ドォルト編9
「大きいねぇ」
二人は歴史を感じさせる店構えの大きな洋菓子店にやってきた。パッと見小さな貴族のお屋敷のような建築なのに、正面のガラス張りのショーケースとマッチしている。
検索したところ「シエルに来たら絶対に行くべき!行かない奴はありえん馬鹿!」と色々なサイトで謳われていたのがここ、「ラ・スプランドゥール」だ。歴史あるショコラ専門店であり、それでいて新作の研究に余念が無いとのこと。二人の期待も高まる。
「早速入ろうぜ」
中に入ると老若男女で賑わい、それに負けない程の山とある商品が美しくディスプレイされている。店名の通り、店内の輝きもひとしおだ。
「いやぁ〜こんなにあると迷っちゃうねぇ〜」
「だなあ……」
圧巻の光景に舌を巻くレン。沢山の商品に目移りしているへーネス。一先ず店内を一周することに。
「そういえばへーネスは甘い方が好み?」
「う〜ん、どうなんだろうねぇ。なにせ食べ物を食べたのがさっきが初めてだからねぇ」
「あ、そういえばそうか」
「あまーいのもビターなのもフルーツ系ショコラもぜーんぶ気になっちゃうよねぇ」
「あそこに詳しそうな店員いるから聞こうよ」
「気付いてくれるかなぁ」
「さっきみたいに大声出せば大丈夫だろ、すいませーん!!」
二人の近くに胸元にバッヂを付けたいかにもショコラソムリエ然とした紳士が立っていたので二人は声を掛ける。
「?今なにか……?」
だが店内がごった返しているのと、レン達の気配が極限まで希薄になっているので声を掛けられたのに気付かなかった。いや、声を掛けられたような気がしたが、辺りを見回してもそれらしい人物が見当たらなかったのだ。
「人が多いからすぐ近くまで行かないといけないか。っと、すいません!!」
今度は肩を叩いて大声で呼びかける。
「あっ、はい。何でございましょう」
「初めて来たんだけど、オススメ全部買いたいんだ。色々見繕ってくれる?」
「かしこまりました」
「ねえねえもう気配消すのやめたらぁ?モーセみたいに人がよけてくれるんじゃない?」
「馬鹿か店に迷惑かかるだろ」
「えっ!?君にそんな配慮があったなんてぇ……」
「俺をなんだと……。それに地球じゃそれが当たり前だったから気付かれにくい今が新鮮で楽しい」
「あぁ〜納得ぅ」
コソコソ話しつつ店員に付いていく二人。
目当てのコーナーで説明を始める店員。
「こちら甘さとカカオの濃厚さのどちらも楽しめる一品となっており一番人気です。甘さがくどくならないよう、当店で特許を取得した精製法で精製した砂糖を用いており、当店でしか味わえないショコラとなっております。こちらは、甘さを控えめにさっぱりとした後味に仕上げ〜〜〜こちらの新作は〜〜〜」
スラスラと説明されるショコラを尻目に、オススメは全部買うと決めていたレンの判断は早い。
「なるほど、全部50個ずつください。包まなくていいです」
「えっそんなにぃ!?」
「ありがとうございます。お会計はこちらでお願いします」
シエルでは店員がそれぞれ決済用端末を持ってその場で会計ができるので、レジに並ばなくて良いのがほとんどだ。
「袋にお入れするまで少々お待ちください」
「あ、個数だけ数えて積んどいてください」
「?か、かしこまりました」
レンの言葉通り300個のチョコレートがその場に積まれていく。積み終わったところでレンは空間魔法でその全てを収納した。
「えっ!?」
「じゃ、ありがとうねー」
「あっ、は、はい!ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」
困惑する店員をそのままに店を後にする二人。
「私は夢でも見たのでしょうか……?」