ドォルト編1
「よし!では出発と行こうか!」
「オイ待てクソ熊ァ。これから行く場所の説明とかは無いわけ?」
「えっと、説明した方が良いかい?」
「当たり前じゃん?」
そう言ってレンはテディベアの顔を鷲掴む。
「ですよね!えっとですね、これから行く世界はドォルトと言う世界で、私が4番目に創った世界です」
ドォルトは科学と魔法が発達した世界で、このテディベアが創った世界の中でも一番発展した世界だということ。そして勇者召喚を行うドォルトユミト教という宗教があり、そこではテディベアが創り出した管理者のドォルトが奉られていること。そこで旅の補助をしてもらおうということだった。
「ふーん、つまりそこの神官なりを下僕にするってことね。良いじゃん。俺も面倒な事はしたく無いからね」
「名案だろう?私も旅の間君の手を煩わせるのは本意では無いからねぇ。管理者達には私が世界を観光するのは伝えているから問題も無いと思うよぉ」
「出発する前に準備する事とか無いの?」
「うん、特に無いかなぁ。君には限界まで私の力を与えているから余程の事が無い限り害されることも無いから安心して観光に専念できるだろうしねぇ」
―――結構行き当たりばったりなんだな。
「ところでレン君、その、クソ熊ってのどうにかならないかなぁ?」
「けどアンタ名前無いんでしょ」
「レン君が付けてくれるってのは」
「は?」
「無いよね!うーんと、へーネスとかはどうだろう!僕ほら、創造神みたいなものだから地球の言葉から拝借してみたんだけど」
「何でもいい」
へーネスの偉大さはレンの前では塵芥同然であったが、へーネスは少しも気にした様子が無い。惚れたものが負け、なのだろう。
「よし!じゃあそろそろ出発しようか」
「どうせなら盛大な登場をブチかましてみたい」
「いいね!じゃあ大聖堂の礼拝堂への登場にしてみようかなぁ。ちょっと調整して……」
そう言うと壁にふすまが現れた。
「どこ○もドアみたい。てかこれがあるのに下僕が必要なの?」
「えへへ、すごいでしょ?ええっとねぇ、ここにはドォルトを観光し終わるまでは戻らないんだよねぇ。ここに戻るにはこの身体では力が足りなくてねぇ、世界にいくつかあるポイントからじゃないと駄目なんだぁ。流石の君もこれは扱えないからねぇ」
「ふーん、そういうもんか」
「よし!調整終わり!では、出発といこう!」
そしてレンがふすまに手を掛け引くと、ふすまの向こうは真っ白に輝いていた。レンはそれに怯むことなく足を踏み入れるのであった。
ドォルトユミト教総本山、シエロ大聖堂はその日も何事もなく一日が過ぎるはずであった。その時までは。
「これは……!?」
突如礼拝堂のドォルト神像が輝きだしたのである。そのあまりの神々しさに、礼拝に訪れた参拝者達は膝をつき祈りを捧げ始める。それは教会の関係者達も例外ではなく、その場に居合わせた大司教は慌てて教皇の執務室へと急ぐ。
「何事ですか!?」
「エドアルド大司教だ。猊下に至急お伝えせねばならん事がある!!」
慌てたエドアルドは護衛に捲し立て、その剣幕に驚きながらも護衛は教皇へと確認する。ややあって扉が開いた。
「エドアルドか。何事だ。」
「はっ。礼拝堂のドォルト神像が急に輝き始めました。もしかすると……」
「ふむ、あの神託の時が来たということか……余も向かおう」
「げ、猊下!!」
「神託の通りであれば失礼があっては問題だ」
「……かしこまりました。であれば、私もお供をさせてください」
「よかろう」
そうして二人は急ぎ礼拝堂へと向かう。
「しかしなんとも間が悪いですね……」
「こちらの事情を汲めと言うのは無理な話だ」
「であれば、お力をお借りするというのは……」
「ならん。その昔、ドォルト様がお力を揮われた際もその余波は甚大であったとされておる。そのドォルト様を生み出された存在となると……」
「仰る通りですね……」
何やら事情があるようだが果たして二人がそこで見たのは、肩にテディベアを乗せた筆舌に尽くし難い美を持つ青年が神像前より降り立つ光景であった。
「おお〜〜〜イメージ通りじゃん。アンタ結構やるね」
「みんな君の美しさにびっくりしてるねぇ」
「それはいつも通りだ。気にするな」
軽口を言い合う二人に周りはざわつき始め、次第に恍惚とした表情で涙を流す人達が出始める。そんな中、教皇と大司教は呆然と立ち尽くしていた。
「ねえ、なんか偉そうな人いるけど」
「ドォルトから話を聞いてるかもしれないねぇ。行ってみようか」
二人は教皇の元へと歩き出す。と、教皇達が慌ててこちらへと向かってきた。
「ドォルトユミト教の教皇を仰せつかっております、ロヴェーナ=アナ=シエロと申します。お話は伺っております、ドォルト様を生み出された御方であると……」
教皇は跪きレンに向かって話しかける。話の内容までは届いていないのだろうが、教皇が跪くその様子に参拝者達は更に騒然とする。
「あー、それはこっちの熊」
「へーネスという。故あってこの姿だがドォルトやこの世界を創ったのは私で間違いない」
その答えに教皇は驚くがなんとか自制し、大聖堂奥から繋がる宮殿内の執務室へと案内した。
「改めまして、教皇のロヴェーナです。へーネス様、と、そちらの御方は……」
「霞レン。この熊の同行者。異世界から拉致られた」
執務室には二人と教皇のみが入室した。華やかさは無いが品のある調度品で整えられた執務室は、ドォルトユミト教の誠実さを表すようである。それを体現したような教皇は、凛とした印象の妙齢の女性であった。その事にレンは少し驚いていた。
「教皇って女性だったんだ。俺の世界じゃ教皇って爺さんしかいなかったからちょっとびっくり」
「勇者様方も偶にそうおっしゃいますね」
「あ、そういや勇者召喚あるんだっけ、って今はそれは良いか」
「旅の間の補佐の件でございますね」
レンは変わらずふてぶてしい態度であったが、教皇は微笑みを湛え微塵も気にした様子はない。しかし、両手を握りしめ何かを自制している様子は伺える。
(創造主様の同行者なだけあってなんというお美しさ……ニヤけないように自我を保つのが精一杯だ……)
レンの美に当てられていた。流石の教皇といえどレンの美は猛毒のようである。
「それについてはなんら問題は御座いません。雑務に優れた者と、護衛役に秀でた人材を既に確保しております。ですが、一つ問題があり、少々お時間を頂けませんでしょうか」
「問題って?」
「実は、大災害の予兆が現れており、その発生が2ヶ月後に迫っているのです」