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転生少女は召喚士になる  作者: 久浪
二章『伝説の悪魔、天使の遺したもの』
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5 考察


ガル視点。








 今最優先で考えなければならないのは、いかにして炎火の白魔に対抗するかだ。

 だが、今ガルの頭の隅には無視するには少々気になる事項が存在感を放っていた。

 そのため、ガルは五分前に養女が出ていったばかりの扉の方をちらりと見た。


『心配なら心配だって言えばいいのになぁと俺は思うぞ』

「……新人にしては少々危険な状態の地に放り込まれていると思っているだけです」

『はは、お前自分のことだったらそんな風に思ってないだろ』

「うるさいですよ、ベアド」


 これまでの人生の半分を越える年数の付き合いとなっている聖獣は、中々の減らず口だ。


『じゃあ俺が代わりに、仕事が嫌になったら言えよって言っておく』

「それでセナが言ったらどうするのですか」

『仕事やめればいいだろ。それでノアエデンで暮らせばいい。精霊が喜ぶ。今は精霊は喜んでない』

「……」

『お前の跡継ぎ問題なんて、最悪跡継ぎがいなくてもいいだろ。家だ何だと俺には重要性が分からないからそう思うだけかもしれないけどな』

「大変な暴論ですよ」


 聖獣には分かりようのない事情だろう。

 結婚せず、自分の血筋を残さないと決めた自らが、なぜ養子を取るようなことをするのか。一般の家に生まれたなら、そんなことはわざわざせず家ごと絶やさせただろう。

 しかしせめて家を途絶えさせないことは名家に生まれた義務である。そして血筋を残さないなら、残さないなりに優秀な人間を迎えるべきだ。

 セナという少女は、天使の加護を大いに持ち、召喚士や聖剣士になれる高い素質を持っていた。跡取りにするのに、あれほどの才能を持つ者は中々見つからない。

 ただ、その才能の理由である精霊の愛し子であることが、誤算であると言えば誤算であったが。

 エベアータの血ではない者を一度入れたなら、もう構うまい。セナが自分の跡継ぎをどうするかは彼女が決めればいい。

 ところでその少女は、こう見えて契約主以外には進んで関わりを持とうとしない聖獣の性質を例外なく持つ、ベアドルゥスに気に入られていた。


「そもそも、今私が考えていたことはセナのことではありますがそれではありません」

『じゃあ何だよ』

「ライナスが、私がセナを引き取ったのがいつかと聞いてきたでしょう。あれはなぜかと思いました」


 ライナスとも一対一で話をする機会があった。その終わりに、あることを聞かれた。


 ──「エベアータ元帥」


 一度話が終わった後で、呼び止められた。

 話を続けてしなかった辺り、少し迷ったのではないだろうか。その後言葉を続ける前にも、一瞬躊躇いのような様子が見えたからだ。

 ライナス・メリアーズには見たことのない様子だったので、印象に残っている反面、見間違いだったのかとも思える。


 ──「セナはあなたの養女だそうですが、いつからですか」


 珍しい様子を見せながらも彼がしたのは、ガルの養女についての質問だった。

 違和感を覚えるのはすぐだった。

 なぜそのようなことを聞くのか。ヴィンセントの従者となったセナと面識があり、それなりに話す機会があってもおかしくないが、普通に考えてそのような質問をする理由が分からない。


 ──「さあ、忘れました。さほど重要なことではありませんから」


 ガル・エベアータにとって重要であるのは、養子が出来たことのみ。そう捉えられる答え方をしたのは、短い間の思考を経ての無意識の選択だった。


『答えてなかったよな。ガル、覚えてなかったのか?』

「いいえ。覚えていますよ」


 四年前の冬だ。覚えていた。だが、答えないことを選んだ。理由は、質問の理由が推し量れなかったからだ。

 あれは何だったのか。

 もしライナス・メリアーズが普通の会話の流れで、軽く聞いて来たならば答えていたかもしれない。質問自体は、答えても何も困ることのないものだ。

 しかしながら、タイミングとライナスの様子が妙に引っかかった。引っかかったと言い、こうして考えても、質問には特別何の意図も感じ取りようがない。


『四年前の冬だよな』


 こちらが深く考えすぎているだけか、そうでなくとも質問に意味が感じられないという判断を下そうとしていたときのことだった。


「おや、ベアド。君がそんな細かなことを?」


 ベアドルゥスが口にした年数は、間違いなくセナが養子となった頃だ。

 契約したのが何年前かも覚えていなさそうだと思ったところだったため、ガルは意外感を覚えた。

 ベアドルゥスは『不思議とな』と言う。


『今回また会って分かったんだけどな、セナは長年居慣れた寝床みたいな感覚があるんだ』

「セナが『長年居慣れた寝床』なら、私はどうなるのでしょう」

『ガルは、綺麗に整えられた寝床ってところだな。居心地はどっちも良い』

「それは召喚した身として安心しました」


 白魔が影響を及ぼした地を見てきた際、ベアドルゥスは少々刺々しくなり黙りを決め込んでいたが、セナに会った頃にはすっかり機嫌が直った状態で出てきた。

 当のベアドルゥスは『力の名残への反応がちょうど消えたんだ』と言っていたが、精霊の愛し子は、聖獣にも同じような性質をもたらすのだろうか。

 母が教会に属していた頃にベアドルゥスが召喚されていたなら、同じような反応をしていたのだろうか。

 ただどちらも身内であることを思えば、契約主の身内であることがこの反応に繋がっているのかどうか。

 いや、ベアドルゥスのこの様子は、セナが養女になったからと言うより、その前から予兆は見られていたような。


『なあ、ガル。ここに来るのにわざわざ名乗り出たのは、セナがいたからじゃないのか?』


 また思案していた最中での問いに、ガル「エデやノエルたちが心配だと言ったからです。時折泉に映らなくなるときがあるそうなので」と返した。


「白魔の影響で泉に映らなかった……とは考えられます」


 考えなければならないところに、巡り巡って戻ってきた。


『と言うかこの地、すでに妙に悪魔の気配がするんだよな』

「悪魔が頻繁に現れているからではないのですか」

『違う。もっと規模がデカい。ここら一帯に漂ってる』

「雪解けのこともありますから、すでに白魔の影響を受けているということは?」

『うー……ん、そこはよく分からないんだよなぁ』


 よく分からない。不思議な言い方だ。

 白魔の力になら敏感だろうに、そうではないともそうであるとも断言が出来ていない。妙な状態だ。


「ベアドルゥス」

『なんだ』

「君が白魔と戦って勝てますか」

『負ける』


 間髪入れずの返答だった。悩むこともない、完全なまでの即答だ。


「そこまで即答されると、内容が内容なのでとても困るのですが」

『そうは言ってもなぁ。俺だって不本意だけど自然にたどり着いてしまう考えなんだ。悪魔は悪魔でも、白魔と対等でいられるのは天使だけだ。少なくとも一対一じゃあ、絶対負ける』


 では、複数体ならば勝機はあるということか。元よりそのつもりではあるが、ベアドルゥス級の聖獣はそういるものではない。

 ライナスの契約獣のラヴィアはそうだ。能力に差はあるが、そのラヴィアがついていたライナスは重傷を負って帰還した。


『今日言ってた武器って言うのは何なんだ? 秘密兵器って言ってたろ。聖剣か?』

「ああ、エドの言っていた武器のことですか。私はまだ知りません。早急にこちらに来たのですから。こちらに持ってくる前に、検問を兼ねて今頃首都で話している頃ではないですか?」

『えぇ……』

「本当に突然だったのです。他の武器の存在など想像もしていませんでした」


 ただ思うのは、メリアーズ家が裏で何かしているのは勘づいていたので、秘密兵器の内容はさておき、政治のくだらない悪巧みではないようで良かったということだ。


「ゆえに、にわかの武器とやらに期待しすぎるのも愚かなことです。現時点ではそれを抜きにして対策を講じるべきです」


 ベアドルゥス級の聖獣でも一体では絶対に負けるというほど敵わない。それなら質を維持しつつ数で対抗する手しかないのだが、聖剣の方はどうなのか。

 側に置いている聖剣を見やる。


「聖剣の力を最大限に解放する方法がありますね」

『止めとけ。即死とはいかないだろうが、死ぬぞ。生命力を削る』

「そのようですね。剣自身に制止されるほどですから」

『おいおい、やろうとしたことあるのかよぉ』

「確かめておこうと思いまして。やめましたが。このままでは絶対に死ぬ、命を捨てても惜しくないというときに使った方が良いと言われました」

『正しいな』

「それが今回なのではと思っています」

『確かにな』

「少しくらい否定してはどうですか?」

『いやあ、全員ギリギリまで力使うか、安全策取りすぎて全員死ぬかだよなあと思うな正直』


 この聖獣の断言を悪い方向で得るのは、先が暗すぎる。


「パラディンを全員集めるべきでしょうかね」


 伝説に聞く白魔の存在は一つではない。

 一つ出てきた今、異なる場所に出るのではないかという念のためでパラディン二人を含めた上位戦力が本部に残されている。

 だが複数体出てくるとしても、いっそ一体一体総力で当たって撃破していく方針の方が良いのではないか。


「……特別な武器と言えば、天使が落とした『天使の剣』がありますね」


 名の通り、天使が所持していた剣だ。

 悪魔に殺された天使が、結局抜くことはなかったと言われている剣だ。二千年前、地に落ちてきた一振りがある。

 聖剣も天使が所持していたものだが、天使の剣と呼び分けられているからには、聖剣とは明確に異なるものだ。

 天使の剣という言葉に、聖獣が顔をしかめる。


『おいおい無理だぞ。あれは人間が使えてる聖剣とは訳が違う』

「もちろん知っていますよ。聖剣士が使用している聖剣は、天使が作ったもの。ゆえに人間も使えます。しかし天使の剣は神が天使のために作ったもの。人間には使用不可です」


 持てさえしない。持つことが許されない。

 聖獣は触れられるようだが、使用できない。

 だから話題には出せど、本気で武器として考えているわけではなかった。

 人間は人間に与えられたもののみでどうにかしなければならない。守るのは、人間世界なのだ。















しばらく週末辺りの更新にします。



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