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転生少女は召喚士になる  作者: 久浪
二章『伝説の悪魔、天使の遺したもの』
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19 白猫?





 雪が降っている。

 先程までの晴天は曇天に。気温も真冬並みだ。雪が、全てを覆い隠してしまう幕のように降り注いでいる。

 雪が散る視界で、セナの前には『誰か』が現れていた。

 猫がいた位置でこちらに背を向け立つ『誰か』の、雪のように真っ白な髪が微風に揺れている。


「お前」


 その声は、聞き慣れない声だった。

 目の前に目を取られていたセナが見ると、赤い髪の白魔がいた。

 一時、本当に一時だが、白魔の存在が頭から抜けていた。

 視界を染める色が真っ赤から真っ白に変わり、体感温度も景色も雪降るものと様変わりし、あまりに何もかもが変わり、全てが夢であったかのような錯覚を抱かせられたのだ。

 しかし夢であるはずはなく、景色が変わったこともまた現実で、雪を背景に赤い髪の白魔が苦々しい顔をしていた。

 睨んだのは、セナの前にいる『誰か』だ。向けられている視線がずっと高い。

 その白魔の体を突如炎が包んだ。

 攻撃されるかと思いきや、パキンと何かが割れる音がして、ゆらりと炎の端が揺れると共に赤い髪の白魔の姿が曖昧になっていく。


「愚かだな。私の前で、私の守るべきものを葬ろうとして逃がしてやるとでも?」


 付き合いは短けれど、毎日、四六時中側にいて聞き慣れていた『相棒』の声が言った。

 だけれど見慣れた白猫の姿はなく、声は目の前の見知らぬ背の人物から出てきた。


「よりによってこれに手を出した自らの行いを呪えよ」


 微かに感じていた炎の熱が、かき消された。気温が一瞬にしてより低く。

 そして、突如前方に巨大な氷の柱が生えた。

 白魔が、中に閉じ込められていた。炎がちらちらと生じ、パキリパキリと氷がひび割れる音と透明な氷に入る線を見たけれど、柱がそれを上回る速度で太くなっていく。


「魔界に戻ろうとしていたな。ならば返してやろう。──私の領域で未来永劫眠っているがいい」


 こちらにまで届く大きさになるのではと思われた頃、氷の柱は潰れるように背丈が低くなり、最後には氷が張る地面が残るばかりだった。

 冷気に肌が寒さに粟立つのを感じながら、セナは周りを見た。雪が降っているせいか、白ばかりで炎の色は僅か足りとも見えない。


「ああ……疲れた」


 目の前の衣服が揺れ、前にいる『人』がセナを振り返った。

 銀色の目がセナを見下ろす。

 人ではない。先程の白魔と同じく、形は人でも、感じさせられる空気が異なる。

 では、『何』か。


「生きているな」


 お陰様で、ありがとうと、契約している聖獣と同じ声に返事することは出来なかった。


「……ギンジ?」


 目の色が違うどころか、姿形が獣ではなくなった。だけれどもしかして、もしかすると、大きくなったりするように聖獣はこんな姿にもなれるとか。


「そうだ」


 ギンジの声は、肯定した。


「えぇ……自分で言っておきながら、嘘だぁ」


 白い髪は白猫の名残を感じるが、銀色の目は寒色系で冷たい色だ。何より精霊とは異なる雰囲気の整った美貌を持つ人型だということが、ギャップどころではない。


「と言うか、猫の姿よりそっちの方が便利なんじゃ……」

「あれはお前が喜ぶ姿だからだと言っただろう」

「どっちが本当の姿なの?」

「もちろんこちらだろうな」

「えぇ……」


 嘘だろう。

 雰囲気を無視して形だけ見ると、成人男性が正体なのに、猫の姿を可愛がっていたのかと思うと……。


「それよりギンジ……ギンジって言うのも違和感出てきた……」


 猫なら気にならなかったけど、日本人顔じゃないし。自業自得だろうか。


「白魔と張り合えるくらい強かったんだね」


 若干混乱し、混乱の源を頭の隅に押し込めつつ言ったが、……でもとなる。

 この場に炎の代わりに満ちた力は、聖獣の清廉さと言うよりは──そして、自らが経験したこともまた頭に甦ってくる。

 前を見上げると、見慣れない姿の召喚獣が、手をこちらに伸ばす。

 肉球が存在する獣のものではない手が、セナの頭に触れた……かと思いきや、


「え」


 いきなり前に引き寄せられ、セナは顔面をまともに打った。








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