28 考える
ベアドの話を聞いて、どれくらい黙っていたか分からない。
決して長い話ではなかった。しかし濃い話だった。
『寝たか?』
「……寝てない」
目がばっちり開いている。
疑うのならばと、手探りでベアドを探しあて、もっふもっふとし始める。
「考えてる」
ずっと考えている。今も考えている。また考えることが増えた。
『驚いたろ』
「驚いた」
常識を信じていればいるほど、思いも寄らない話だった。
「……ねぇ、ベアド」
手でもふもふしていた獣に、半分意識が思考に持っていかれたまま話しかける。
「話してみるのは、どう思う?」
『あの白魔とか?』
「うん」
『うーん、セナが疑問に思ってることの一つのどうして召喚獣になってたかってのと、セナとあいつがどう関係あるのかっていうところの真実は実際に聞いてみるしかないと思うからなぁ』
だから、
『俺が立ち合ってやるから、話したいなら話せばいいと思うぞ』
と請け負ってくれた。優しい獣だ。
『よく寝ろよー』
ベアドは話を終え、姿を消した。
白くきらきらした光が宙に溶け、セナは蝋燭の火を消し、ベッドに横になった。
今日も眠れるはずがなくなった。
さっきの話を考える。
『その白魔』について考える。
カーテンを閉め忘れたため、しん、と静かな部屋を、月光がわずかに照らす。
セナは起き上がって、カーテンに手をかけた。
夜でよく見えない外には雪はもうない。暖かささえある。
雪に覆われたあの地の雪は溶けただろうか。
カーテンを閉めると、漠然と見えていた外の景色の輪郭もなくなった。
──自分は、あの白魔にとって何なのか
話をしなければならない。
これから、あの存在とどうあれるのか考えなければならない。
ギンジは──白魔だった召喚獣は今どこにいるのだろうか。しばらく離れておいて欲しいと言って、今、どこにいるのだろう。
会って、どう話そう。
ともあれ先に考えられることは、やはり白魔の方になりそうだ。
この砦から離れる前に、白魔の方を解決しなければならない。
エド・メリアーズに連れてこられた少女とも、話がしてみたい。なぜ彼女には同じような反応しなかったのか。自分との違いが何なのか知らなければ。
この砦を離れて、会えるかどうか分からないと思うから、やはりこちらも砦から離れる前に……。
コンコンと響いたノックの音が、部屋の静寂を破った。
寝起きの部屋を訪ねられたのは初めてで、とても驚いた。しかしながら、ノックは間違いなくこの部屋にされている。
こんな時間に誰だろうか。
……ベアドはノックをしない。
心当たりをさらってみた結果、この部屋を訪ねてくる存在はさっき去ったばかりのベアドくらいしか思い付かなかった。
けれどベアドはノックという行動はしないのだ。
別の心当たりを探してみがら、セナはドアの方に歩いて行った。