表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/25

12月30日・後編

閲覧ありがとうございます!それではお話の始まりです―――

 その後再度食堂へと向かった俺たちは、食堂で待っていたかいと合流。そのまま昼食をとっていた。

 6人掛けのテーブル席に無理矢理7人で座っていた俺たちは、少しばかり窮屈な空間に不満を持ちながら頼んだ料理を口にしていく。

 俺はいつものようにホルモンうどんを頼み、どんどんと口へ運んでいく。


「お兄ちゃん、ひかりの分も残しておいてよ」


 そんな俺の右隣でチャーハンを食べるひかり。その向かい側に座る幸子ゆきこさんからは、微笑ましいものを見るような視線を向けられていた。


「あらちん、私も少し貰いたいな~」


「幸子姉はひかりが食べてからにして」


「あら、それなら待とうかしら」


 そう口にしながら、俺の皿へと箸を伸ばしてくる幸子さん。そして、そんな彼女の行動を阻害する光。なぜか火花を散らす2人を見ながら、俺はホルモンうどん~我が家すぺしぁる~を完食する。


「ああ!お兄ちゃん、ひかりにもちょうだいって言ったのにぃ!」


「え?あ、すまん、つい・・・」


 俺は空になっている皿を見ながら呟く。いつものように気がついたら無くなっていたため、光にあげるのをすっかり忘れていた。

 文句と共に、頬を膨らませながら俺の胸を叩いてくる光。


あらた・・・もう一杯いったらどうだ?」


 そんな光景を見ながら、恭介兄きょうすけにいがそう口にする。それを聞いた光が名案とばかりにそれに乗っかり、俺にお代わりをするように要求してきた。・・・正直、まだ食べ足りないからお代わりをするのは良いんだが――


「・・・・・・」


 先ほどから対角線上の位置に座るみやこの視線が気になって仕方がなかった。時折、俺の方を窺うように視線を向けて来てはすぐに手元に視線を落とす、という行為を繰り返していたため、何となく不思議に思っていたんだろう。

 その様子を彼女の真向かいに座り、俺の左隣にいる恭介兄も当然気づいているだろう。それでも何も言わないということは何かあると感じているんだろうか。それとも、ただからかうことに懲りただけなのだろうか・・・?

 だが食事中にちらちらと見られているというのはあまりいい気分ではない。


「なあ、みやこ。さっきから気になるんだが、俺の顔に何かついてるのか?」


「・・・人間の顔がついてるわよ」


 思い切って声をかけた俺に対し、わずかに驚いた様子を浮かべたみやこがそう口にする。確かについているのは人間の顔だろう。これでのっぺらぼうだったり獣耳があるなんて言われたら驚きだ。


「・・・そうですか。じゃあそんな人間の顔を見て何が楽しいんだ?」


 なんとなく、掘り下げても望む答えは聞けそうになかったので質問を変えてみる。するとみやこは迷いなく口を開く。


「別に新君の顔だからよ。妹の前でデレデレする締まりのない顔なんだもの」


「え、俺、そんな顔になってたのか?」


 衝撃の発言をされた俺が周りに確認を求める。すると光以外の全員が同意し、俺はそれまで思いもしなかった衝撃の事実を突きつけられる。・・・だれか頼むから嘘だと言ってくれ。無自覚でそんな表情になっていたなんて、穴があったら入って埋まりたい気分だ。


「お兄ちゃんの顔はひかりといるといつもこんなだよ?」


 そして最後に、光の口から止めの一言が放たれた。やっぱり締まりのない顔をしていたんだ、と自分のことを1つ知れた俺は、その後昼食を終えるまで締まりのない顔だったそうだ。――もう自覚したから気にしないことにしたのは内緒だが。

 やがて昼食を食べ終えた俺たちは、そのままもう少しだけ食堂で話をし、解散となった。




 恭介兄たちと別れた俺とみやこ、光の3人は現在、麓のバス停へ向かいのんびりと歩いている最中だった。

 先頭から俺、光、みやこの順で並んでいた俺たちはしばらくし麓のバス停へと到着する。


「・・・なあ、帰る前に明日行く神社に寄って行かないか?」


 不意に思い立った俺は、後ろからついてくる光とみやこに声をかける。


「いいよー。平子ひらこさんは?」


「どうせ明日行くんだし、無理に行かなくてもいいんじゃない?」


 それぞれ口にする2人。おそらく光は俺が行きたいというからついてくるだけだろう。そしてみやこの方はいかにも面倒くさいといった表情で口にしていた。


「まあまあ、そう言わずに行かないか?多分明日と明後日はなんだかんだいってゆっくりお参りできないだろうしさ」


 実は俺たちがお参りにいく神社は屋台なども出店している。そのため、毎年市内外から多くの人が集まり、ちょっとしたお祭り状態となるのだ。さすがに本当に人が集まる場所ほどではないが、それでも年末年始の数日間で数百人は地元以外の人間が訪れているだろう。

 もちろんそのことはみやこも知っているため、俺の言葉に渋々だが納得する。


「そう、ね。下手をしたらお参りどころではないものね・・・。わかったわ、ちょっと気は引けるけど、このままお参りしましょうか」


 そうして俺たちは麓のバス停から歩くこと10分の神社へと到着する。

 この神社がどんな神様を祀っているのかまでは詳しく知らないが、小さい頃から毎年訪れていた俺としてはそんなことは些細なことだ。毎年ここにきて神様にお祈りしてきたのだから、多少門外なことからでも守ってくれるだろう。・・・と信じたい。


「ちょっと久しぶりに来たけど前に来た時と変わらないよ、お兄ちゃん」


「そうだな、変わらないよな、ここは」


 俺が覚えている限りでは3年ぶりくらいになる光が、境内を見渡しながらそう口にする。そもそも、神社仏閣自体、何年、何十年に一度の補修工事くらいでしか姿が変わらないしな。まあ、しょっちゅう工事なんてしてたら神様に迷惑だろうし、こういう姿形の変わらないものというのも必要なものだ。姿が変わらないというのは、ある意味「時が止まっている」とも言えるからだ。


「それじゃ、さっさとお参りするぞ」


 そのままお参りを済ませると、俺たちは1時間をかけて家まで帰ったのだった。




 その日の夕食。みやこが作った夕食を食べながら光が出演する年末特番を全員で見ていた。よくあるドッキリ系の番組で、この番組の面白いところはまずMCがドッキリを仕掛けられ、そこからゲストへ、そしてドッキリを受けたゲストが次のゲストへドッキリを仕掛けるという珍しい方式なところだ。

 しかもシナリオはドッキリを受けた本人が考えるらしく、準備時間はかなり短いと思うのだが、何十人もドッキリに引っ掛けているところを見ると案外なんとかなるものなのだろう。

 画面ではちょうど光がドッキリを仕掛けられており、打ち合わせと称して呼び出されたところだった。


「それでは新番組「みゆの食べレポー!(仮タイトル)」についての打ち合わせを始めさせていただきます」


 実際の打ち合わせ風景がどんなものなのか知らないが、光が騙されていないということは本来もこういった感じでやるんだろう。

 当のドッキリを受けた光は何かを言いたそうにしていたが、ネタバレになるのかずっと口をつぐんでいた。

 それからしばらく打ち合わせの風景が流れていくと――


「きゃあっ!?」


 急に打ち合わせに使っていた部屋の電気が落ち、真っ暗な闇となった。その中で仕掛け人のスタッフや光の前にドッキリを受けたゲストが静かに退散していく。

 すると画面の端の方から、お化け屋敷に出てきそうな白い布を被ったスタッフが姿を現す。そして――


「きゃあああああああーー!?」


 お化けに扮したスタッフが光の正面にライトを持って現れ、それと同時に光の悲鳴が上がる。


「・・・・・・え?え?え?」


 その直後電気が着き、光の目の前に懐中電灯を持ったスタッフの姿があった。そのスタッフは片手に持っていた「○○さんからのドッキリ大成功!」と書かれた札を光に差し出す。


「ドッキリぃ・・・・・・?」


 腰が抜けたように椅子に座る光。本気で驚いた様子の彼女の姿を映した後、CMが流れ始める。


「中々本格的に驚かされたんだな」


 テレビの映像を見ていた俺は、思ったことをそのまま口にする。


「うん。なんかスタッフの人たちがおかしいなぁって思ってたら、ドッキリだったの」


「あ、やっぱり違和感を感じてたんだな・・・」


 俺は先ほどの光の仕草の理由が分かり納得する。対する光は胸を反らすと、すぐに食事へ手を伸ばす。・・・一応言っておくが、光は俺の膝の上ではない。最初は膝の上にいたが、みやこに引きはがされたのだ。


「それで、光ちゃんはどんなドッキリを仕掛けたの?」


 続きが気になる様子のみやこが光へ声をかける。対する光は口に人差し指を当てながら「見てのお楽しみだよ」と口にする。

 それから少ししCMが終わると、今度は光と次のターゲットが食レポをするというシチュエーションでドッキリをする内容の映像が流れだす。


「いやー、美味しいですね、この握り。シャリも立ってて――」


 ターゲットのゲストは普通の食レポ番組だと思っているようで、普通にレポートをしていく。対する光もドッキリとばれないように相槌を打っていく。すると――


「悪い子は居ねが―!」


 その言葉と共に、店内へなまはげと獅子舞という異色のコンビが乱入してきた。大声を上げるなまはげと、その背後で踊る獅子舞。その光景は、はたから見るとかなりシュールだった。

 突然の出来事になまはげ達の方を振り向くゲスト。


「はい?はい?」


 突然の出来事に困惑を隠せない様子のゲストが口を開き周囲を見回す。スタッフ達も突然の出来事に驚いた表情を浮かべながらも、ゲストに感づかれないようにカメラを回し続ける。


「悪い子は居ねがーー!?」


「え?え?」


 少しずつゲストの元へ近づいていくなまはげと踊る獅子舞。そんな彼らに対し、明らかに警戒した様子で座席から立ち上がるゲスト。

 対するなまはげ達は気にした様子もなくさらにゲストに接近すると――


「ドッキリを受ける悪い子は居ねがー!」「いねーかー!」


 なまはげのセリフと共に獅子舞が光が見せられたのと同じ札を差し出す。と同時に、ゲストのそばに座っていた光からも声が上がった。

 その出来事と光景に唖然するゲスト。しばらく呆けた表情だったが、やがて「・・・まじかぁ・・・」と声を出した。


「中々なシナリオだな・・・」


「そうね。まさか獅子舞が種明かし役だなんてね・・・」


 光の考えたシナリオに対し、内心で舌を巻く俺とみやこ。無駄に手の込んだ光のドッキリは、スタジオでVTRを見ていた他のゲストやMCにも好評らしく、そのせいか番組の最期でまたドッキリを受けていた。なお、そう判断したのは一番最後に「今回一番素晴らしかった仕掛け人に再度ドッキリを仕掛けます」とMCが宣言したからである。

 やがて年末の特番が終わり、次の番組へのつなぎとしてニュースが流れ始める。


「今日午前9時頃、岡山県津山市の――」


 ニュースに変わってから一番最初に流れたニュースの内容を聞いて、俺は少しだけ恐怖を抱いた。

 ニュースの内容は冬場ならよくあるスリップ事故。だが、そのスリップしたバスの運営会社が昨日俺とみやこが利用したバス会社だった。


「なお、この事故で意識不明の重体が1人、重軽傷者5名が確認されております。・・・続いて――」


 事故の被害を見て、思わず今日光とバスに乗っていなくて良かったと思ってしまう。もしかすると、あの怪我人の中に俺たちも含まれていた可能性があったからだ。


「よかった・・・」


 俺の右隣に座るみやこがかすかに聞き取れるくらいの小さな声でそう呟く。一体、何が良かったのだろうか?死者は出ていないが、怪我人が出ていることは確かだ。――いくらなんでも、それを「よかった」と言うのはおかしくないか?

 俺は思わずその思いをぶつけそうになるが、明日のことも考えてぐっと思い留まる。ここで喧嘩になれば、せっかくの2年参りがつまらないものになってしまうだろう。それは俺としても望まないし、そうなってほしくもない。


「・・・そうだ、確か今日は家に帰るんだよな?送っていくよ」


 だが、今できてしまったしこりを取り除いておかないと変なタイミングでぶつけてしまいそうだと感じた俺は、みやこにそう告げる。対するみやこは意外そうな表情をした後、静かに頷いた。


「じゃあひかりも!」


「ごめん、光。ちょっと明日のことで込み入った話があるんだ。だから今回は家にいてくれるか?」


 即座に光もみやこを送っていくと口にするが、俺は言い聞かせるように断る。すると光はつまらなさそうな表情を浮かべたが、渋々といった風に頷いた。




 それから1時間後、片付けなどを終えたみやこを送るために俺は彼女と共に家を出る。数分の距離ではあるが、その時間で俺はあることを聞こうと決心していた。


「なあ、みやこ。ちょっと聞いていいか?」


「何?新君」


 祖父の家とみやこの家のちょうど中間の辺りで俺は唐突に口を開き、みやこに尋ねた。


「そういえばさっきニュースを見てた時「よかった」って呟いてたけど、何がなんだ?」


 俺が聞きたかったこと。それは先ほどみやこが事故のニュースの時に呟いていた言葉についてだった。するとみやこは、まさか聞かれていたとは思っていなかったのか、驚いた表情を浮かべる。


「え、っと、ほら、スリップ事故って死者が出ることも多いでしょ?だから亡くなった人が居なくて良かったって」


「・・・まあ、確かにな」


 慌てた様子のみやこが弁解するようにそう口にする。

 確かにスリップ事故は場合によっては周囲を巻き込んで大惨事になる可能性もある。そう考えると良かったと思うべきかもしれないが、事故に遭った当事者からすればあまりいい気分ではないだろう。


「でも、良かったっていうのは失礼じゃないか?亡くなった人がいなくても、怪我人は出てるんだし」


 俺の言わんとしたことを察したのだろう。みやこの表情が暗くなっていく。


「そうね、失礼なことを言っちゃったわね。・・・私もそうだったのに」


 立ち尽くしながらそう口にするみやこ。いま彼女の脳裏には、自身を助けてくれたという恩人の顔が浮かんでいるのだろう。そうしてしばらくすると、彼女は俺に向かって頭を下げる。


「ごめんなさい。私、不謹慎なことを・・・私自身そういう経験があるのに」


「いや、分かってくれればいい。明日の為にも変な疑問は無くしたかっただけだから」


 その後俺とみやこは特に会話をすることなく「料亭・宮川」まで到着すると、別れ際に「おやすみ」とだけ言って別れたのだった。




 それから祖父の家に帰ったあと、俺は風呂に入っていた。ささっと体を洗い、湯船に浸かる。


「あー、あったまる」


 40度近いお湯の中へ冷えた体を沈めるのはなんだか悪い遊びをしている気分になり、ちょっとした背徳感を味わい気分が高揚していくのを感じる。


(・・・そういえば昨日、みやこは俺と光が遊びに行くのを止めようとしているみたいだったな)


 不意に、俺の脳裏に昨日のみやこと光でしたやり取りが浮かぶ。あの時は何とも思わなかったが、今思えばどことなく必死というか、何かから遠ざけようとしてるみたいだった。


(そういえば、前にも違和感のある発言をしてたよな・・・)


 友達だと言ったら「好きになっても構わないよな」という発言をしたり、礼を口にしたら「意味がない」と言うし、時折未来予知みたいなことを口にするし・・・


(おまけにみやこといるとなんでか調子が狂うというか、自分でもいまいち訳が分からない感覚になるんだよな)


 理由は分からないが気づけばみやこの事を気にしているというか、優先しているというか。当のみやこの方も時折わけの分からないことで怒ったりしてくる。・・・でも、その時の彼女の表情や言動から「許す」という訳ではないが、なぜか触れない方がいい気がして――


(・・・俺、みやこのことを好きになってるのか?)


 ふとその可能性に至ったが、俺は首を振って否定する。なんとなく聞いたことのある恋の症状に似ているが、彼女のことを思い浮かべたからといって心臓の鼓動が高鳴るわけでもなく、顔が赤くなるわけでもない。だが――


(なんだろうな、守らないといけないって思うのかな・・・)


 脳裏に浮かんだ光景を見ながらそう考える。いつだったか見た、みやこを助けるためにスリップしたトラックに突っ込んでいく夢。あの時は途中で目が覚めたが、あのあと俺とみやこはどうなったんだろうか。もしかすると、覚えていないだけで最悪な結果だったのかもしれない。それでその無念の念から――


(いやいや、ないない。あんなのただの現実味の強い夢だ)


 俺は抱いた可能性を一蹴する。きっと、偶然みやこの印象が残っていたからあんな夢を見たんだ。・・・そうだ、そうに違いない。


「でも、みやこは何か隠してるんだよな」


 1人呟く。気づけば声に出ていたその言葉は、俺の確信からくるものだった。

・・・人間の顔がついてるわよ。


最後まで閲覧ありがとうございます!よければ感想・お気に入り登録おねがいします!


アルファポリス様、pixiv様でも同名で活動中です!

良ければ各サイト、それからなろう連載の別作品もよろしくお願いします!

更新情報はツイッターにて!

https://twitter.com/nukomaro_ryuryu

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ