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第2話

 男はゆっくりと目を覚ました。意識がはっきりせず、ぼやけた視界が自然とはっきりしていくのを受け入れていくしかなかった。

 最初に現れたのは天井だ。縦に細長い電灯が二本組みになっていくつも並んで部屋を照らし、間に時折正方形の大きなエアコンが埋まっている。そのエアコンから出ているのだろうか、微かに吹く冷たい風を感じた。

「目が覚めたようね」

 声をかけられて初めて、天井よりも近くにあった少女の顔を見た。少女の膝に仰向けに寝ていることに気づいた男は起き上がろうとするが、身体は思うように動かずぼーっと顔を眺める。

 金髪の短い髪に透き通った青色の大きな目をしている。高校生くらいだろうか、白を基調とした制服が良く似合う。額に置かれた左手は男の熱を発する身体には少し冷たくて心地よく、「もう一生このままでいいや」という誘惑に駆られた。

 男がこんなくだらないことを考えている間にも、少女は辺りを注意深く観察していた。つられて横目に部屋の中を見る。近くには机と椅子が並び遠くには本の入った大きな棚がいくつも並んでいる。引き戸も二つついていて、その奥は廊下になっていた。

 しかし、室内の異変に再び視線を戻す。棚の一群は倒れて本は散らばり、中には真っ二つに切られているものもある。こちらから遠い方の引き戸は開いていて、赤い雫が道しるべのように廊下へとつながっていた。

「ここは学校の図書館?」

唯一確信したことがついて口に出た。少女と目が合う。少女は顔をじっと覗き込む。急に顔が近づいて緊張したのか、手汗は止まらず心臓の鼓動は早まる。

「あなた、まさか記憶が無いとか?」

少女は信じられないものを見る目で尋ねた。呆気に取られて黙るが確かに覚えていないのはおかしい。フワフワとして働かない頭をなんとか回転させる。

「言われてみれば、ここに来たのを覚えている。なにしに来たんだっけ……」

天井と少女を交互に見ながら考える。しかし、思考は遮られた。

「もう時間が無いわ、先ずは起きて。私はクレアよ」

左手を額から離し、起きるように促してきた。もっと膝の上で寝ていたかった気持ちを抑え、上半身から起き上がろうとする。

「俺はあかり。急いでるみたいだけど、今から何かあるの?」

青く澄んだ目はさっきよりも大きく見開かれた。灯もそれに驚いて上半身だけ起こしたまま動きを止める。クレアは暫く口を開けてあっけに取られていたが、切り替えるように口を閉じて目つきを鋭くすると、周囲を警戒しながら説明し始めた。

「やっぱり記憶が無いのかもね。簡単に言うと、今からこの学校にいる人の中で一番を決めるのよ」

 話を聞いて半分は頷きながら上半身を起こす。何の一番を決めるかは聞いていないにも関わらず、灯は真っ二つの棚を思い出して自然と納得していた。

 そして右ひざを曲げたが、そこで初めて自分が来ている作業着が目に入った。ズボンをじっと見ながら立ち上がる。片足ずつ挙げてみるが、少し丈が全体的に長くて動きづらい。

 灯が自身の衣服に苦心している間にクレアは近くに置いてあるものを手に取る。それは、誰が見ても子供のおもちゃと言うだろうプラスチックの質感が強いハンドガンだった。

「多分あなたのはそれよ、持っておきなさい」

指差す先を見ると、これまた蛍光色にピカピカと光る短剣が足元に置かれていた。灯はバカにしているのかと口を開きながらクレアを睨んだ。しかし、彼女のハンドガンを持つ真剣な表情と緊張感を感じ取り、黙って短剣を握るために腰を下ろした。

 柄を握る直前だった。何かの気配を突然感じて二人は廊下を見た。

 そこには、いつの間にか一人の男が立っていた。

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