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01

読むのは自己責任で。


会話のみ。

 あるときクラスの男子が言った。


「中学で彼女がいないとか時代遅れっしょ」


 と。

 そんな調子乗ったことを言っていた男子はすぐに彼女と別れたが、彼はまだマシだ。世の中には年齢=彼女いないという人間もいるのだから。


「あんたまだ彼女のひとりもいないの?」


 そのせいで母には毎日こう言われる。父にはわざわざ紙に書かれる。弟はそんな俺と同じような道は辿らずリア充ライフを送っている。


「兄ちゃん、もう高校生なんだからそろそろ異性の友達くらいはさ」


 悲しいかな、家での立場もすっかり弟の方が上。

 そんなこと言ったって環境がすぐに変わるわけじゃない。

 いくら頑張ろうとしたって報われなかった俺だ、高校2年生のいまから変わるとはとてもじゃないが思えなかった。




 ぼっちの朝は早い。


「ごちそうさま。あ、今日は図書館に寄ってくるから」

「分かったわ。当然ひとりよね」

「お、おう、よく分かったな」

「だってあんた友達いないじゃない。気をつけて行くのよ」


 朝から憂鬱な気持ちになった。

 友達がいないのは事実だけどさ、もうちょっとオブラートに言っておくれや母さんよ。

 そんな感情を抱えつつ登校。


「おはよー」

「ごめん、待った?」

「ううん」


 なんて会話を聞きつつ歩いて、学校に着いても静かに教室を目指す。


「はぁ、早めの登校すると誰もいなくていいけど暇だな」


 なので花瓶の水を変えたり、突っ伏したり、本を読んだり、音楽を聴いたりと案外することがあるのが救いか。


「はふぅー着いたー! って、えええええ!?」


 あーいたなこんな女子。いっつも男子といて、恋愛関連で悩んだことがなさそうな感じの。大声を出しているがどうしたんだろうか。


「も、もしかしてこの人、ここで寝泊まりしたとか……? ごくり」

「なわけないだろ」

「しゃべったあああ!?」


 なんだこいつ。俺がぼっちだからって馬鹿にしていい権利は誰にもないんだぞ。つか残念系美少女か? アホなのは致命的だぞ。


「というか君、同じクラスの子?」

「そうじゃなければここで寝てないだろうが」

「女の子の席に座っている変態さんなのかと思った」


 名前どころか一緒のクラスだということも分かってもらえてないとかこりゃ彼女どころじゃねえぞ。俺にできるのはただ欠席せず登校し続けることだけ、真面目に授業を受けて、家に帰ることだけ。


「名前、なんだっけ?」

「古谷健生(けんしょう)

「懸賞? なにか送るの?」

「もういいか?」

「あ、うん、別にいいかな」


 なんだこいつぁ!? いや待て、俺は和を乱さない男、健生。

 こんなことがあっても平静でいられる強さがある。

 何年ぼっちやってきていると思っているんだ、舐めるなよ。が、


「あ、懸賞くーん」


 昼に飯を食べてたら急に呼んできたり、


「あれ、懸賞くん図書室行くの?」


 図書館ではなく図書室で済まそうとしたのが悪かったのか付きまとわり、


「ねえねえ、どんな本を読むの?」

 

 何故か付き合ってくれたり。

 ――認めざるをえない。こいつはアホだが物怖じせず近づける強さがある女だ。


「ふぅ、楽しかった!」

「男子に呼ばれていたのに大丈夫なのか?」

「この後行くって言っておいたから大丈夫」

「なるほどな。それじゃあ気をつけて帰れよー」


 いや待て、なんで俺らはさも友達みたいに一緒にいたんだ?


「うん、じゃあね懸賞くん」

「懸賞じゃなくて健生だ」

「懸賞くんじゃあねー」


 話を聞いちゃいない女。しかも俺はあいつの名前を知らないまま。


「ま、どうでもいいか」


 縁があればまた関わることもあるだろう。




希空のあちゃん? ぼうっとしてどうしたの?」

「あ、大丈夫大丈夫っ」

「そっか! えっと、楽しい?」

「うん、みんな歌が上手でいいと思うよ」


 正直に言っていますぐ帰りたい。

 でも、今日はいい1日になった。

 古屋健生くん――懸賞くんと出会えたからだ。

 ガツガツ来る人間よりもああいう人の方がいい。

 いまだってこっちにアピールする男子ばかり、数が多すぎて辟易としている。

 だが今日も無難にやり過ごした。

 いきなりは駄目だ、徐々にゆっくりと誘いを断っていく。

 それもまた私、宮内希空の権利。


「ただいま」

「おかえり。ん? なんか今日は楽しそうじゃん希空」

「うん、ちょっといいことがあったんだ」


 全然タイプじゃないし正直一緒のクラスかすら覚えてなかった人だから魅力ないんだろうけど、たまにはそういう人と関わるのも悪くないだろうと考えている。


「お菓子食べる?」

「うん」


 演技をするのは得意だけど正直に言って疲れる毎日だ。

 きっと懸賞くんの前では可愛い私を演じられたと思う。


「希空はさ、そろそろ特定の男の子と親密に、とかないの?」

「ないね、だって下心しか感じないんだもん、今日一緒に行ってた男子なんて私の足と胸しか見てなかったからね」

「まあ高校生だもん、女体には興味あるでしょ」


 そう考えると古屋くんは体どころか私すら見ていなかった。

 情報を集めた限りだといっつもひとりでいるみたいだし、女の子と話すのが苦手なのかもしれない。

 でもいまのままでいい。胸とか足とか顔とかだけで判断されるのはむかつく。分かった気になられるのもむかつくけど。


「私の彼氏だっていっつも制服の下を求めるからね」

「そういうの嫌い」

「いやいや、男子くんなんてそんなもんだって」


 だからそうじゃない子を探しているんだ。

 だけどいまのままだと延々に見つからなそうだ。




 1週間が経過し6月に突入。

 あの女子、宮内希空はあれ以来近づいて来てはいない。

 それならそれで落ち着いた時間を過ごせるため気が楽だった。


「古谷くん」

「どうした?」

「今日この後って暇?」


 彼女がそう言った瞬間、男子達の雰囲気が一気に変わる。


「別に暇だけど」


 調べた限りではほとんど男子としかいないようだが、これもまた一環だろうか? プライド的なものから俺にも近づいて来ているんだろう。


「それならさ、ホームセンターに行こうよ」

「何故に?」

「あ、釘とハンマーが欲しくて」

「それじゃいまから行くか」

「うん」


 学校が比較的駅に近いのでそこまで移動すればたくさんの店がある。商業施設なり、喫茶店、飲食店、家電量販店、そしてホームセンターなどなど、隣街に行くとかしなくても大体揃うので楽なところだった。


「これかな」

「そんなでかいやつじゃなくていいだろ」

「ううん、一気にガツンといきたいんだよ」

「ま、宮内が買いたいなら止めねえよ。先に出てるからな」

「うん、会計済ましてくる」


 6月ではあるがまだ雨は降っていない。とはいえ、空模様は微妙なことこのうえないので早く帰った方がいいだろう。


「待った?」

「いや。ほら貸せよ」

「え、そういうアピールいらないんだけど」

「違うよ、早く帰りたいんだ」

「ん、それなら」


 弟に調べてもらった結果、こいつは下心を持って近づかれるのが嫌らしい。だがな宮内、誰もがお前に興味を抱くと思うなよ。


「はい、俺こっちだから」

「ありがと、それじゃあね」


 でもそれならなんで俺なんかを誘ったんだ? 向こうは俺を試しているということなのか?


「兄ちゃん」

「お、かけるか。今日は彼女いいのか?」


 いつも一緒にいるので珍しい形になる。


「うん、予定があるんだって。最近付き合いが悪いんだよね」

「あっ、察し……」

「違うって! 多分、きっと、そう……」


 しかし話したことすらないので支えることもできない。俺にできるのは相談を持ちかけられたら非モテなりに乗ってやって少しでも力になろうとすることだけだ。幸い兄弟仲がいいのは救いである。


「大丈夫だろ、翔なら違う女が見つかるさ」


 宮内みたいな生き方もいいだろう。色々なタイプの女と関わってみて気に入る女を探すのも良し。


「嫌だよ。僕はあの子が好きなんだから」

「そうかい」


 それなら疑わずに仲良くするしかない。翔は一途なところがあるので大丈夫だと思いたい。いまの彼女だって小学生の頃からずっと好きだった子だって言ってたしな。


「そういえばあの子だよね、調べろって言ってた子」

「おう。よく分からないけど誘われてな」

「おぉ、ちょっと好印象?」

「いや、ただ使われただけだろ。それよか帰ろうぜ」

「うん、帰ろー」


 ま、あのまま関わりを続けて友達になってくれれば母の質問回避に使えるかもしれない。相手が俺を使おうとするなら俺も利用させてもらうから覚悟していろよ宮内。 

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