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転生少女は召喚士になる  作者: 久浪
二章『伝説の悪魔、天使の遺したもの』
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3 再会





 雪がまだ少し残っている北の砦に、空から現れた大きな鳥がいくつも降り立つ。


「来たな」


 鳥が次々と降り立つ光景は、建物内の窓からも見えていた。

 鳥から降りてきた人たちは、いずれも白い制服を身につけている。教会本部からの人員だ。

 教会から新たに派遣されてきた人員を出迎えることなく、いつものごとく会議室にいると、数人の人間が入ってきた。

 一人を先頭に、十人ほど。


「パラディン・ヴィンセント・ブラット様」


 砦の責任者には目もくれず、先頭の一人がヴィンセントを見つけて頭を下げた。ライナスはいない。

 制服には、金の記章が光る。見れば、十人全員が金の記章だ。


「エベアータ元帥は」

「はい。悪魔の被害を受けた問題の地を見に行かれるとのことで、後ほどお着きになります」


 ガルはまだ着いていないらしい。


「パラディンは来ているのか」

「はい、入ってきたところまでは一緒にいらっしゃったのですが……」

「誰が来たんだ」

「オ──」


 声を遮るタイミングで、激しく音を立てて扉が開いた。


「ここね?」


 立っていたのは、一人の女性だった。正確に言えば後ろにもう一人女性がいたが、前に立つ女性が堂々と立つ様に目を引かれずにはいられない。


「オルガか」

「ヴィンセント・ブラット。ということは、ここで合っているようね」


 ヴィンセントの姿を認め、女性はこちらに歩いてくる。

 深緑色の長い髪が一つの三つ編みにされ前に流され、前髪もなく露になっている黄緑の瞳はぱっちりと大きい。

 真っ直ぐに歩いてくる美人の両側に、召喚獣と思われる白い獣の姿が二つある。


「なるほど。迷っていたのか」

「迷っていないわ!」


 ヴィンセントの呟きを拾い、即座に否定した女性は、気分を害した様子で少々乱雑に三つ編みを払う。


「まったく、失礼ね……」


 ヴィンセントの前にいた金の記章の人たちはとうに横に退き、歩いてきた女性がヴィンセントの正面に立つ。

 白金色の記章──この女性は。


「ライナスは?」

「外だ」


 ヴィンセントと対等に喋り、ライナスも呼び捨てにした女性は腕を組んで、首を傾げる。


「重傷と聞いたわ」

「もうほぼ治っている」

「ほぼ、ね。それで、白魔が出たとか意味の分からない話を聞いたけど」

「その話はエベアータ元帥が来てからまとめての方がいいだろう」

「ああ、そう」


 ふん、と鼻が鳴らされ、女性がヴィンセントから目を逸らす。

 行動を心得たように、ついてきていた女性が椅子を引き、ヴィンセントと話していた女性が座る。


「銅階級が、どうしてここにいるの?」


 黄緑色の目に捉えられたのは、セナだった。


「雑用にしては動いていないようだけど。……まさか、あなたの従者?」


 セナの立ち位置を見て、黄緑の目はヴィンセントを見やる。


「一応」

「またクビにするつもり?」


 冷ややかな目と、言い方だった。

 セナがその全てを向けられたなら、ちょっと気後れしそうなものだったが、ヴィンセントは欠片も表情を変えず首を振る。


「いいや。一応と言ったのは、単純に彼女がずっと従者でいるような家柄ではないからだ」

「家柄とは」

「彼女の名前はセナ・エベアータ」

「エベアータ?」

「エベアータ家の娘だ」


 それ聞き、女性の目が直ぐ様セナを見た。


「エベアータ元帥の……? 結婚されてなかったわよね。養子?」


 目が向けられているのはセナだったので、セナは頷いた。


「養子って、何考えてらっしゃるのかしら。血筋を残さないつもり? 他の家もそうだけど、何を考えているのか分からないったら……」

「セナ」

「はい」


 眉を潜め何事か呟く女性をそのままに、ヴィンセントに呼ばれた。


「彼女はオルガ・イエルカ。イエルカ家の跡取りで、パラディンだ」


 白金色の記章の時点で薄々分かっていたが、三人目のパラディンがここ北の砦に現れた。


 それから三十分後のこと、今日ここに現れる最後の人が姿を現した。

 晴れた空の下、見慣れた鳥が二羽降り立つ。

 その内の一羽から降りてきた人の白い衣が揺れる。セナが見てきた中で、一番白い衣服が似合うと思う人だ。

 ガル・エベアータ──養父だ。


「ここはやはり首都より寒いですね」


 相変わらず麗しいガルは、辺りを見渡してから、澄んだ色の目で、立っているセナを映した。


「セナ、久しぶりです」

「……久しぶり、お父さん」


 他に近くにいるのは、ガルの側で影のようにひっそりと控える人のみだ。おそらくガルの従者だと判明した人である。当然セナも知る人だ。


「そこそこって、全然そこそこじゃなかった……」

「何がですか」


 まさかまさかまさかとは思っていたけれど。

 セナのため息を吐くような調子の言葉に、ガルが首を傾げた。

 ガルが元帥という地位を持っているとは思わなかった。何しろ、エベアータ家の格のすごさについても、エレノアに会って知ったようなものなのだ。

 四年の間にベアドに聞くことがあって、『そこそこみたいだぞ』と言われたのはよしとしよう。彼は聖獣だ。人間の作った階級制度に明るくなくてもおかしくない。

 でもガルにも聞いたし、彼の従者にも聞いたのに。「それなりの地位はいただいていますよ」とか領主の方が重要視されているとか言われたら、誤解する。

 それなり、の度合いが低くなるではないか。

 大体、それなりがいくら事を曖昧にすると言っても、今回の場合は適切な言葉ではなかったと断言する。

 それなり?

 最高階級、最高位、元帥──一番上の地位をそれなりとは言わない。


「お父さんは、記章をどこにつけてるの?」


 自分の銅階級を表す記章を示しながら聞いてみた。

 するとガルは上衣を捲ってみせる。彼が中に着ていた服は、セナと同じようなデザインのものだった。

 以前ノアエデンにいた頃見ていたのは、もっと動きにくそうな衣服だったように記憶している。

 その制服の、セナが記章をつけている位置と同じ位置を指が示す。


「これです」


 デザインが違う!

 色が違うのは当然だけれど、あとは模様が違うとかいう話ではなく、形から違う。飾りがついている。

 これは、おそらく見えるところにつけられていても知らなければ記章だと思わない。


「記章がどうかしましたか?」

「……お父さんの地位、明確には知らなかったから」

「そうでしたか。ああ、そういえば明確に言った記憶がないですね。あまり早くに言うと、無駄に気負うかと思いまして。今は分かりますか?」

「元パラディンで、元帥だって」

「元帥になるにはパラディンを通りますからね」


 造作もなげに言う養父は、上衣を戻しながらも微笑んだ。

 ああまったく、この人は……。


『よ、セナ!』

「ベアド」


 不意に出現した模様から、彪の姿の聖獣が現れた。


『元気か?』


 セナにすり寄るように体を触れさせながら、ベアドは尋ねてきた。


「うん」

『そうかそうか』


 この聖獣は、こんなにもすりすりしてくる性格だったろうか。随分久しぶりに感じる大きな獣の頭を撫でると、ベアドは満足そうにした。


「?」


 頭を撫でていると、頭に重みが加わった。

 視線をあげると、ガルがこちらに手を伸ばしていて……これは頭を撫でられている……?

 微妙な手つきだが、頭を撫でられていることは疑いようがない。


「お父さん?」


 なぜに頭を撫でるのか。そんなこと、これまでしてきたことなかったではないか。


「近況について聞きたいことはありますが、まずは仕事をしましょう」


 言葉と共に、頭から手が離れた。


「他の者は着きましたか?」

「うん」


 本日来る予定の人間は、ガル以外到着したと報告があった。


「そうですか。では、行きましょう。どこに行けばいいのか案内してくれますか?」


 そのために、ここにいる。

 セナが歩きはじめると、ガルも歩きはじめた。










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