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08

「――好きなのよ」


 今日も放課後の教室に残っているふたりを見つけて近づいたのが悪かった。


「まじか、ま、あからさまに態度を変えてたしな」

「まあ好きかもしれないってところだけれどね」

「いいじゃねえか?」


 そりゃ自分のことを綺麗な子が好いてくれているなら嬉しいだろう。

 高身長、綺麗、スタイルもいい、態度も柔らかいとなれば最高案件だ。


「でもなあ、希空だよな問題は」


 なんで? あ、もしかして私が好きだとか思っているの?

 ふたりは出会ってからすぐに仲良くできていたし、少なくとも試そうとした失礼な自分よりはお似合いだ。


「なんであの子?」

「いや、翔って正に理想の存在だと思うんだよ」


 え、翔くん? あ、ああ……なるほどね。


「翔くんのことをあの子が好きなの?」

「いや、多分違う――」

「違うよっ」


 教室の扉をドバンッと開け――もう開いていたので入ってふたりに近づく。なんだそれ、あからさまに力が戻ってきていて笑えてくる。


「の、希空か……」

「翔くんは確かに魅力的だけど、そういうつもりで見ていないから!」

「ふふ、盗み聞きは良くないわよ」

「はい……すみませんでした……」


 こちらに非があることは分かっている。けれどあんな紛らわしい会話を大して警戒もせずに会話している方も悪いと思うんだ私は。


「さっきのこと頼んだわよ健生くん」

「まあ本人次第だけどな。じゃあな」


 それにしても驚いた、冰室さんが翔くんのことを好いているなんて。


「いつから隠れてたんだ?」

「ん? ああ……冰室さんが好きだと言ったときからかな」

「だったらすぐに入ってくればいいだろ? 希空のことは信用しているし別に聞かれても構わなかったぞ」


 しょうがないじゃん、足が止まっちゃったんだから。自分よりしっかりしててお似合いとか考えてしまったのだから。


「どうやら翔も楓華のこと気に入っているみたいでな。恋は一方通行では成立しない……だからあんまり言ってこなかったんだけどさ、今日楓華からあれが聞けて良かったわ」

「両想いじゃないと苦しいもんね。それに見た目はともかく、ああいう酷いことをしない子じゃないと悲しい結果になっちゃうし」


 1度好きになって付き合ったのなら最後までそうであれという話だ。手を出す――抱きしめとかキスをしてこないというだけで他の男の子を探すとか有りえない。そういう人は同性の評価を下げるだけだからやめてほしい。


「ちなみに冰室さんは翔くんのどこを気に入ったの?」

「優しくて可愛いところだってさ」

「うん、確かに翔くんは可愛い」


 こっちを立ててくれそう。あと可愛い笑顔で癒やされそう。だけど古屋くんは……全然気にせず自由に過ごしそうだと考えた。


「兄ちゃん」


 翔くんの到来。

 うん、やっぱり翔くんの方が格好いいし優しそう――なんだけど、私はなぜか古屋くんの方に興味を抱いちゃってるんだよなあ……。


「お、ちょうどいいところに。翔、お前今週の土曜日って暇か?」

「うん、暇だけど」

「冰室と出かけてみたらどうだ?」

「え、冰室さんと? え、あー……冰室さんがいいなら……うん」

「大丈夫だ、頼れるお兄ちゃんに任せておけ!」


 また勝手に……まだ冰室さんの予定があいているかどうか分からないのに。


「宮内さん宮内さん」

「ん? どうしたの?」

「どうしちゃったんですか兄ちゃんは、今日はなんか楽しそうですけど」


 あー、冰室さんが翔くんのことを気に入っていると素直に言うのもなんか違うしどう返答しよう。


「もしかして、宮内さんといいことがありました?」

「ははっ、ないない! 私と古谷くんはいつも通りだよ」

「あれ、宮内さんは兄ちゃんのこと名前で呼んでないんですか?」

「うん、ちょっと恥ずかしくてね」


 弟のためと恐らくちょっとの悪戯心を抱えつつ必死に冰室さんを誘っている彼を見ながら言った。


「古谷くんが私のことを名前で呼んでいるのは強制力があったようなものだしね」


 彼が言うように、少なくとも本人がいる場所でする話ではなかった。なのにバカ正直に「名前で呼んでほしいかな」とか言ってたんだ。本当に彼が呼んでくれたことと、なにを言っているんだという羞恥によって全身が熱くて仕方がなかった。場所が私の家だったというのも影響が大きかったのだと考えている。


「それなら今呼んでみましょうよ!」

「え……今からここで?」


 まだ通話を続けていることから難航しているのだろうが……。


「おう、だから頼んだぞっ、じゃあな! はぁ……あいつめ、ごねやがって……」

「冰室さん大丈夫だって?」

「おう! だから言ったろ、お兄ちゃんに任せておけって!」

「あ、ありがと……それじゃあ僕は帰るね」

「おう、気をつけて帰れよ」


 ん? そもそもなんで私たちの教室まで来たんだろう。

 考えているうちに翔くんは出ていってしまったため切り捨てた。


「希空、これからどうする? もうちょっと涼しくなってから出るか?」

「うん、健生くんがそうしたいなら」


 彼の横の席に座ってんーと伸びをする。こういう時間は落ち着くから好きだ。外の暑さを考えるとこのままずっとここで過ごしたいくらいだった。




 適当に本を読んで時間をつぶす。

 希空のやつはスマホをぽちぽちいじって時間をつぶしているようだ。

 つかこいつ、さっき俺のこと名前で呼んでなかったか?

 1度気になり始めたら止まらない性格の俺、すっかり読書どころではなくなってしまった。


「そわそわしてどうしたの?」


 横を見ると微笑を浮かべている彼女と目が合った。

 意外と向こうもスマホをいじるという作業に集中できなかったのだろうか。


「いや……お前さ、さっき俺のこと名前で……」

「うん、だっていいでしょ?」


 なにがいいんだ? 仲良くなってきたから?


「それよりそろそろ帰ろうか」

「おう、そうだな」


 希空もそうだが翔の様子も気になるところだ。

 さっさと帰って相談なり乗ってやりたい。

 だって急に他人の手によってデートが決まったようなものだからな。

 でも翔にとって幸いなのは相手が――楓華が興味を抱いてくれていること。


「希空、土曜日一緒に出かけようぜ」


 帰っている最中に彼女を誘う。

 ひとりで尾行――観察すると十中八九怪しまれるので彼女が必要なのだ。


「え、それってデート?」

「んー、あのふたりを観察するという意味では違うが、まあ似たようなものと捉えてもいいんじゃないか?」


 それは個々が判断すればいい。

 俺は尾行、彼女にとってはデートでもなんでもいいのだ。


「どんなところに行くのかな?」

「さあな。でも、面白いことになると思わないか?」

「だねっ、どんな感じで一緒にお出かけするのか気になるよ」

「おう」


 今日は大人しく彼女も別れ道で別れてくれた。

 残りの道を急いで走って家に帰る。


「ただいま!」

「あ、兄ちゃんおかえりー」

「おう。って、電話中か?」

「うん、相手は冰室さんなんだ」


 おぉ、翔も自分の力で頑張っているということか。

 そう考えると邪魔するのを忍びない。

 やっぱり尾行の件はなしにしよう。

 その旨のメッセージを希空に送って風呂場に直行。


「嫌われたら嫌だしなぁ」


 他人が頑張っているのを見世物のように扱うことはおかしい。

 危ねえ、先に気づけて良かった。


「兄ちゃん、電話」

「おう、さんきゅー」


 まあいちいち誰かと聞かなくても希空なのは分かる。


「やっぱりなしってどういうこと!」

「少なくとも尾行はなしにしようぜ。出かけるのはしてもいいぞ」

「え、あ、そうなんだ……んー、それじゃあどこに行く?」


 土曜日の気温を調べてなんか一気に外に出る気がなくなった。


「家でのんびりしねえか? どっちにしても俺の家には誰もいないぞ」

「えぇ、せっかくだからどっか行こうよー。海とかさー」

「海ねぇ……めちゃくちゃ暑いじゃねえかよ」


 日焼けが嫌で長袖Yシャツを着ているやつがなにを言う。

 とはいえ、出かけると言ってしまったのも俺か。


「よし、それなら希空の家に行くわ」

「えぇ……まあお姉ちゃんたちいないけどさ」

「じゃあ好都合だろ。親フラとかになったら緊張するからさ」

「……まあいいよそれでも、なしになるよりはさ」

「おう、それじゃあな、いま風呂中だからさ」

「へ、へぇ……うん、じゃあね」


 そうだ、一応あれも持っていこう。

 本当かどうかは分からないが楓華に聞いて準備した物。


「気に入ってくれっかねえ」


 さっきだって海を出してたし恐らく大丈夫なはず。

 土曜日、俺はまた勇気を出すぜ。

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