変わらない日々
目覚まし時計の音で、目を覚ます。微睡みながら時計に手を伸ばし、けたたましく朝を告げるそれを叩く。目を開ければいつもの無機質な天井。ヤニで黄ばんだ壁。所々破れ穴が空いている襖。重い体を起こし、洗面所へ向かう。鏡を見ると、無気力な酷い顔とボサボサの髪の毛が写った。顔を洗おうと洗顔料に手を伸ばすと、イラついた顔で妹の蘭が洗顔料を奪い取る。
「急いでるから、どいて。」
無愛想な奴だ。蘭は私と同じ高校の1年生で、水泳部に所属している。生後10ヶ月から水泳を始め、コツコツ練習に明け暮れていた。勉強はできるとは言えない程度な分、高校はスポーツ推薦で受かった。今日も朝練があるのだろう。そう思い何を言うまでもなくそこをどく。忙しなく支度をする様子を見ると昨日のうちに準備をしていなかったと分かる。また親がどなっている。私はこの声が嫌いだ。蘭は親に口答えしながら支度を済ませ、足早に家を出た。残された私はダラダラと身支度を進めた。
「薬飲んで。」
親に促され薬を受け取る。錠剤を飲み込んでから、オブラートに包まれた漢方薬はティッシュに包んで捨てた。私は漢方薬が苦手なのだ。鼻に残り続ける独特の苦い匂いが。オブラートに包んでも飲むのが下手でその苦味を味わうことになるので、いつも親にバレないように捨てていた。
午前7時、家を出る。毎日変わらない行程を辿る。まるでロボットだ。そう思いながら嫌という程青く広がる秋の空を眺め、学校へ向かう。
私の言う、「親」は実際には祖母である。私が5歳のとき、両親は家を出ていった。祖母は両親と一緒に住んでいた(というより、両親が居候してた)ので祖母が私と蘭を育てることとなった。両親は離婚し、別々の人生を歩んでいる。父親は最近彼女が出来たらしい。母親は新しい家庭を持ち、私が小学生の頃父親違いの弟が2人できた。この頃からだった。私の心には何かが欠け始めていた。
1限の化学が終わる。今やってる分野はなんだか退屈で苦手だ。そしていつもの胃の不快感がやってくる。薬の副作用だろう。30分くらいすればすっと治るのだが、なかなか厄介だ。気持ち悪さと抗い、机に突っ伏していると聞き慣れた声がかかる。
「江藤―。化学めっちゃ眠たんだが。」
この居眠り少女は、去年からクラスは一緒なのだが、高校3年になってから急激に仲良くなった島崎由美だ。由美といると悩んでることも吹き飛ぶような、そんな元気を貰える気がする。
「寝るな寝るな。昨日何時に寝たの?」
「それがさー。拓海と電話してたら2時になってて。」
拓海。高杉拓海。由美の彼氏だ。もうすぐ2ヶ月になるらしい。
「それで嬉しくて寝れなかった訳だ。」
「ご名答―。てことであとでノート見せてね。」
「はいはい。」
由美は居眠りの常連なのでいつもノートを見せていた。私はそんな気軽な「友達」という関係が心地よかった。チャイムが2限の始まりを告げる。次も化学だ。いつの間にか胃の不快感は消え去っていた。しかし、胸には僅かな喪失感が漂っているのだった。
こんにちは。初投稿、沢蟹エトです。
多くの心理的負担を負った高校生が苦悩して成長していく物語です。気持ちの描写が難しくて、語彙力がまだまだだなと感じます。この作品で成長できたら嬉しいです。応援よろしくお願いします。