第一話 星の輝く天に
声が聞こえる。 阿鼻叫喚と、救いを求める声が聞こえて来る。
しかし、助けを求める彼等を、他の誰でもない自らの手で焼き払った。
それは、遙か古の記憶。
決して忘れてはならない、悍しい時代の片鱗。
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冷たい石の感触を肌に感じかながら、黒髪黒瞳の男の意識が覚醒する。
目を開ければ石造りの天井が視界に映った。
思考がはっきりしてくると、今度は身体を起こす。
立ち上がり周りを見渡すせば、そこは洞窟のような空間になっており、男は複雑な魔法陣の中に立っていた。
どうやらこの魔法陣が男が持つ肉体の蘇生を手伝っていたようだ。
だが、同時にそれは何者かが、男をここ蘇らせたことになる。
男はしゃがみ込み魔法陣に触れ、魔法陣にその痕跡が残っていないか調べる。
古い魔法陣はその効果を残しているものの、誰が描いたモノなのかまでは分からない。
他にも手がかりはないかと注意深く周りを見渡す。
魔法陣に奪われいた意識を周りに移し、周囲の情報を頭に叩き込む。
そして視線を巡らせているとある一点に目が止まる。
それは壁に書かれた文字だ。
迷わずそこへ近づき文字を読み上げる。
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この手紙を読んでいるということは、無事目覚められたみたいで良かったよ。
もし、記憶や力が欠落していたらごめんね。 それは、どうしようもなかったんだ。
本当ならぼくの方から迎えに行けたらいいんだけど、今その場所には居ないよね。
いたら、ぼくがこれを消してるしね。
もしそうなら、いつか迎えに来て欲しいんだ。
君と交わした最期の約束通りーー
もし覚えていたら、必ず迎えに来てね。
ーーずっと待ってるから……
そしたら、また君の名前を教えてほしい……。
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男は読み終えると、その文字に手を乗せる。
ーー忘れようがない……。
まだ天に星がなく、世界が一つだった時代に交わした約束。
決して違えることは他の誰でもない、己自身が許さない。
拳を握りしめ、その隣にある魔法陣へと視線を向ける。
それは収納魔法。
異空間に物を収納するだけの空間魔法だ。
その魔法を発動させ、中に入っている物を取り出す。
中に入っていたのは衣服の一式と刀、黒結晶の魔道具。
しかし、衣服に関しては創造魔法で作れる上、武器に関しては男自身の収納魔法に魔剣や聖剣が入っている為……正直なところ、間に合っていた。
それ以前に、武器は男自身の権能による『神器』があるため、他の武器は基本的に使っていなかった。
しかし、わざわざこうして用意してくれたのだ。
その親切を無碍にする訳にはいかない。
肌の上に晒しを巻き、その上から腕まくりによる半袖の白いワイシャツを着て、黒いネクタイをする。
その上からは、同じく黒いスーツベストを着た。
最後にくるぶしまである、長い暗黒色のロングコートを羽織る。
襟周りのデザインは、かつて人間の作ったブレザーと呼ばれるモノと同じで、ロングコート故かボタンと穴はない。
更にはロングコートとしても独特な形状をしており、肩の部分が神主の装束のように前半分切り開かれていて、背中側だけで繋がれている袖は、振袖となっている。
振袖の長さは足首まであった。
下のズボンは黒色でゆとりのある大きさだ。
靴は黒いブーツでズボンを上から被せる。
最後に剣帯を腰に付け、そこに刀を帯びると本を開く。
全て装備し終えると、男は再び弟子の書き残した文字に触れる。
そして、無造作に石もろとも文字を抉った。
当然、文字は消えてなくなる。
どこか寂しげな目でそれを見つめると、そこから視線を外し……服と一緒に入っていたカーテン状の黒い目隠しをする。
そうして準備が整い、男は無造作に上へ手を翳す。
直後、けたたましい破壊音が響き渡り、男の頭上……石作りの天井が消し飛ぶ。
そこから地上へ飛び出し、天を見上げた。
澄んだ夜空には満遍の星が輝く。