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果無き亡神  作者: 枝垂桜
第一章 孤独な英雄と白き砂漠
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第一話 星の輝く天に

 声が聞こえる。 阿鼻叫喚と、救いを求める声が聞こえて来る。


 しかし、助けを求める彼等を、他の誰でもない自らの手で焼き払った。


 それは、遙かいにしえの記憶。


 決して忘れてはならない、おぞましい時代(世界)の片鱗。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 冷たい石の感触を肌に感じかながら、黒髪黒瞳の男の意識が覚醒する。

 目を開ければ石造りの天井が視界に映った。


 思考がはっきりしてくると、今度は身体を起こす。

 立ち上がり周りを見渡すせば、そこは洞窟のような空間になっており、男は複雑な魔法陣の中に立っていた。


 どうやらこの魔法陣が男が持つ肉体の蘇生を手伝っていたようだ。

 だが、同時にそれは何者かが、男をここ蘇らせたことになる。


 男はしゃがみ込み魔法陣に触れ、魔法陣にその痕跡が残っていないか調べる。

 古い魔法陣はその効果を残しているものの、誰が描いたモノなのかまでは分からない。


 他にも手がかりはないかと注意深く周りを見渡す。

 魔法陣に奪われいた意識を周りに移し、周囲の情報を頭に叩き込む。


 そして視線を巡らせているとある一点に目が止まる。

 それは壁に書かれた文字だ。


 迷わずそこへ近づき文字を読み上げる。




 ==============================



 この手紙を読んでいるということは、無事目覚められたみたいで良かったよ。


 もし、記憶やちからが欠落していたらごめんね。 それは、どうしようもなかったんだ。


 本当ならぼくの方から迎えに行けたらいいんだけど、今その場所には居ないよね。


 いたら、ぼくがこれを消してるしね。


 もしそうなら、いつか迎えに来て欲しいんだ。

 君と交わした最期の約束通りーー


 もし覚えていたら、必ず迎えに来てね。


 ーーずっと待ってるから……


 そしたら、また君の名前を教えてほしい……。


 ==============================




 男は読み終えると、その文字に手を乗せる。


 ーー忘れようがない……。


 まだそらに星がなく、世界が一つだった時代に交わした約束。

 決して違えることは他の誰でもない、己自身が許さない。


 拳を握りしめ、その隣にある魔法陣へと視線を向ける。


 それは収納魔法。

 異空間に物を収納するだけの空間魔法だ。

 その魔法を発動させ、中に入っている物を取り出す。


 中に入っていたのは衣服の一式と刀、黒結晶の魔道具アーティファクト


 しかし、衣服に関しては創造魔法で作れる上、武器に関しては男自身の収納魔法に魔剣や聖剣が入っている為……正直なところ、間に合っていた。


 それ以前に、武器は男自身の権能による『神器』があるため、他の武器は基本的に使っていなかった。


 しかし、わざわざこうして用意してくれたのだ。

 その親切を無碍にする訳にはいかない。


 肌の上に晒しを巻き、その上から腕まくりによる半袖の白いワイシャツを着て、黒いネクタイをする。

 その上からは、同じく黒いスーツベストを着た。


 最後にくるぶしまである、長い暗黒色のロングコートを羽織る。

 襟周りのデザインは、かつて人間の作ったブレザーと呼ばれるモノと同じで、ロングコート故かボタンと穴はない。


 更にはロングコートとしても独特な形状をしており、肩の部分が神主の装束のように前半分切り開かれていて、背中側だけで繋がれている袖は、振袖となっている。

 振袖の長さは足首まであった。


 下のズボンは黒色でゆとりのある大きさだ。

 靴は黒いブーツでズボンを上から被せる。

 最後に剣帯を腰に付け、そこに刀を帯びると本を開く。


 全て装備し終えると、男は再び弟子の書き残した文字に触れる。


 そして、無造作に石もろとも文字を抉った。

 当然、文字は消えてなくなる。


 どこか寂しげな目でそれを見つめると、そこから視線を外し……服と一緒に入っていたカーテン状の黒い目隠しをする。


 そうして準備が整い、男は無造作に上へ手を翳す。


 直後、けたたましい破壊音が響き渡り、男の頭上……石作りの天井が消し飛ぶ。

 そこから地上へ飛び出し、天を見上げた。


 澄んだ夜空には満遍の星が輝く。

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