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02

 美化委員で草をむしっている最中のこと。


「(ん? あれは翔の彼女じゃねえか?)」


 何故、翔以外の男と仲良さそうにしている。

 いや、アニメとか漫画みたいにサプライズ的ななにかを相談しているのかもしれないが、あの親密さはどうにも引っかかる。

 だから尾行を開始。荷物は後で取りに行けばいいだろう。


「でさ、新城くんはどういう子がタイプなの?」

「んー俺は心みたいな感じの女子が好きだな」

「え、それじゃあ付き合っちゃう?」

「いや、心は古屋翔と付き合っているだろ?」

「そろそろ別れようと思っていたし大丈夫だよ」


 なんだあの女、これを翔に言うべきかどうか。

 言って不仲になるのは避けたいが、翔がこんな女に騙され続けるというのも素直に嫌だぞ。


「だってさ、翔くんって全然手を出してこないんだもん」

「付き合っていたのにか? 駄目だな、見た目通り草食系ってやつか」

「そう! だから呆れちゃってさ」


 もうこれ以上見る必要もない。


「なんだあいつ」

「本当だよね、ああいうのは同性としてもないわー」

「うっ……な、なんで宮内が……」

「だって美化委員のお仕事サボったじゃん」


 何気に宮内も美化委員だったらしい。全然会話をしていなかったから分からなかった。あくまでひとりでやっても楽しい時間でしかないし。


「そうだ、これ」

「え? あ、俺の荷物」

「急いで取ってきた」

「ありがとな」


 わざわざ学校に帰らなくて済むのは助かった。俺はあそこにあまりいい印象を抱いていないから。


「あれ、言うの? 弟くんの彼女なんでしょ?」

「は? なんでそんなこと知ってんだ?」


 古屋と名字で呼ぶようになってきたり、接触を減らしてきたり、かと思えば急遽こうして現れたり、実に扱いの難しい女だ。ひとつ言えるのは友達ではないということ。


「一応友達はいっぱいいるから調べさせた」

「俺も翔に宮内のこと調べさせたぞ。下心がある人間に近づいてほしくないんだろ? でもさ、下心がない人間なんているのか?」


 誰だってなにかしらを求めて行動する。見返りなしで動ける善良な人ばかりではないだろう。少なくとも俺には無理だ。


「難しいよね。だけどだからこそ稀有な存在を探しているんだよ」

「それで男子とばっかりいるのか。それでも適度にしておけよ、女子からの評価あんまり良くないぞ」

「他人からの評価なんてどうでもいい。私が求めている人間をいつも探しているだけ、勝手に言いたいなら言わせておけばいいでしょ?」


 強いなこの女。別に誰にも迷惑をかけてない以上、止めるようなことはできないし止めるつもりも一切ない。


「私は例え嫌われたとしても言うべきだと思うけど?」

「そうだよな……言うわ」

「うん、頑張って。それじゃあね」

「おう、これありがとな」

「別にいいよ」


 あの女が好きだと言った翔だ、もちろん兄の言葉だろうと信じようとはしてくれないだろうが、流石に言わないままではいられないからな。



 

「はぁ……」

「ありゃ、今日は溜め息?」

「ちょっと見込み違いでね」


 下心はないけど意思が弱い。

 たかだか1週間にも満たない相手に言われたからってそうするなんてどうかしている。


「前言っていた男の子の話?」

「そう」


 おまけに弟の為とはいえお仕事をサボるのも良くないことだ。


「どんな子なの?」

「背は私より10センチくらい大きい。いつもひとりでいる。休み時間の過ごし方は突っ伏して寝る、音楽を聴く、本を読む、まあ一般的な過ごし方って感じ」

「それってぼっちじゃん」

「まあそうかも。本人は気にしていないようだけどね」


 心配な点は私を友達扱いしているのではないのかということ。

 もう友達認定をしているのだとしたら関わるのをやめるところだ。

 明日試してみよう。


「うーん、お姉ちゃん的にその子はないかなあ。だってぼっちになるってことは問題があるってことでしょ?」


 途中で切り上げてしまったとはいえ委員会のお仕事をきっちりやる性格ではある。弟のために動ける優しさもある。何気に他のお仕事もやるし、プリントとかも代わりに運んであげてる場面も見たことがあった。

 私や他の女の子にかまけている他の男子よりかは好評価か? って、偉そうではあるけども。


「試してみたらいいじゃん、いつものあれ」

「あー……あんまりあれ、したくないんだけど」


 なんか誠実じゃないし、遊んでいる女みたいだし。

 私はお姉ちゃんとは違う、真面目に理想の男の子を探しているんだ。

 媚を売ったりはしていない……少なくともいまの状況は男の子が勝手に近づいて来ているだけで。


「その子にしたら新作の服買ってあげる」

「うっ……」


 私のお小遣いじゃ数ヶ月貯めないと買えない物だ、かなり心が揺れたのを感じた。

 ま、別にいやらしいことではない。あれ、というのは予告なしに手を繋ぐというだけだ。そこで乗っかれば関わるのをやめるだけ。


「これ、その子に教えといて」

「ID? いいの? 彼氏が怒るんじゃ?」

「あ、もう別れたから大丈夫」


 そりゃそうだ、勢いだけで求めていたらすぐ別れる羽目になる。

 だから私はいい子を探しているんじゃないか。




「連絡するように言っておいてねー」


 なんてお姉ちゃんは言っていたけど……。


「古谷くん」

「ん……あ、宮内、どうした?」

「ちょっと横の空き教室に来てくれない?」

「いいけど」


 空き教室に移動して彼を待つ。すると彼もダラダラとではあったがこちらに来てくれた。


「あのさ、これ」

「ID? 誰の?」

「私のお姉ちゃんの」

「いらね」


 一応同じ学校に通ってて美人でモテるんだけどな。


「えい」

「は? なにやってんだお前」


 彼は私の手を無理やり振りほどく。

 あまりに驚きすぎてすぐになにかを言うことができなかった。


「そういうのやめてくれねえか? 大体俺らは友達ですらねえのによ」


 いや、冷静でなかったのは最初から最後まで私の方だ。

 今日の彼はどこか棘がある。もしかして弟くんと喧嘩した?


「あのさ、弟くんと喧嘩した?」

「ふっ、まあな。信じたくない、勝手言うなよって怒られたわ」

「古谷くんはなんて?」

「別にこっちは怒りはしなかったぞ? だってこの目では見たが翔が信じられるような証拠を出したわけじゃないからな」


 そうか、これだと私も姉に信じてもらえなくなる。

 どうすればいい? 無理やり登録させて無理やりメッセージを送らせるか?


「話はこれだけか?」

「あっ……」

「なんだよ?」

「お、お姉ちゃんに連絡……」


 そんな試すような行為をして得る服って着心地いいのかな。それに嘘つき少女でもあるのでただ面白がっているだけなんじゃ……。

 いいな、古谷くんは信用できる弟がいて。こっちはそうじゃない、あくまで向こうからしたらおもちゃみたいな存在だから。


「まあいいぞ、どうしてもってんなら」

「い、いや……いい、やっぱりいいよ」

「そうか? って、そんな顔すんなよ。別に利用してきたっていいんだぞ? 姉の名前を出してきたということは、俺にさっきのをしたら○○してあげるとかそういうのだったんだろ?」

「な、なんでそれを――あ……」


 違う、こんなミス他の子の前でしたことはなかった。

 そりゃ呆れられるわけだ。つまらないと冷たい表情で見られるわけだ。

 でも彼は「はははっ、分かるんだよ、長年ぼっちやってるとな」と呑気に笑っていた。


「ほら、紙やっぱ貸せよ。えっと…………よし、宮内はしっかりしました、と。これでなんかしてもらえるんだろ? 良かったな」

「な、なんで……」

「なんでって、お前がそんな不安そうな顔をしているからだろ? 流石に目の前でそんな顔をされちゃ誰でも気になるだろ。いいか? これからも俺相手には一切遠慮いらないからな。そのかわり俺もお前を使わせてもらう、分かったか?」


 つ、使うってどういう風に? 

 これまでこんな展開は有りえなかった。

 私はいつだって優位な立場にいた。

 だというのにいまは違う、主導権はあちらにあるように見える。


「あ、言っておくけど性的な意味じゃないからな? 俺が言ってる使うってのは、口うるさい母さんを騙させるために利用するだけだ。申し訳ないと思うなら友達のフリをしてくれ」

「友達になってくれ、じゃないの?」


 言っちゃった!

 下手くそすぎる、これではまるで私が求めているみたいじゃないか。


「いや、別にいいよそれは。自惚れだと言われても構わないから言っておくが、お前の理想には俺はなれないからな」

「なんでそんなことまで……」


 丸裸にされているようで恥ずかしい。


「よし、それなら今日このまま来てくれ。一緒にうちの母親を黙らせるぞ宮内!」

「あ、え、うん……」

「おいおい、頼むぜ」

「わ、分かった……行く」

「ありがとな!」


 これって私が試されているのか? ミイラ取りがミイラになった形になるのか?

 でも面白い、やっぱり目をつけたのは間違いではなかったと気づかせてくれた。


「試す形になったこと、謝罪はしないからね」

「いらねえよそんなの。いいから行くぞ」

「うん」


 他の子にはないある意味違う魅力がある。

 これから楽しくなりそうだ。

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