一歩間に合わなかったらしい。なぜなら、俺の台詞を聞いた光が明らかに不機嫌そうな表情を浮かべながら俺の方を睨んできていたからだ。
「すまん、自分で言って心当たりがあることに気づいた」
そんな光の視線を受けながら頭を下げる。
「あっそう。・・・申し訳ないって思ってるんなら、バスが来るまで話をしてようよ」
「あ、ああ。・・・次はいつ会えるか分からないしな」
その俺の姿を見た光が、先ほどまでの空気はどこかへ飛んでいった様子で俺にねだってきた為、これ幸いと俺は乗っかったのだった。
それから約40分後。2人で話しながら歩いていたせいか、普段より若干時間がかかったことにより俺たちがバス停に着いて数分もすると、市街方面へと向かうバスがやってきた。
「お、来たぞ」
そのバスが視界に入った俺は光に立つように促すと、バスの運転手から見える位置へと移動する。
そんな俺たちの姿がしっかりと目に入ったのだろう、バスはハザードランプを点滅させながら俺たちの方へと近づいてくると、停車すると共に昇降ドアを開いた。
「それじゃあな」
「うん。お兄ちゃんも気を付けてね」
最後にそう言葉を交わしてから、互いに手を振る俺たち。そうして光は車内へ、俺は乗る意思が無いことを示すために一歩下がると、バスの昇降ドアが閉じ市街方面へと走り去って行ったのだった。
(・・・さて、これからどうしようか)
光と別れ、バス停そばでぼんやりと立っていた俺は、正面を走り去っていった車のエンジン音で我に返ると一旦家に戻ろうと足を進め始める。
(そうだ、先に神社に寄るか)
だがそこで、なんとなく思ったことを確かめようと神社へと向かうことにし、家へと向かっていた足を神社の方へと向け、1日に皆で初詣に行った神社へと向かったのだった。
その後、皆で初詣に向かった神社へ着いた俺は、神様に向かって参拝した後に目的地であるおみくじの入った箱の前に立っていた。
俺がここに来た理由。それは、あの時は1回しか引いていないから偶然あのおみくじが出たのだと思ったからであった。
流石に2回連続で内容が被るという事も無いだろうとは思っているのだが、念のため確認しようと思いここまで来たのだ。――なんせ、おみくじは番号だけなら100まである訳だし。
そんな気楽な気持ちではあったが、100円を入れておみくじを1枚手に取り、おみくじの中身を確認する。
「さて、と・・・・・・嘘だろ」
だが現実は甘くない――というか、無情だったらしく、俺は手にしたおみくじの内容を見て驚愕していた。なぜなら――
「丸被りなんてあり得るのかよ・・・?」
以前引いたおみくじと内容がまったく同じだったからだ。流石に「偶然だろう」と思い、もう一枚引いてみると――
「・・・これ、中身全部同じじゃないだろうな」
先ほど引いたおみくじと一字一句違わないおみくじを手にしていたのである。そしてその現実に、背筋が凍るどころか心臓を今にも握りつぶされそうな恐怖を抱く。と同時に、普段であればまず考えないような考えが脳裏をよぎる。
(・・・これがもしお告げだとでも言うんだったら、明日・・・)
それと同時に昨晩みやこと交わした言葉が浮かんできた俺は、明日起きることについてのほぼ確信に近い感覚を抱く。
(やっぱり、このことも含めてみやこともう少し話をしておかないと・・・)
そうして俺は急ぎ足で家へと帰ることにしたのだった。
みやこさん、実はボクサーかラガーマン疑惑。(今更
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