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第7話

 少年は、壁で遮られていることを気にも留めずに全速力で向かってくる。そのスピードは速く、既に窓にはその足のみしか映り込んでいなかった。

 

 二人が覗いていた小窓の嵌った壁に大きな切れ目が一瞬で入った。切れ目はほとんど同時に何本も刻まれて壁を切り取る。くり抜かれた内の一部が外に飛び出た。

 現れた少年の右手には、皇と同じ日本刀を持っていた。唯一の違いはその皇の血に染まっていることだ。


「ここで足止めされてもう一人も来るとまずいわ!! あの子だけおびき出せるかやってみましょう!」

目の前を走るクレアが突然進路を変え、階段を降りて来た校舎の中へと再び戻る。灯も慌てて向きを変えて跡を追う。少年の速度が二人を上回っているのは明確であり、この間にも着々と距離を縮めていた。

 

 灯とクレア、その少し後ろを少年が走る。保健室に校長室、事務室などと書かれた板と部屋を次々と駆け抜けていく。小学生時代の思い出に浸っている暇はない。離れていることを祈りつつ、背後に迫る少年との距離を後ろを振り向いて何度も確認しながら全速力で走る。背後で靴の跳ねる音が増していくに連れて灯の中の恐怖と闘争心は成長する。

 少年の身体能力は、この学校内において強化された二人を凌駕していた。灯自身も身体能力が強化されているのは走っていて実感できる。身体は羽が付いて支えているかのように軽く、走り続けても息切れひとつない。

 それにも関わらず、一回りも二回りも小さいはずの少年は凄まじい回転数で足を回しありえない程飛躍をすることで、とうとう灯の身体を捉える距離まで縮まった。

 灯は覚悟を決めると顔だけでなく全身を少年に向け、短剣を持って待ち受ける。少年は速度を一切落とすことなく日本刀で斬りつけてきた。

 短剣の刃で受ける。

 しかし、速度がのっているだけでなく、二回りは小さい少年の力は灯よりもずっと強かった。刃同士が交わったのは一瞬の出来事で、耐えきれずに大きく弾き飛ばされてしまう。

 廊下の壁に勢いよく激突する。

 痛みは感じない。それなのに口からは血が出てきていた。クレアがすぐさま駆け寄る。

「大丈夫⁉」

灯のもとに来て一瞬心配するが、直ぐに少年にハンドガンを向けて弾を数発放って牽制する。

 一瞬も無駄には出来ない。幸い軽症ですんだ灯は短い隙を利用して立ち上がる。

 連射されたいくつかの銃弾は、当たらずに身体の横を通り抜けるはずだったものまで含めて全てが少年によって斬り落とされた。全弾斬り落として満足そうな笑みを見せると、再びこちらに向かって走ってくる。

 二人も再び走り出そうとした。しかし、既に距離は詰められていて短剣で攻撃をしのぎながら下がっていかざるを得ない。少年の剣劇は更に鋭さを増し、刃が何度も身体をかすめる。この距離では背中を見せて逃げたら縦に一振り入れられるのは間違いない。

 一旦クレアも逃げることを止め、背後から援護射撃をする。少年は銃弾の処理にも手を回さざるを得なくなり、僅かに隙が生まれた。

 それでも少年の気迫だけは止まらない。高い身体能力に加えて、その目から発する異常な輝きが二人に恐怖を植え付ける。


「絶対にやっつけるぞ‼︎」

 激しい剣の打ち合いの最中、少年は初めて口を開いた。灯は攻撃を受け流すのに精一杯で、口を開く余裕などない。

「私たちは敵意はないわ!!」

後ろからクレアが叫ぶと同時に、引き金を引く。

「テキイ……? なんだそれは⁉」

頭は子供のままなのだろうか、意味が伝わらずに頭を捻る。クレアは少年にも分りやすい言葉を選んで言い直した。

「私たちはあなたと戦う気はないわ! どうして攻撃するの⁉」

少年は納得してぽんと手を叩く。灯は剣を忙しなく振るいながら、自分を間に挟んでの二人のやりとりに舌打ちする。既にこの死が隣り合う状況になれてしまっているのか、短剣を持つ手は緊張せずに滑らかに言うことを聞いてくれる。

「そんなの決まっているだろう。アキを守るためだ!!」

「アキ? それは誰のことなの⁉」

クレアが拍子抜けしたような力ない声を出すが、少年には届かない。

「お前らには関係ない! 早くやられろ!!」

声を荒げると同時に剣を振るう速度が更に速まった。いよいよ灯はついていけなくなり、相手の勢いにされるがままに後ろに下がる。既に廊下の端まで渡りきり、外の駐車場に出始めた。すぐ目の前には広々としたグラウンドが広がっているのに、遠く感じる。全力で戦いながら手早くクレアに尋ねた。

「このガキ透視が無くても勝てないぞ! 本当にグラウンドに行くのか⁉」

 戦力は一向に上がらないものの、頭は冷静になる。皇と戦った時と同じ感覚に陥っていた。無意識のうちに頭は働く。

 クレアに質問すると同時に、自分なりにも頭の中で策を練る。この身体能力の高さは、皇すらも凌駕している。戦力は二対一でようやく対等になる。しかし、少年が透視を使い始めたら再び下になる。


「クレアの能力は使えないのか⁉」

「私のは戦闘では役に立たないわ、ちょっと待って!」

クレアも同様にハンドガンを向けて牽制しながらずっと考えていた。

 少年は俊敏さを活かしてクレアにもたまに斬りかかることで二人を同時に相手をしている。

 黙り込んでいたクレアが難しい顔をこちらに向けた。

「一か八か、グラウンドで戦いましょう。上手くいくかは分からないけれど、考えがあるわ」

「分かった、行こう!!」

少年と相対するのに限界が来ていた灯は即答する。

 しかし、目の前のグラウンドへ行こうとするが少年は既に行く手に立ち塞がる。駐車場ですでに数分が経過し、もう一人の男がやってくるのも時間の問題だ。


「ん? そういえばもう一人の男はどうした。仲間の割には助けに来ないな」

思ったことがそのまま口に出た。いくら何でも助けにくる気配すら感じないのはおかしい。すると、少年が手を止め、つまらなそうに口笛を吹く。

「知らないよ。お前らを倒したら次はあいつだ!!」

体育館での出来事を見る限り協力しているように見えたが、一時的なものだったのだろうか。

 いずれにせよ、少年のいじけた隙をクレアは見逃さなかった。

 躊躇など微塵もなく一瞬にして放たれた弾は一直線に少年の額へ迫る。少年は咄嗟に剣の柄で防ぐが、その代わりに剣は弾かれた。

剣が遠くに飛んでいくのを確認する間もなく、灯とクレアは少年の横を走り抜けた。

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