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転生少女は召喚士になる  作者: 久浪
二章『伝説の悪魔、天使の遺したもの』
62/116

24 齟齬





 砦へ知らせをやり、待っている間に生存者の応急処置をした。

 死者は出ていた。パラディンが一名、従者含め金階級から抜擢されてきた者たちからも複数名。

 そして、ヴィンセントとライナス以外のパラディンは、いつ命を落としてもおかしくない重体者ばかりだ。


『前に、砦の辺りに感じた強い悪魔の力は、あいつのものだったっていうわけだな』

「砦に来たばかりのときのことですか」

『感じた力に釣り合わない雑魚しかいなくて不思議だったんだ』


 砦から鳥と人が派遣されてきて、意識のない重体者から運ばれていく中、ガルとベアドが話している声が聞こえた。

 彼らは、雪の積もる大地を見ているようだった。

 セナも、少し離れたところで同じ方向を見た。

 この場に炎の代わりに満ちた力は、聖獣の清廉さではなく──炎火の白魔の力寄りの力だったのだ。


「ベアド、前に、セナが召喚の儀式に及ぶ頃に話したことを覚えていますか」

『ん? ああ、あれか。覚えてるぞ』

「今、考えてもらうことは出来ますか」

『いいぞ。──むしろ、望むところだ』


 セナは、行きとは異なり火の大地ではなく、雪の大地を後にした。


 砦に戻ると、怪我人の搬送以外は、少なくとも表面上落ち着いたものだった。

 白魔は討伐されたのだ。

 やるべきことは、怪我人の治療と本部への報告だ。白魔の脅威への緊張感は無くなっていた。


「……おや、エド」


 建物の中に入る位置に、エド・メリアーズが立っていた。


「ガル、ご苦労だったな。白魔は討伐できたようだな」

「ええ」


 そのとき、同じタイミングで戻ってきていたライナスが父親に目をくれることなく通りすぎた。しかし通りすぎてからエド・メリアーズを一瞬だけ見た目が、ひどく殺気に満ちていた。

 偶々見かけたセナが、びくりとするほどの目付きだった。


「天使の剣は役に立っただろう」

「ええ、大変助かりましたよ」


 一方、エド・メリアーズの相手をするガルは、さすがに戦闘の跡がありながらにこやかに答えている。

 端から聞いていて、セナのことも、白い白魔のことも言うつもりはないようだった。

 意識を取り戻していたかの少女は、少し先に戻っていたはずだ。エド・メリアーズの元に少女は帰された。


「セナ」


 離れて通りすぎようとしていたセナは、呼び止められた。

 振り向いたときには、ガルがいた。

 あの長い上衣を誰かからか受け取ったらしい。ガルが羽織った白い衣で一瞬向こうが見えなくなり、瞬いている隙に体を反転させられた。


「お父さん?」

「話があります。シャリオン、ヴィンセントに少しセナを借りるよう伝えて来て下さい」


 ガルの従者が一礼し、その場を離れる。

 セナは、ガルに誘導されるまま、執務室にやって来た。


「……お父さん、わたしが……その天使の剣を使ったことと、ギン──召喚獣になってた白魔のこと、どうするつもりなの?」


 これを、知っておかなければならないと思った。

 セナに椅子を示し、自らは執務机の向こうの椅子に座ってから、ガルは口を開いた。


「まず、セナが天使の剣を使ったことは黙り続けます。次に、召喚獣に化けていた白魔について。その白魔についても今しばらくは黙っています」


 簡潔に、答えが返された。


「今回出撃の原因の白魔との戦いを考えると、戦力が厳しいのが事実です。討伐するとしても今回のことを考えて戦力補充できてからになります。……セナは、あの白魔をどうしたいですか」

「……分からない。……ただ、守ってくれていたのは、本当だから」

「そうですね。ベアドが保証をしましたから、しばらくはそれでいいです。ただし、白魔であることを忘れてはいけません。いずれ結論を出さなければなりません。その結論をセナに委ねるつもりはありません、私が考えます。あの場で戦闘でない道を選んだのは私ですからね」


 気のせいか、いつもより早口に述べて、ガルは「本題に入りましょうか」と言った。

 ガルがセナをここに連れてきた理由だ。話があると言われた。


「セナ、ベアドと契約しなさい」


 セナの口から「え」と不意討ちされた声が出た。

 ベアドと契約?


「いきなり……いきなり何」

「今、セナは召喚獣がいない状態です」


 事実であったが、息が詰まりそうになった。


「召喚士である以上召喚獣は必要ですが、召喚に及んで白魔が出てきた以上、新たに召喚の儀式をするよりこちらの方が確実です。ベアドの実力的にも」

「待って。いや、その前に、お父さんと契約してるのに契約できるの?」

「出来ます。契約の移行という方法があり、これまでされたことがあります」


 力のある聖獣であればあるほど、人間は力を貸していてほしいものだ。聖獣に提案を持ちかけ、了承を受けて契約の移行が執り行われることがあるのだと簡単に説明された。


「ベアドが私の召喚獣だとは知られていますが、セナはエベアータ家の者ですから、私から契約の移行をしても何もおかしくはありません。タイミング的にも、今回あの場にいた者で召喚獣を失った者がいます。ライナスも含めですね。彼らは後日、召喚の儀式を行うでしょう」


 つまり、セナも召喚獣を失った一人に含めればいいと言っているのだ。タイミング的に急にではなく、極めて自然になりさえする。


「……お父さんは?」

「私が何ですか?」

「ベアドとわたしが契約してしまったら、お父さんはどうするの」

「私には聖剣があります」

「でも、お父さんが歳を取るのを止めてたのはベアドの影響なんでしょ……?」

「今影響が解かれたからといって、急激に歳をとるわけではありませんよ。とったところで、他の元帥も聖剣を持ってはいます。元帥は、本当のところはもう戦わない地位にあるので全く支障はありません」


 きっぱり言われた。

 いつの間にこの人は考えていたのだろう。砦に戻ってくる間だろうか。


「……ベアドはいいの?」


 黙ってそこにいた聖獣を見て尋ねれば、


『いいぞ』


 こちらからも即答が返ってくる。

 なぜにそんなに即答できるのか。


「元々ベアドとは話していたことがあります」

「元々……?」

「セナが召喚の儀式に万が一失敗したらという話です」


 そんな話をされていたのか。

 色々またも急な話に置いていかれそうになりつつ、不意なショックを受けつつ……セナの頭はすっと冷静になる。


「……お父さん」


 養父が、砦に戻るなりこんな提案をしてくれた。

 その事実に、頭の一部分が冷静になった。


「わたしの召喚した聖獣は聖獣じゃなかった、わたしは白魔を召喚してた」


 訳が分からない世界に放り出されて、今一番訳が分からない。

 聖獣を召喚したはずが聖獣ではなく。この身は何なのか。


「わたしから言えることじゃないと思うけど」


 教育を与えてもらった自分から言えることではなく、そうされると今のセナは後から困ったことになると思うのだろう。

 でも、今ガルと話していて、自分のこれからは頭になかった。

 恩を仇で返そうとしている。とてつもない迷惑と手間をかけている。

 彼は、跡取りがほしくてセナを引き取った。けれど、こんな厄介な跡取り、欲しいはずがない。

 今までも自信なんてなかったなりにやるしかないとやってきた。

 けれど今、強く、感じた。


「わたしのことは、切り捨てちゃった方が手間がかからなくていいんじゃ」

「セナ」


 最後まで言うことは出来なかった。


「よく考えてからものを言いなさい」


 言葉を遮った声も、続けて発された声もセナが口をつぐむ重さがあった。

 養父が、怒っているような空気をうっすら感じた。それも笑顔で有耶無耶になりそうな怒りではなく、目から怒っている。


『おい、ガル』


 聖獣に言われて、ガルはセナが喉に声を引っかからせ、固まっていると気がついたらしい。


「ベアドルゥスとの契約は前向きに考えてください」


 話は以上ですと、話は打ち切られた。

 淡い色の目が、同時にセナから離れる。

 ガルに目を逸らされたと感じたのは、初めてだった。

 ごめんなさいとセナは呟いて、部屋を後にした。








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