1 どこ
明るい、と認識したのはいつだったか。明るい……明るい……と思うことしばらく。
明るいことに、危機感が生じた。
──寝坊!!
セナは飛び起きた。
飛び起きたということは寝ていたのだ。寝ている自覚はなかったが、寝ていたという事実が分かって焦りも生まれた。
こんなに明るい時間に起きるのはおかしい。まずい、寝坊なんて初めてだ。
ベッドから滑り降りながら、着替え着替えと、ささやかなクローゼットを目指す──。
「……あれ?」
クローゼットはなかった。
手が空を切り、異変に気がついた。
「……………………え?」
ここ、どこだ。
知らない部屋だった。
クローゼットを目指した目が何もない壁を映したまま、思考が止まった。
目当てのクローゼットがないだけで、部屋が同じなら……北の砦の部屋なら、動揺はなかった。
しかしながら、目だけを動かして見た部屋は全てに見覚えがなかった。
無意識に恐る恐る、後ろの方を見てみたベッドも。
「え?」
ともう一度言って、目だけではなく顔を動かせた。
壁、窓、部屋の広さ。
部屋の全体を確認できた。
結果、ここしばらく過ごしてきた北の砦の部屋でなければ、少しだけ利用した本部の宿舎でも、もちろんエベアータ家の部屋でもない。
簡素な部屋だ。北の砦の部屋よりさらに、必要最低限という感じがする。
「いや、でも……砦から移動してないから砦のはず……」
寝坊かもしれないことへの焦りとは全く別の感覚の焦りが湧いてくるのをどうにか抑え、セナはドアに向かった。
とりあえず出る。部屋を出れば、砦に違いない。なぜかは分からないが、きっと砦の別の部屋にいるだけだ。
だが、抑えなければならないくらいの焦りが生まれそうな時点でおかしかったのだ。本能が抱いた予感があったということなのだから。
「……」
開けようとしたドアは開かなかった。
何度もガチャガチャするが、開かない。
開かないドアに行き当たり、どっ、と冷や汗が出てきた。
同時に焦りも溢れ出てきてしまった。
「……落ち着け、落ち着け、落ち着け」
見覚えのない部屋と、開かないドア。窓も開くような作りになっていない。
まるで、閉じ込められているような状態だ。
何のために。誰が。
──昨日。
いや、昨日かどうかも定かではないが、たった今目覚める前の記憶を思い出したような気がした。
頭が微かに痛むような感覚を覚えながらも、昨日と思わしき記憶を手繰り寄せていく。
ベアドと話をしたはずだ。
話をして、眠れずにいたところでノックされた。
部屋に訪ねてくる人など、ベアドくらいしか思い付かないまま、ドアを開いた。砦の中で、警戒などする必要はないから何の疑いもなく開いた。
当然、誰かがいた。
ノックした人物がいたはずだ。
けれど誰だかは分からない。記憶がない。誰だと認識する前に記憶が途切れて、落ちるような感覚を味わったような気もする。
記憶がない。そして、今だ。
今見覚えのない部屋にいる以前の最新の記憶は確かにそれだけで、あまり役に立つ情報は得られなかった。
見覚えのない部屋。自分で移動した記憶がないからには、誰がなぜセナを移動させてきたのか。おまけにドアには鍵がかかり、窓も開かない。
閉じ込められている。
最近、混乱していたのは情報が少ないにも関わらず濃すぎたことが一因だ。
しかし今、情報は一切ないに等しかった。混乱する以前の問題で、見知らぬ部屋を視線で一周し終えたセナは呆然とした。
「……………………え……?」
真っ白な思考と、無意識からの焦りと、理解不能からきた改めての一音だった。
頭が追い付かない出来事を起こすのを、そろそろ止めてもらいたい。