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転生少女は召喚士になる  作者: 久浪
三章『何者』
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3 メリアーズ家


ヴィンセント視点。









 天使復活説、とは。


「二千年前、白魔に殺された天使の魂が巡り、再び天界に戻り、世界も二千年前以前の形に戻るというあれか」


 天使が再び戻ってくるという言い伝えがある。

 二千年前白魔によって失われた天使が、魂が巡り、戻ってくる。天界の楽園が甦り、地上では精霊が以前のように満ち、人間世界が豊かに満ちる。

 伝説のような言い伝えであり、信じられる話でもあった。

 ただしすでに二千年の時が経ち、果たしていつそのときが来るかは定かではなく、今を生きる人間には現実味が感じられない話でもある。


「……まさか」


 話が早くも紐付きそうになった。

 天使復活説が話に出され、天使の剣を扱った二人がいる。


「まさかって思うのは分かるが、残念ながら自然に復活した天使じゃない。あまりにも復活しねえから、天使が復活する時を待つのを止めたんだよ、メリアーズ家(うち)は」


 待つのを止めた?


「メリアーズ家を一括りにして全員とされるのも嫌なもんだがな、身内が、それもメリアーズ家の顔がしてることに変わりはねぇ」


 ぼやきながらも、ライナスは従者にペンと紙を要求する。

 従者からペンと、持ち運び出来る小さな紙を受け取り、ライナスは何かを書き始めた。

 何かが書き終わり、机に置かれた紙を見ると、複雑な模様が描かれている。

 ヴィンセントは、召喚士になれない性質を持つため召喚を行ったことはないが、聖獣を召喚するための召喚陣は知っている。

 一見すると召喚陣のように見えたが、違う。そして、天使の剣を扱う際に、少女が上に立った模様とも異なる。


「これは言えば、天使召喚陣だ」

『天使召喚陣?』


 いち早く反応したのは、聖獣だ。

 模様を見ようとしていなかった聖獣が言葉に、訝しげな表情をする。


聖獣(俺達)を召喚するように、天使を召喚するって言うのか?』


 気に入らないことを口にする声色だ。


「聖獣を召喚するのとは違う。そもそも、聖獣と違って天使は今いないんだからな」

『そうだな。いないものをどう喚ぶって言うんだ』

「これの用途は、魂を喚ぶことだ」

『魂……?』

「そうだ。天使はまだ復活していない。つまり『生身』がない。だが魂はまた巡ってくるはずで、どこかに存在しているはずだ。それなら、魂を呼び寄せ、こちらで用意した入れ物に入れればいい。思考回路としてはそんなものだったんだろう」


 自らの推測的な言い方に対して、ライナスは「何しろ俺が考えたんじゃない。何代か前のメリアーズ家の当主が考えたらしい」と言った。

 しかしそんな部分は些細なことだ。

 問題は内容だ。

 聞いた内容を頭の中で砕き、意味を理解しようと努めたヴィンセントは、先程とほとんど同様の「まさか」を得た。


「その『入れ物』と言うのは」

「人間だ」


 予想をした上で問うたにも関わらず、内容上、ヴィンセントは衝撃を受けることになった。


「この召喚陣で、人の身に天使の魂を入れる」


 親父から聞いた、と、ライナスは小さな紙を指で叩き、決定的な言葉を口にする。


「メリアーズ家は、天使の復活を試みている」


 まだ戻ってこない天使を、人間の手で復活させようとしている。


『──冗談だろ』


 聖獣は、冗談として処理したい言だと言った。


「残念だが本気だ。で、今代奇跡的と言える成果が出た。『成功例』と呼ぶべき存在を見たはずだ」


 全員の頭に、人間が使えない天使の剣を使った存在が過っただろう。

 成功例と言われて、自然と思い出す。

 無言にならざるを得なかった中、ガル・エベアータがおもむろに『天使召喚陣』の書かれた紙を手に取った。


「聖獣の召喚陣は聖獣のいる天界に繋ぐ効果を持ちますから、応用すれば可能になるとは思えそうですが……だからと言って天使の魂を人間に降ろそうと考えるとは……」


 紙が再び机の上に戻され、ガル・エベアータの目が、ライナスに戻る。


「エドが連れてきた少女が、天使の剣を扱う際に立っていた模様は何の意味を持つのですか。これとはまた別のものでしたが」

「あれは俺も知りませんでしたが、聖獣の反応の限りでは、タイミング的にあれで天使の面が出て来ているんじゃないかと思います」

「ああ、ベアドも言っていましたね。天使の剣を使ったときは分からず、砦に戻ってきていたときには人間だと」

『そうだったな』

「外は完全に人間、中身は人間の魂と天使の魂の両方が収まっていると考えるべきでしょうか。天使の面を抑制する術をあれが担っているとすると……」


 ガル・エベアータは緩く首を横に振り、呟きを切った。


「どうあれ、人間が作り出した、器が人間の存在ならば、それは所謂本物の天使とは別物ではないのですか」

「そうですね、そう考えることが出来ると俺も思います。だが、天使の剣を使えた時点で、親父にとってはいいんですよ。天使の復活に成功したと十分に言える」


 確かに、成功と見なせるだろう。

 人間には触れられもしない天使の剣を使ったことは、どこまでも大きな意味を持つ。

 使えたからには天使だと、精霊がそのような考え方を示したのだ。


「同様に天使の剣を使えたセナは、過去にメリアーズ家の元におり、天使の魂を入れる『儀式』をされたと考えるのが自然ということですね」

「そうです」


 天使の剣を使える彼女たちは──セナは、メリアーズ家で、天使の魂を人の身である自らに入れられる儀式をされた。

 ヴィンセントは、目を厳しく細めた。


 セナは、自分に混乱していた。

 その混乱は、儀式の記憶はあるがその意味を知らなかったがゆえか、そもそも儀式の記憶自体がなかったのか。

 メリアーズ家にいたとして、どんな経緯で自由になったかは分からないが……。

 儀式? 

 その言葉に違和感を持つ。

 聖獣の召喚は儀式と言う。今回も天使の魂を召喚すると言う。

 しかし、召喚するだけでなく、召喚したものを人の身に入れることが果たして儀式と言うのか。もっと相応しい言い方があるのではないか。例えば、


「……成功例という言い方があるなら失敗例もあるだろう」

「そうだ。天使の魂を召喚する召喚陣自体がいつ成功したかは知らねえが、召喚出来たとして、本来人間に収まるべきじゃない性質を持つ魂が人間にすんなり馴染むとは考えられねえだろ。だから『失敗例』が出た」

「それならその儀式は、人体実験と言えるのではないか」


 聖獣と同じように召喚自体は儀式だとしても、人間の身に降ろすなど──ライナスの言い方では数年やそこら続けられてきたものではなく、長年に渡り、人間に対して失敗を繰り返してきたのなら。

 ならば、それは実験と言うのではないか。


「言えるどころか、完全にそうだ。数字は所謂管理番号みたいだからな」


 管理番号。

 人体実験と言える儀式、失敗例がどのようなものかは分からない、だが最早人間の扱いではないだろう!

 ヴィンセントの手が、ライナスに伸びた。


「なぜ君は、家がしていることを許している……?」


 ライナスは、今回、エド・メリアーズが少女と天使の剣を伴ってきたときに知ったのではないという確信があった。

 あのとき、「あの少女が天使の剣を使えると信じているか?」という問いに、ライナスは「さあな」と答えをはぐらかした。

 知っていたはずだ。

 ライナス・メリアーズはそのようなことを許容する人間なのか。


「許してるわけねえだろ……!」


 ヴィンセントが疑問を呈したように、ライナスは間髪入れずそう返した。


「全部無駄にしてやったつもりだった」


 ヴィンセントの手を引き剥がし、押し殺した声で、ライナスは叫ぶように言う。


「妹が消えて、親父がしてることを知ったときに全部」


 妹?


「そういえば」


 引き剥がされた手をどうすることもせず、ヴィンセントは呟いた。

 あることを、唐突に思い出したからだ。いや、唐突ではなかったかもしれない。

 メリアーズ家にいた可能性のあるセナ、そして今のライナスの言葉が単純に結び付き、思い出されたことだった。


「『妹に似ている』」


 ヴィンセントが思い出したまま出した言葉に、ライナスの手が、ぴくりと動いた。








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